短編【1】

□群青
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「おっちゃん、ごっそさん!」
「おう、また来いや!」
店主のテウチから釣り銭を受け取ると、イルカもナルトを追って外に出る。

辺りはもう夕闇に包まれ、家々には灯がともり始めていた。
それを愛おしそうに眺めたナルトは、頭を巡らせて火影岩に目を留める。
二年半前、里を出たときにはなかった五つ目の顔岩。

「…変わってないようでいて、変わってるんだよなあ…」
「そうだな。時はしっかり流れてるってことだ」

木ノ葉隠れの里は復興し、砂隠れでは我愛羅が風影になったという。
オレは…オレも、少しは成長できているだろうか。

「なあ、イルカ先生」
「ん?」
「先生は、なんか変わった?」
「なんかってなんだ」
「ほら…その、嫁さん見つけるとか、さ」
「ああ」
イルカは思わず苦笑を浮かべる。
「そうだな。そろそろ心配されるような歳だよな、オレも」
言いながら髪をくしゃくしゃと撫でられて、ナルトは少し後ろめたい気持ちになった。

たしかに心配ではあるのだ。意味合いは逆になるが。
この先生にだけは変わっていて欲しくない。
自分が里を空けていられたのは、変わらずに待っていてくれる人がいると思えばこそだ。
だが今本人が口にしたように、イルカもとっくに伴侶を得て家庭を持っていてもいい年頃で、そうなれば自分との関係もこれまでのようにはいかない。
会いに行けば時間を作り、ともにラーメンを啜ってくれる、これまでのようには。

それを怖れる一方で、イルカに幸せになって欲しいと思う気持ちもほんとうだ。
修業の旅に出る前、すでに適齢期と言われる年齢だったこの先生が自分のせいで縁遠くなっていることに、ナルトも気づいていた。
イルカとつきあうのならもれなくあの子どもがついてくる、と里の若い女たちが噂しているのは嫌でも耳に入ってくる。
当時の自分は、それでもイルカを手放したくはなかった。
イルカが自分の世界の中心であり基盤だったのだ。
彼が自分を認めてくれたから、自分はこの世に在ってもよいのだと信じられた。

今でもその思いは変わっていない。
けれどあれから自分にも、いくつもの出会いと別れが訪れた。
もう二度と会えない者のことは、悲しいけれど、時とともにその事実は受け入れられるようになることを知った。
だが今、脇目も振らず他のすべてを擲ってでも取り戻さねばならない者がいる。
ならばその間、この人に変わらずにいて欲しいと願う権利は、自分にはない。
それを己のわがままだと認められる程度には大人になれたと思う。

ポケットに手を入れ、その中身を握りしめながらナルトは尋ねた。
「先生はさあ。失恋ってしたことある?」
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