短編【1】

□He's a Rainbow
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よく晴れた昼下がりのこと。
はたけカカシは木陰に寝そべり束の間の休息を取っていた。
顔には愛読書が、開かれたまま乗っている。

忍びであるから、その状態であっても誰かが近づいてくるのにすぐ気づいた。
その気配は知った人物のものだったので、誰なのかまでもわかる。

だからカカシは、敢えてそのままじっとしていた。
だが相手も少し離れたところで躊躇ったまま、それ以上近づこうとしない。
さりとて去ろうとするでもないので、痺れを切らしてつい声をかけた。

「…なにかご用ですか、イルカ先生」

思ったよりも棘のある声になってカカシは内心ひそかに慌てる。
案の定相手は少し怯んだが、腹を括ったか二、三歩前に進み出て言った。

「おやすみの所すみません。そのうえ、業務上の用事でもなくてさらに申し訳ないんですが」

おや、とカカシは意外に思う。
イルカとは久しく事務的な話しかしていない。
にわかにざわつく胸を黙殺して、カカシはつっけんどんに言い渡した。

「でしたら、手短にお願いしますよ」
「はい。…虹が、出てるんです」
「虹?」

予想もつかなかった答えに、カカシは思わず顔の上の本をどけた。
思ったより近くに立っていたイルカは、カカシと目が合うと薄く微笑み、天を指さす。
その先には、中天近くの太陽をぐるりと囲む虹が確かにあった。

「…珍しいですね」
「でしょう?」

虹は通常、太陽が地平近くにある時間帯に出ることが多い。
真昼にこのような形で見られるのは、奇跡とは言わないまでも稀だ。
イルカがこれを自分に見せたがった気持ちはよくわかる。
誰かと分かち合いたかったのだろう。この美しい空を。
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