短編【1】

□JOKER
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〈誕生日〉って便利なカード。
それを切ればその日一日は王様だ。


はたけカカシの人生において、誕生日とはさほど大きな意味を持つものではなかった。
生まれてきたことを忌むわけではないが、さりとてこの世に生を受けてありがたいと思ったこともない。
死ぬまでは生きるけれど、それだけのことだ。

たとえば、波風ミナト。
カカシが唯一師事した上忍師は、のちに四代目の火影となったほどの忍だった。
歴代の火影はそれぞれに図抜けたところのある忍達だったが、その創造性と発想の自由さ・柔軟さにおいてミナトを超える者はいなかっただろう。
その彼ですら乗り越えられない惨禍があった。
だが彼が命を擲って救った木ノ葉の里は、壊滅を逃れ、復興し、そして今かつてないほどの隆盛を誇っている。

そういうものだ、とカカシは思ったのだ。
里を大きなひとつの命と考えれば、自分たちはそれを構成する細胞なのだ。
常に代謝し、生まれ変わり続ける。里が生きている限り。

ならば、細胞のひとつがいつ生まれたかなど、気に留める必要もない。

しかしいくら本人がそのように考えたところで、周りから見ればカカシはひとりの独立した人間である。
まだ子どもの面影を残していた時分には大人たちが、名実ともに大人として認められる頃になれば女たちが、
カカシの生まれた日を知りたがり祝いたがる。
そうされることが嫌なわけではないので好きにさせていたが、やはりカカシ自身のためのイベントという意識は薄かった。
ただ一年に一度くらい、そうやって祭り上げられる日があってもいいとは思う。
あまり欲というもののないカカシにはそれでちょうどいいのだった。


だが今年はちょっと違った。
カカシは自らその権利を行使しようと思っている。
相手は同性だ。しかもあまり親しい間柄とは言えない。
こんな時こその切り札だろう、使わずしてどうする。
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