短編【1】

□ウォー・クライ
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谷は沈黙に包まれていた。
だがそれは清らかな静謐ではない。充満しているのは血の匂いと重苦しい倦怠だった。


木ノ葉に野盗団の討伐依頼が入ったのはひと月前。
野盗と言っても、忍崩れだという。それもけっこうな大所帯だ。
さらに聞き捨てならないのは、その一団が霧隠れや雨隠れなど好戦的とされる里からの抜け忍を主体としており、
いずれ新しい里を起こす腹づもりであるらしい、という点だった。
だが計画的に準備を進めているわけでもないようで、今はただ定めた拠点の周辺の村々を襲い、食べ物や金品を奪って暮らしている。
理念や理想など持たない、人を殺めるのに長けただけの輩だった。
野放しにしている間に後ろ盾でも得て、正式に隠れ里として独立してしまうとやっかいだ。
依頼主である火の国国主の意を汲み、三代目火影はその時点で動かせる忍の約三割を割いて討伐に当たらせる命を下した。


火の国は広い。
件の野盗団も人数でははるかに勝る木ノ葉を怖れ、遠く国境近くに根城を構えていた。
下手につついて他国領に逃げ込まれるとその時点で手が出せなくなる。
そこで討伐隊は細かく分けられ、アジトを遠巻きにぐるりと取り囲んだ。
用心深くその輪を狭めてゆき、合図を以て一網打尽にする手はずだった。

しかし、敵は思った以上に手強かった。
もとより各里の追い忍をかわすほどの連中だ。包囲網に気づくと迅速に行動を起こし、輪の狭め切れていない一角を突破される。
すぐに陣形を整え直すも戦いながらでは追い切れず、見通しの悪い渓谷に逃げ込まれた。

数はある程度減らしたものの、残っているのは手だれの者なのがやっかいだった。
ここまでの戦いで、木ノ葉側は行動単位であるセルが崩れている。
隠れる場所の多い樹木の茂る谷で、敵は霧や雨を自在に操り、個人で立ち回る暗殺のプロなのだ。
下手に動けば、格好の標的になった。
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