僕らのデジタルワールド

□2人の聖騎士と最愛の姫
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「・・・行こう、光希」

「え?」

「悪いが、オマエ達は信用出来ない。故に、オマエ達にこの子を渡すわけにはいかない」

「ぁ、アルファモン!待っ・・」


彼女がアルファモンに何か言い掛けるが、アルファモンは、彼女を連れて、飛び去った。姫川マキは、舌打ちをするとすぐに車に乗って何処かへ行ってしまった。太一は、彼女が此方に視線を向けていたことに気づいていた。自分の方に向けられていたので足元を見れば、彼女の鞄がある。持ち上げてみるとやけに重い


「どうしたの?お兄ちゃん」

「士騎聖の奴、たぶん、これが此処にあったから、あのアルファモンを呼び止めようとしたみたいだけど。何か、このかばん、やけに重い」


皆が注目する中、光子郎が鞄の中からデジモン固有の波長があるというので中を確認してみると、筆箱やノート以外に鞄の中の大半を占めているタオル。その中には純白の衣装を身に纏い、マントを付けた人形のようなものが居た。ただ、人形と言うには、問題がある。それは、呼吸するように身体が上下に揺れているし、触れれば温かい


「光子郎、これって」

「さっき、アルファモンが言った言葉を覚えてますか?彼女のパートナーはアポカリモンの仕業で眠りについていると」

「じゃあ、これが?」

「おそらく。あのアルファモンは昨日、人の姿をしていました。おそらく、このデジモンも」


解析したら、ヒットした。ただ、それは


「オメガモン?!」


光子郎の驚きの言葉に、全員が驚く。彼女のパートナーデジモンは、オメガモン。つまり、彼女には自分達の中で最強のデジモンがそのままパートナーとなっている。何故なのか?


「でも、どうして?」

「分かりません。太一さん、そのオメガモンを貸してください。とりあえず、僕なりに解析して、もし、目覚めさせられるようなら、やってみます」

「でも、危険じゃないのか?」

「おそらく、大丈夫でしょう。あのアルファモンでさえ、僕達には話をしてくれたようですし、同じ選ばれし子どもである以上、此方が敵意を見せなければ、大丈夫なはずです。場合によっては、彼女の事やあのアルファモンのことも分かるかもしれません」


太一からオメガモンを受け取る光子郎。選ばれし子ども達は、色々が曖昧なまま、そこで一時、解散となった。翌日、光子郎のオフィスに呼び出された子ども達。彼らの視線の先には、透明なガラスの中で寝かされているオメガモンが居る


「解析してみたんですが、これを見てください」


大型の画面に映し出されたのは心拍数を表示するような画面。そこに二つの波が表示され、1つの波が乱されたようになっている


「時々、下の波が乱されているのが分かりますか?」

「あぁ」


ヤマトが答える


「その乱されているのが、オメガモンのデータ波長なんです」

「じゃあ、このもう一つの方は?」

「アポカリモンがオメガモンに施したウィルス波長です。オメガモンはデータの波長を乱されて、起きれないのだと思います。なので、このウィルスを除去するワクチンを作りました」


3つの波長が重なり、ウィルス波長が小さくなり、画面から消えた。すると乱されていた波はゆっくりと平穏さを取り戻したように流れ始めた。太一が光子郎に聞く


「これで、このオメガモンは目を覚ますのか?光子郎」

「はい。すぐに目覚めるかは分かりませんが」


そう話していると


「・・・・・・んっ」


突然、聞こえた声に皆が目の前に注目した。もそもそと動いたかと思うと眠そうに開かれた瞳は太一達のオメガモンとは違い、緑色をしている


「?・・・こ、こは?・・私、は・・・っ!光希!」


ガバッと勢いよく起きたオメガモンは、透明のガラスに思いっきり頭をぶつけた。子供たちは「あっ」という顔をした


「〜〜〜〜〜〜っ!??;;」

「思いっきり、痛そうだな;;」


頭を抑えて、縮こまっているオメガモンは、少しだけ涙目になりながらも、周囲を見回す。周りにいる子ども達とその傍に居るアグモンやガブモン、テントモン達、パートナーデジモンを見て、此処に居るのは選ばれし子どもか、と考える


「オマエ達は・・選ばれし子ども達、なのか?」

「あぁ」

「・・・光希は、何処にいる?」

「彼女のことで、聞きたいことがある」


太一がそう言うとオメガモンは、考える素振りをしたかと思えば、深緑の瞳は少し睨むように彼らを見た


「知ってどうするというのだ?」

「え?」

「確かに、私は、光希のパートナーデジモン。だが、彼女のことを知り、オマエ達はどうすると言うのだ?何より、私の方が聞きたい。選ばれし子ども達よ、私のパートナー・・士騎聖光希は何処だ?」


そういうと少し殺気を放ち始めた彼は、透明なガラスに手を触れさせて、ググッと少し力を入れるとビシッとガラスに罅が入る。それに慌てる太一達とパートナーデジモン達、ただ、空は少し違っていて


「士騎聖さんなら、アルファモンが連れて行ったから、私達は分からないわ」

「・・・アルファモン、だと?」


空の言葉にオメガモンはガラスから手を離し、空の方を見た


「・・・つまり、アルファモンが連れ去ったと言うのか?」

「そうよ。と言っても、貴方達のことを知っているみたいだし、士騎聖さんも頼りにしているみたいだったから、大丈夫だと思うけど」

「・・・そうか。なら、アルファートが此方に来ているのか」


オメガモンは少しホッとしたように溜息を吐いた。光子郎は、彼女をアルファモンが連れ去り、その場に残された彼女の鞄の中にオメガモンが居たこととアポカリモンのウィルスを除去したことを説明する


「・・・なら、オマエ達に聞くのは、筋違いということか。オマエ達には礼を言おう、選ばれし子ども達。私を目覚めさせてくれたことに感謝する」


スッと頭を下げたオメガモン。内心ほっとした。オメガモンの力を子ども達は知っている為に此処で怒らせたら、どうなるか分かったものではない。ガラスのケースの中から出されたオメガモンはフワッと床に下りる際にその大きさは、大人の中でも、大きいであろうがそれでも、人と同等の大きさなのは、今の彼が人の姿で居る為だろう


「何故、貴方達は、姿を変えられるのですか?」

「・・・オマエ達よりも私達は特殊なのだ。アルファモンには私が教えた。だから、奴は使える。とはいえ、この能力は、誰でも使えるものではないし、この世界では使える者は私達のみだろう」

「オマエ達は何者なんだ?彼女にしても、生まれとか細工されているっていうし」


ヤマトの言葉にオメガモンは少し考える素振りをして、気づいた


「!・・・そうか。つまり、この世界の大人が動いているのだな。なら、早く、光希のもとに行かなければ」

「え?!」


オメガモンはマントをバサリと翻すと部屋の出口へ向かい、初めてであるにもかかわらず、部屋を出て行った。子ども達も急いで彼の後を追う。薄暗くなってきた空を見上げてから、オメガモンは気配を捜した。すると、目の前に黒い車がキッと止まる。オメガモンが首を傾げていると彼の後ろから追いついたらしい子ども達。車の窓が開くと太一が「西島先生」と呟いた


「ぁ、そうだ!西島先生、士騎聖は」

「それで来た。皆、乗れ!」


選ばれし子ども達は後部座席に、オメガモンは助手席に乗る。西島大悟の話によると彼女を見つけたらしいがアルファモンが頑なで状況が緊迫しているらしい。オメガモンは西島を見つめて彼に聞く


「・・オマエ達は、光希をどうするつもりだ?」

「・・彼女が何者なのか、それを知りたい。何しろ、士騎聖の家は、一人娘が居たはずなのに、その子は既に死亡している。なのに、彼女の存在は、データ内にあるし、その一人娘とは、姉妹関係にあるとなっている。だが、彼女の両親は研究者であったから、当時のことを知る者達に聞くと2人も子どもは居なかったと言う。矛盾したことが多いんだ。なら、不安にならない方がおかしいだろう?今の状況的にも」


そう返され、オメガモンは腕を組んで溜息を吐きながら答える


「・・・光希の経歴に矛盾があるのは当たり前だ。彼女は、私も含めて、この世界の者ではない」

「え?!」

「突然、開かれたゲートに巻き込まれ、私と彼女は、私達の世界と似たこの世界にやってきた。その為、デジタルワールド側で・・オマエ達に分かりやすく言えば、ゲンナイ達、となるか。彼らの助力でこの世界においての光希の存在のデータが作られた、ということだ」

「つまり、異世界の者だと言いたいのか?」


西島が聞くとオメガモンは「あぁ」と肯定を示した


「私達は、オマエ達、選ばれし子どもの前の代の選ばれし子どもとして選ばれた。それもある為に、この世界で彼女が生きる為に必要なデータが作成された、というだけだ。それ以外に、彼女は普通の子どもだ。ただ、光希は大人に対して、不信感が強い。いや、大人に限らず、か」

「それ、どういうこと?」

「・・・大人が彼女に対して、そうさせるだけのことをした、とだけ言っておこう。あの子は、大切なものを無くしすぎている。だから、今は、私や彼女の傍に居るアルファモン以外には心を開かないし、信用していない」


オメガモンは、悲し気に瞳を細めた。すると辿り着いたらしく車が止まる。下りれば、アルファモンが彼女を護るように抱きながら、周囲を取り囲む大人たちを睨みつけている。姫川マキに西島が話、黒スーツの大人たちが包囲を解くと、オメガモンがスッと前に出る。それに驚いたアルファモンは腕の中の彼女に声を掛ける


「光希!・・光希!」

「っ・・アルファモンっ、やだっ」

「そうじゃない!見るんだ!光希!!」

「?」

「・・光希」

「!・・え?」


アルファモンを見上げていた彼女は、名を呼ばれて、視線をオメガモンへと向ける。目の前に立つオメガモンに彼女は目を見開いた


「・・・ファイ、ラ、ス」

「・・光希」

「・・・どう、して・・」

「光希、おいで」


スッと手を広げるオメガモン。アルファモンが彼女を抱く腕を解くと彼女は涙を流して、タッと走り出し、オメガモンに飛びついた


「ファイラス!ファイラス!!」

「・・あぁ。おはよう、光希」

「っ、うんっ!うんっ」


ギュッと抱きついて、ぐすぐすと泣く彼女の頭を優しく撫でるオメガモンはアルファモンに視線を向ける。彼はオメガモンの近くにやってきていた


「迷惑をかけたな、アルファート」

「・・だったら、もう、あんな真似するなよ」

「・・あぁ」


そんな感動の再会をしたのだが、オメガモンは姫川らに対して、協力の意思はないことを告げる。「何故か」と問う姫川に対してアルファモンが


「こんなことをされて、協力する方がどうかしている。俺達のことは放っといてくれ」

「・・アルファモン、光希を連れて、先に行っていてくれ。私は選ばれし子ども達に話がある」

「・・分かった」

「光希、アルファートと共に先に帰っていてくれ。すぐに戻る」

「・・・・・ぅん。でも」

「・・大丈夫だ。ちゃんと戻る」


光希はアルファモンの腕に抱かれて、彼の開いた空間移動のゲートで先に家に帰る。その際に空が「またね」と言って、彼女は、驚いた顔をしたが、コクンッと小さく頷いて、帰った


「・・さて、さっき話した通り、私達は、協力は出来ない。彼女の日常を妨げるなら尚更だ」

「それは、牽制ということかな?」


西島が問うとオメガモンは「その通りだ」と言う


「だが、選ばれし子ども達よ。君達の来訪は、心待ちしている。君達なら、光希の閉ざされた心を開くことが出来るのかもしれない。私は、君達にならば、出来る限りは協力させてもらおう」


そう言うとマントを翻してオメガモンはアルファモンが通ったゲートへ向かい、彼らに背を向ける。その背に空が話し掛ける。彼はピタリと歩み止めて、チラリと空の方を見る


「士騎聖さんに伝えて。明日、出掛けましょって」

「・・・あぁ。必ず、伝えよう」


オメガモンはフッと瞳を細めると去って行った。彼が、現れた場所は、玄関前。すると名を呼ばれてみれば、彼女が彼にギュ〜と抱きついた


「おかえり!ファイラス!」

「あぁ。ただいま、光希」


それから、3人で夕食をとった。彼女はオメガモンの腕に抱かれ、ベットで横になっている


「あぁ。そうだ。光希、選ばれし子どもから言伝がある」

「?」

「光希に「またね」と言った選ばれし子どもだ」

「・・・な、に?」

「・・明日、出掛けよう、と」

「!・・・」


光希は視線を下へ向ける。オメガモンは彼女の髪を撫でる


「光希、彼らは信用できると私は思う」

「・・・」

「光希」

「・・1人で行くのは、ヤダ」

「・・分かっている。もちろん、付いて行くから安心していい」

「・・じゃあ、行く」


少し眠そうに答えると彼はフッと瞳を細めて、優しく彼女を撫でる


「そうか。さぁ、おやすみ。疲れただろう?」

「・・ぅん。おやすみ、ファイラス」

「あぁ。おやすみ、光希」


彼女は瞳を閉じるとすやすやと眠り始めた。それから少しして、アルファモンがやって来た


「光希は?」

「眠った。疲れたのだろうな」

「・・で、これから、どうするんだ?何より、何を言ってきた?」

「・・・光希にとって必要なことを、だな」

「・・・必要、ね・・・俺はあまり思わないけどな」

「・・・そうだろうな。オマエは変化することが嫌いだからな」

「あぁ。それに、人間は信用できないね。光希以外には」

「・・・アルファート」

「・・・選ばれし子どもであっても、だ」


彼は、風呂場の方へと歩いて行った。オメガモンは、彼女に視線を落として、自分の右手を見つめる


「・・・私は・・・俺≠フしていることは、間違ってないよな・・ファイガ=v


右手から視線を外し、彼は沈みかける夕日が照らす薄暗い空を見つめた



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