裏道

□罪と罰
1ページ/2ページ

午後十時、イルカ先生の部屋で、オレは二つ折りの座布団に顔を乗せ、腹這いで愛読書を開いている。
だが、時折いかにもそれらしくページは繰るものの、目は活字を追ってはいない。
まあ、そらで言えるくらい何度も読んだものではあるし、これは間を持たせる為のポーズだ。
イルカ先生は卓袱台に向かって持ち帰りの仕事を片付けている。
いつもより硬いその表情に、オレは良心の限界を試され続けていた。

今日、オレは少し長めの任務から帰還した。難しいというよりは面倒な任務で、ランクはA。だから、イルカ先生も内容は知っている。
拝命した時は受付にいなかったので、さすがに先生が割り振った任務ではないと思う。
この人がいかに公私混同を嫌うとはいえ、恋人(オレのことだ)とくのいちを
ツーマンセルで二週間の任務に、平然と送り出すほどではないだろう。

デリケートな工作と辛抱の連続だった二週間がようやく終わり、我ながら見事に任務を完遂したと思う。
その解放感が、まずかった。

同行していたくのいちも、夫婦者を装うためだけでなく、おそらく最初からそういう役割を言い付かっていた。
くさくさする任務を終えた後に、宿を取りましたので今夜はゆっくりしましょうと言われれば、
そりゃいいね、と思ってしまうのが人情というものだろう。
それでも、普通の状態であればオレも手は出さなかった。いや、今さら何を言っても言い訳だ。
オレは、負けたのだ。自分の劣情に。


勘のいいイルカ先生のことだから、なにもかもばれていると思っておいた方がいいだろう。
許す許さないの話で言えば、部屋に入れてくれた時点で少なくとも不問に付すつもりでいてはくれている。そう思いたい。

だからこそ。
オレはこの後の対応を間違ってはいけない。
次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ