短編【1】

□水は低きに流れる
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「はあ〜あ…」
街灯が寂しく照らす夜道を歩きながら、イルカは何度目かのため息をつく。
予定では、もっと浮かれているはずだった。なにしろ、見目麗しい女性と差し向いで食事をした帰りなのだから。
なのに、ブルーだ。気持ちが沈む。
(今度も、だめかもなあ)
星の数ほどある苦い思い出に照らし合わせ、イルカはまたため息をつくのだった。

友人に紹介された女性は、イルカの基準で言えばかなりの美人だった。木ノ葉デパートで化粧品の売り子をしているらしい。
そろそろ結婚を考えているという彼女は素朴なイルカが気に入ったようで、さっそくふたりで食事に行きたがった。
イルカとて年頃の男、美女をエスコートしてのデートにやぶさかではない。
彼にしては気張ってこじゃれたレストランへ予約を入れ、楽しみにしていたのだ。

そしてその結果がこの気疲れだ。
忍でない相手とはなかなか接点を見つけられず、なじみのない横文字の並ぶメニューに四苦八苦し、
忍丸出しの己の格好が周囲から浮いていることばかりが気にかかる。
彼女はなにくれとなく気を遣ってくれたが、その物慣れた様子すら自分とは違う世界の人のようで、
イルカはますます身を縮めるのだった。
別れ際にはまた食事に誘って欲しいとまで言われたので、致命的なミスはしなかったのだろう。
だが、事前のあの浮き立つような気持ちは、イルカに戻っては来なかった。
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