ロイヤルナイツの姫君
□勘違い
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デジタルワールドと人間界が衝突しかけたあの日から数ヶ月が過ぎた。新たなイグドラシルとなった士騎聖光希。彼女は時々、大門英やあの時に知り合ったDATSメンバーとメールのやり取りをするようになった
「光希、もうメールはしないのか?」
『・・・つまんない』
「・・・そ、そうか;;」
彼女はとてもつまらなそうに更に不機嫌そうに言う。それを聞いてデュークモンは溜息を吐いた。今でもデュークモンは変わらず彼女の補佐と護衛のまま
『・・・ねぇ、デュークモン』
「なんだ?光希」
『・・・・・・オメガモンと恋人になっても、前と変わらない』
「・・・・・・・・・・・・そうだな;;」
彼女が不機嫌な理由。それは、オメガモンにあった。互いに告白をして、ロイヤルナイツ全員からも公認となった彼女とオメガモン。ただ、会う機会に変化は無い。原因が彼女にあるわけではない。1番の原因は、彼の方にある。つまり、彼が仕事優先の、他のメンバーも頷く程のワーカホリックだということだ。任務、情報処理、報告の受理などなど、ロイヤルナイツリーダーたる彼の仕事はメンバーの中では多く、多忙だ。だからと言っても彼自身が休めばいいだけのことで、その休みに彼女の傍に居てあげればいいだけだ。なのに、その休みと言う休みを彼が取らない。今は復興が最優先で復興に必要な情報統制、処理、任務も多く、いつも以上に激務と言えよう。かと言って、イグドラシルである彼女のもとにそれが来るかと言えば、来ない。殆どのことはロイヤルナイツがしている。それは彼女になる前からのこと
『・・・・・・』
「・・・光希」
『なぁに?デュークモン』
「このデュークモン、我儘を言っても良いと思うぞ」
『・・・・・・』
「そなたは、我慢し過ぎる。言っても良いと思うぞ。傍に居てほしいと」
『・・・・・・でも』
「ん?」
『・・・嫌われたくない』
「・・・・・あのオメガモンが光希を嫌いになるとも思えんがなぁ;;」
『・・・・・・それに、仕事だってこと、分かってるもん』
「だが、アレは働き過ぎだ。いっその事、イグドラシル権限で休みを与えると言う方法もあると思うが」
『ダメ。そんなことしたら、本当に嫌われちゃう』
「・・光希は、考え過ぎだと思うぞ;;」
『・・・』
「そなたは、聞き訳が良過ぎる。それにイグドラシルとなったとは言え、そなたはまだ子どもだ。我儘を言っても、誰も責めはしない。大人であっても、責めることはしないだろう。そなただからな」
デュークモンは、彼女の頬にスッと触れてフッと微笑む。「でも」と彼女が続けよう彼を見上げたら、ツキンッと目が痛んだ
『ッ!?』
「む?目に塵でも入ったか?」
『んっ』
ゴシゴシと擦ろうとしたら手首をパシッと捕まれた
「それでは目を痛めるぞ。ジッとしていろ」
『んっ』
デュークモンが彼女に近づき、ジッと覗き込む。その時、デュークモンの後ろで扉が開いた
「!・・・・・・・・・・・・っ」
扉が閉まる音で光希は誰か来たかと思った。デュークモンも振り返るが誰も居ない
「やれやれ、とりあえず、取れたが・・大丈夫か?」
『ぅん・・でもまだ少し痛い』
「あとでドゥフトモンに頼んで目薬でも貰ってくるとしよう。ところで、誰が来たのだ?」
『ん〜』
彼女がスッと手をかざすと世界樹のセキュリティーにもなるクリスタルが現れた。それは、この世界樹内、デジタルワールド内のあらゆる場所で何が起こったのか知ることにも使われる。そこでそれを利用し、先程の扉が開いたのは誰なのか見た。すると
『ぁ、オメガモン』
オメガモンが来たようだ。だが、彼は扉が開いても入ろうとせず、そのまま去って行った。そこでデュークモンは気づいた。オメガモンが驚いた顔を一瞬していたので気づいた。彼が誤解していることに
「・・・光希、早く、オメガモンを追いかけて事情を話した方が良い。でないとこのデュークモン、盟友に殺される;;」
『え?どういうこと?』
「・・オメガモンの居たあの位置からは、恐らく、このデュークモンとそなたがキスしているように見えたはずだ」
『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?・・・えぇ?!』
彼女は驚いて、デュークモンに「どうしよう」と焦りながら言う
「とにかく、事情を話すのだ。それと別角度からの映像も用意しておいて証拠に見せればいい」
『ぅん!』
タッと光希は走り出した。デュークモンは深い深い溜息を吐いて、ボソッと呟いた
「・・・本当に、あの馬鹿盟友っ」
その頃、タッタッと足早に歩くオメガモン。平静さを装っている彼。先程までいた作業室へ着くと彼以外誰も居ない其処に鍵を掛け、その場に座り込んだ
「・・・光希と、デュークモン、が・・」
デジコアが尋常じゃないくらい動揺してドキドキとして落ち着かない。盟友と彼女の仲の良さは今に始まったことではないし、自分と共に彼女を育ててきたのだから彼女が彼に懐くのも分かっている。だが、だからと言って、キスをするとはどういうことか?恋仲なのは、自分と彼女。なのに、デュークモンとキスをしていた。しかも、彼女の手を掴んでいた。まさか、あのデュークモンが嫌がる彼女にキスしたとでもいうのか
「・・・もし、嫌がっていなかったら・・・」
嫌がらず、彼女がそれを受け入れていたのなら・・
「・・・・・・私は」
光希は、いろんな場所を探していた。今日は、作業室は誰も使用していないので彼の私室、休憩室、食堂、図書室、他にも、ロードナイトモンとインペリアルドラモンが手掛ける庭園と捜したが彼の姿は無い
『何処に行っちゃったんだろう、オメガモン』
ハァッと溜息を彼女は吐いた。久しぶりに彼の顔が見れるのかと思ったのに。あと捜していない場所は何処だろうかと考えて、場所は
『でも、今日は誰も使ってないはずだけど・・』
スッと扉の開閉スイッチに手を伸ばそうとしたら、カチッと扉の鍵が開く音が聞こえた。誰かいるのだろうかと思ったら扉が開いて、明かりの着いていない作業室から腕が出てきて掴まれ、引き寄せられて部屋の中へ。痛いくらいに引っ張られたので痛みで瞳を閉じていたら、ドサッという音と共に背に少しの衝撃がはしるのと同時に扉の鍵が掛かる音が聞こえた。瞳を開けると自分を押し倒している人物が居た。明かりが点いていないがそれでも足元には少しだけ明かりが常時点いている。だから、暗がりでも誰なのかは分かった。ただ、其処に居たのは、こんなことをするような人物ではないはずなのに
『・・・オメガ、モン?』
「・・・・・・・・・」
唖然として、彼を見ていたら、スッと頬に手が伸びてきた。優しく撫でられたと思ったら、キスされる。しかも、深く何度も息を吐く間も与えないくらいに
『んっ!・・っは、んんっ!んっ・・』
「ん・・は・・・んっ」
ようやく、離されて、大きく息を吐く。身体から力が抜けた
『はぁ・・はぁ』
「・・・」
何だか、良く分からない。ただ、何となく怖いと思った。オメガモンが
「・・・」
『・・っ』
「・・・光希」
『ッ!』
名を呼ばれ、ビクリッと身体が強張る
「・・・・・・光希」
『っ・・や』
「・・・・・・」
スッと彼の顔が近づき、首筋にキスをされた。しかも、チュゥッと跡が付くほどに
『んっ・・・』
離されると首筋に紅く蚊に刺されたような跡が付く
「・・・」
『・・オメガ、モン?』
「・・・」
スッと跡に触れるオメガモンの手。少し、ひんやりとした手にピクッと身体が震えた
「・・・光希・・オマエは」
『?』
「・・・・・デュークモンの、ものになる気か?」
『え?』
「・・・オマエは、それを良しとするのか?」
『オメガモンっ、違っ;;』
「何が違う。デュークモンとキスをしていたのだろう?」
『違うよっ、あれはっ』
「っ、何が違うッ・・・」
グッと掴まれた手に力が篭る
『いたっ!;;』
「・・・光希、オマエは私のものだ」
『ぇ?』
「デュークモンには渡さない。いや、他の誰にも渡しはしない。誰にも、渡すものか」
『・・オ、メガ、モン?』
「誰にも、渡さない・・だから」
チュッとキスをする
「・・・オマエを手放す気は無い。やっと、手に入れたのだから」
スリッと彼女の胸に顔を埋めるオメガモン
『・・オメガモン?』
「・・・」
光希は、そっと腕を伸ばす。左手は彼の背に右手は彼の頭に
「!・・・」
ピクリっと彼が反応するが薄らと開けられた蒼い瞳は、うっとりと細められている
『・・・大丈夫。私、オメガモンのこと大好きだもん』
「・・・・・・光希」
なでなでと彼の頭を撫でると安心したように彼が息を吐いた
「・・・勘違い?」
『ぅん;;』
お互いに作業室の床で正座して向き合って彼女は話す。ついでに別角度からの映像も付けて。それに驚いた彼は、カァッと顔を紅くして、項垂れた
「ッ!///」
『・・だから、えっと、デュークモンとは何でもないから;;』
「・・・・・・///」
チラリと見れば、首筋に付けられた紅い跡
「・・・・・その、すまなかった・・光希///」
『ふぇ?・・・ぁ、ぅ〜ぅん』
フルフルと首を振る光希にオメガモンは本当にすまなそうにしている。怖がらせたし、強引に唇を奪ったし
「・・・とにかく、謝ってもも謝り切れない」
『え?別に』
「いや。とにかく、オマエが望むものを何でも、叶える。何が良い?」
『え?・・でも』
「でないと・・私の気が収まらない」
『・・・じゃ、じゃあ、1つ』
「なんだ」
『・・もっと、一緒に、いてほしい、です///』
「!・・・・・・あぁ」
スッと頬に触れる
「・・・・・・ただ、その・・いつも、と言うわけにはいかないだろうが・・努力はする;;」
『・・・ぅん。それでも良い』
ギュッと彼に抱きつくとフッと笑い、彼女を腕の中へ抱きしめた
『・・ねぇ、この後は、仕事?』
「・・・・・・そぅだな・・・いや、今日はもう無い」
『・・本当?』
「あぁ。今日中に仕上げる物は、もう無い」
『じゃあ!・・・ぁ;;』
「?・・・・・・」
何か言いたそうだが我慢している彼女の頭を撫でて、抱いたまま立ち上がる
「・・・我が君、イグドラシル・・何なりと望みを」
『え?』
彼を見れば、フッと微笑んでいたので彼女は嬉しくなった。言っても良いのだと言われている気がしたから
『・・・では、ロイヤルナイツリーダー、オメガモン。私の傍に居なさい』
「御意に。我が君」
そう言って、目を見合わせてクスッと笑った
扉が開く音が聞こえてデュークモンは振り返ると彼女を抱いたオメガモンが居て、しかも、彼の横をすり抜けて、彼女の私室へとスタスタと行ってしまう
「お、おい!オメガモン?!」
「・・ぁ、デュークモン。作業室に書類が置いてあるから、ファイルへの保存をよろしく頼む」
『デュークモン、あとよろしくね』
「え?!ちょ、ちょっと待て!2人ともッ;;」
事情を聞く前に私室の扉が閉まってしまった。しかも、ガチャッと鍵を掛けた音が聞こえた
「いったい、何があったのだッ;;」
デュークモンは唖然として、手の中の書類を落としてしまった
オメガモンは、スタスタと彼女のベッドに向かうとストンッと腰掛け、横になる。腕の中の彼女を優しく撫でて、時折、額にキスをする。いつもなら考えられないような甘い行動。蕩けそうになる彼からの触れ合いに彼女はされるがまま
「・・・光希」
スリッと頬を擦り寄らせ、彼は彼女の胸に顔を埋める
『?!・・オメガモン?』
「・・・ん」
(・・やわらかい・・・暖かい・・・光希の鼓動が聞こえてくる。とても、心地いい)
暫くすると抱く手の力が緩まる。チラリと見れば、彼はすやすやと眠っていた。久しぶりに見る彼の寝顔に嬉しくなって、彼の頭をなでなでと撫でながら彼女も瞳を閉じた
デュークモンは、溜息を吐きながら書類整理に追われ、力尽きたようにベッドに倒れ込んだという
「もう、本当に、誰か代わってくれ;;」
Fin