裏道

□けものたちは楽園をめざす
1ページ/6ページ

――身につけていたものをすべて脱ぎ捨て、あとに残ったのは二匹のけものだった。
白い肌に指を滑らせたのを合図にもつれ合いシーツの海へと身を投げ出したふたりは、互いに舌を絡めながら―― 

ぱたん、と閉じた本を傍らに投げ出し、ベッドに大の字になったままはたけカカシは目を閉じた。
何度読み返しても飽きることのなかった一節が、今はなんだか頭に入ってこない。

イルカ先生んとこ行こうかなあ。

この日何度目かの自問に、やはり同じ回数の答えを出す。

やめとこ。
だって、虚しいもん。

ごろりと横に寝返りを打つと、先ほど放り出した本が目に入る。
『イチャイチャバイオレンス』。
カカシが愛してやまない『イチャイチャパラダイス』の、より過激さを増した続編だ。

前作は、言うなればポップでハッピーな恋物語。
主人公とヒロインが身も心も、初々しくも情熱的に愛し合うさまにカカシは夢中になったものだった。

成人指定作品にも関わらず絶大な支持を受け、期待高まるなか上梓された第二作は、タイトルが示す通り愛とエロティシズムのダークサイドに踏み込んだ意欲作だった。
著者・自来也の見せた新境地は、一作目とは違った方向でまたしてもカカシを熱狂させた。
めくるめく濃厚なエロスの世界。
それはカカシ自身の現実とはほど遠いがゆえの憧れであったのだ。

そんなカカシも今や、体だけの関係の相手を持つ身だ。
厳密にはそれだけではないが、そういう仲であるという事実が相互に影響を及ぼさないのでないも同然である。

オレもあの人も男だもんねえ。
ましてあっちはアカデミーの先生じゃ、公にできないよねえ。

でも、昼は清潔感あふれるセンセイが夜は乱れまくりってのは萌えポイントだよね、と半ば無理矢理気持ちを盛り上げたところで、どうにも上げきれない虚しさが残る。
三十路近いカカシにとって、気持ちの伴っていないセックスはもはや単なる肉体労働だ。
近頃はめっきり足も遠のいていた。

あーあ。
なんでこんなことになっちゃったんだろうなあ。

とはいえ、きっかけからして間違っていた自覚はある。
もう1年近く前、任務帰りにばったり会って、いろいろすっとばして安宿に連れ込んで抜いてしまった。計3回。
気まずかろうと顔を合わせる前に退出して、その後のフォローのタイミングを失った。

そのまま約半年、もうこのまま修復不可能かなーと思っていたら、ひょんなことから問題が再燃した。
その際、実は抱かれたかったのだと言われ自分でも驚くほどテンションが上がった。
なんかもう、我ながら馬鹿みたいなことを口走ったのはかろうじて覚えている。
そんなわけでその夜、はりきって彼をいただいたわけだが。

想像していたのと違ったのだ。
主にムードの面で。

一方的に彼をイかせて終わった時は、できるだけ相手が自分であることを意識させないようにした。
あっちは任務の熱を持て余しているだけだから、玄人女になり代わって事務的に処理した方が彼のためだという判断だった。
でもそれがご不満だったとあればそりゃあもうサービスするしかないだろう。
抱かれたいと言うからには惚れられてると思うじゃないか、普通。

でもどうやら、普通じゃない方のケースだったらしい。
初めは緊張しているだけかと思った。男は初めてだったようだし。
だからうんと時間をかけて、持てる技術のすべてを駆使してカカシはがんばった。
慣れていない分を差し引けば、かなりの高得点は取れたと思う。

なのに、イルカの表情は硬いし暗い。
終わったあとのイチャイチャもさせてくれない。
ま、最初はいろいろ衝撃だよねーと楽観視していたのだが、日を追い回数を重ねても一向になびいてくれないのだ。

なんだろう、あの感じ。
例えて言うなら、罰を受けているかのような。

電撃に打たれたかのごとく、カカシはベッドの上で跳ね起きた。
「罰」という表現が浮かんだことも、それがしっくりきてしまったこともショックだった。
だが、そう考えるとすべてがつながってしまう。

あーなるほど、セックス絡みで自分を責めるようなことが任務であったわけね。
でもってヒトの雄であることを忘れようとしてオレに抱かれてんのね、あの人は。

オレって不幸だな、とこういうときカカシは思う。
そういう事情を察してしまう上、理解はできても共感はできないという点においてだ。
脱力感に襲われ、ばたりとベッドに倒れ込む。

忍びだって、幸せになってもいいと思うんだけどなあ。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ