短編【1】

□恋につける薬
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「シズネさん」
呼びかけられ、日だまりのような笑顔で近づいてきた男に笑顔を返す。
「お帰りなさい、イルカ先生」
「手配は済ませておきました。請求書は二、三日中に届くそうです」
「ありがとうございます。助かりました〜」
心からの感謝を込めて、シズネは深々と頭を下げた。

シズネが長年付き人を務めてきたのは、時に常識を逸脱するがゆえに魅力的でもある人物だった。
その主が五代目火影に就任するにあたり、長年の放浪の旅を終えて里に帰ってきたふたりが直面したのは、里の内外の情報不足。
綱手は初代火影の孫であり、かつては自身も伝説の三忍のひとりとして名を馳せた医療忍者でもあるが、里を治めるには知らないことが多過ぎた。
なにしろ、木ノ葉が大規模な攻撃を受け、三代目火影が命を落としたことすら知らずにいたのだ。
忍社会についての情報を意図的にシャットアウトしてきたため、各国のパワーバランスや現在の木ノ葉が占める位置など綱手もシズネも知る由はなかった。

そこでふたりに「特別授業」を施してくれたのがイルカだった。
里の対外的な窓口として受付業務にも従事する彼は、その役割にうってつけである。
本業のアカデミーが休校中でもあり、イルカは火影周辺の雑務も進んで引き受けてくれた。
今も、各国大名や隠れ里への挨拶状とともに送る進物の手配を済ませてきてもらったところだ。

「それと、これ」
「なんですか?」
イルカが示した紙袋を覗き込むと、粋な柄の紙包みが入っている。
「お茶菓子です。老舗のあられ屋ので、美味しいんですよ。お遣いに行ったときは駄賃代わりにこれも買ってきて、みんなでいただくんです」
内緒ですけどね、とイルカは片目をつぶって笑った。
「お茶の時間に、シズネさんも召し上がってください」
「わあ、楽しみです〜」
午後の気だるい時間帯に働く活力を得て、シズネはイルカと別れ足取りも軽く歩き出した。

軽く鼻歌など歌いながら、書類保管庫の前に差しかかったとき。
風に取り巻かれたと思った一瞬後には、扉の内にいた。
目の前にひとりの男が立っている。

「カ…カカシさん?」
はたけカカシはシズネよりもひとつ年下だ。
だが若年の内に上忍となり里に貢献してきたこの男は、年長の忍たちにも敬意を払われ、往々にして敬称付きで呼ばれている。
そのカカシが、どこか冴え冴えとした空気をまといながらシズネを見据えていた。
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