短編【1】

□パッション
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カカシもイルカも、同性と寝るのは初めてだった。
前線経験のあるいい歳の忍同士としては、珍しいことだったかもしれない。
ふたりとも知識だけはあったのでどうにか最後まで行うことはできた。
はたから見ればそれはおそらく、たいへんにみっともない初夜だったろうけれど。

オレは内勤だし突っ込まれる側でいいですよ、と言ってくれたイルカは、それはそれは男らしかった。
が、覚悟で肉体的な負担を軽減できるわけではない。
カカシの方も純粋に快感のみを追える状態ではなかったが、ぎこちなく律動を行う合間にイルカの表情を観察するくらいの余裕はあった。
眉を寄せ唇を噛みしめるその顔には、セックスが与えるはずの悦楽や充足は見当たらない。
むしろ、受難に耐える聖者のような厳かさすら感じさせた。

これは、自然の摂理に反した行為なのだ。
それでもなお自分たちが体を繋げたのは、その奥にある心に触れたいと思ったからだ。

食い入るように見つめるカカシの視線を感じたのか、イルカが瞼を持ち上げる。
目が合うと、安心させるようにうっすらと微笑んだ。

赦されている。
この人は、こんなことをされてもかまわないほどオレを愛してくれている。
カカシはそう思った。


だが、日を追い回数をこなすうちに、その思いは揺らぎ始める。

「…う、んっ…」
イルカが漏らす声が色づき始め、行為の中に快楽を見いだせるようになったことにカカシは気づいた。
それは自分とて同じだ。体が馴染む、という感覚は女相手のときより顕著だった。

喜ぶべきことのはずなのに、どす黒い雲が心を覆ってゆく。
この行為によりもたらされる悦びは、カカシにとっては不純物のように感じられた。
後ろめたさとは違う。イルカを愛したことに後悔はない。
しかし、だからこそ。
心と心だけで結びついていたいのに。

快楽に引きずられる彼を見たくなかった。
この人はいつか、相手が自分でなくても、抱かれれば声をあげ腰を揺するようになるのかもしれない。
そんな思いに囚われ、ついひどくしてしまいそうになる。
抱くたびに体と心が乖離していく。
それから逃れるには、イルカに触れないより他に方法はなかった。
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