ZXA小説

□遊びにかける想い
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「あっ、ルテク先輩!おはようございます!」

「よっ、お前か」

社会人なら誰もが働いている平日の朝。ご存じ新人ハンター後輩君とその先輩ルテクは、ハンターギルドのキャンプ前で偶然出会いました。

後輩君がルテクの傍まで駆け寄ると、息切れ一つせず彼と同じ速度で歩き始めます。

「今日は早いですね先輩。今からミッションですか?」

「まあな、久々にでかい依頼が来たから結構気合入ってんだ」

「でかい依頼って・・・内容じゃなくて報酬が・・・ですか?」

普段からミッションを選ぶ基準が金だと豪語しているルテクが「でかい」と言うのですから、これは相当すごい金額に違いないと睨む後輩君。そこそこの時間付き合うと大体の考えは分かるものです。

その質問が来るの当時にルテクは即座に後輩君へ顔を向けると、瞳をカッと見開きます。図星ということが丸解りです。

「そうなんだ!今日のミッションの報酬は、これまでの俺のハンター歴最大の額!コイツさえこなせばしばらく生活には困らな」

「ところで先輩、今度ハンター仲間で合コンするんですけど、どうですか?」

この先輩にお金のことを語らせると、一日二十四時間という数字が非常に少なく感じられるため、後輩君は不自然と分かっていながらも話題を変えました。

いきなり話題を変えられて、ちょっと不満げなルテクですが、何も知らない他人に自分の美徳を分かってもらえないことぐらい理解しているので文句は言わず、しぶしぶその話題に乗ることにします。

「おごりだったら行く。でも割り勘だったら行かない」

「重要なのソコですか!?可愛い子とか出会いとかに興味は!?」

「ない」

きっぱり言い捨てました。基本お金と節約のことしか彼の頭にはありません。

堂々と断った彼の表情に迷いはなく、己の判断に狂いはないと物語っています。心の残りゼロです。

彼らしいといえば彼らしいので、仕方がなく後輩はため息をつくと、この人を合コンに誘うことを断念することにしました。しつこかったら怒られそうな気がするし

「大体予想してはいたけど・・・先輩って色恋沙汰に全く興味ないんですね」

「いや、あると言ったらあるぞ」

「え゛?」

こんな返答が来るとは思ってもみなかった後輩君、あ行の文字に濁点を付けるほどの驚きを覚えました。

この反応には癇に障る部分があったのでしょう。ルテクは眉間にシワをよせると不機嫌そうなおもむきを露わにして力説し始めます。

「俺のことを金か節約のことしか考えてない節約人間とでも思ってたのか?一応言っとくけど俺にだって好きな人ぐらいいる。片思いだけど」

「受け止めなきゃいけない現実をさらりとさらけ出すところが、現実主義者の先輩らしいですね。で、誰なんです?好きな人って」

冷静に対応しているように見えて、この先輩から普段聞くことない恋愛トークに対して興味津々なのが見え見えです。あわよくば、話のネタに仕立て上げようと企んでいます。

この時、墓穴を掘ったことに気づいたルテク。仮にここでうまい事誤魔化せたとしても、会う度会う度しつこく尋ねられそうな気がしてなりません。

そう言うのもこの後輩君、人の色恋沙汰に遠慮なく首を突っ込んできては、あれやこれやと意見を述べたり、お喋りのネタにしたりと女の子以上に恋愛話に食いつく男として、ハンターキャンプではちょっと有名になっていたりしています。

以前に他のハンターたちが「奴に恋愛話はするな、根の歯もない噂を広められかもしれん」とか「奴の恋バナに対する情熱は女を超える」とか「普通に恋がしたかったらアイツと関わるな」という噂話をしていたのを耳に入れていたので、そんなに酷いのか・・・アイツ・・・と先輩として複雑な心境になった事がありました。

だというのに、うっかり口を滑らせて好きな人がいることを暴露してしまう失態。ここまでくればもう取り返しはつきません。

「でっ?誰なんです?誰なんですかー?」

「・・・」

ウゼェ、アッシュ並にウゼェ・・・。

この世にアッシュよりウザイ人が存在する訳ないと断定していましたが、この瞬間にはこの自論は根本からひっくり返されました。裁判だったら確実に逆転されています。

ここは言うしかないのか・・・今まで秘密にしていた部分をさらけ出すしかないのか・・・本音を言うまでもなく物凄く嫌だけど・・・

噂話を頭の片隅に入れておきながら、彼に恋愛トークを振ってしまった自分に責任があるのですから、責任を誰かに押し付けることもできず・・・

十七歳の少年の恋心の矛先が誰に向かっているのか、白日の下に曝されそうになった瞬間

それは台風一過のごとくやってきました。

「ん?」

それに一番早く気づいたのは後輩君で、尊敬している先輩の想い人は誰なのかワクワクしている視界の端に、巨大な土煙が入りました。

「どっ、どうした?」

まさか根も葉もない予測を言い出すのかと、身を引きながら逃げるタイミングを窺うルテクの視界に、その土煙は映らなかった様子。

恋バナをすっかり忘れた後輩君。どう見ても尋常じゃない量というか、大きさの土煙に呆然としながらもそれを指し、ゆっくりと説明します。

「いや、何か土煙が・・・」

「どうせアッシュが何かやってんだろ、気にするだけ無駄だ。無駄」

土煙を視界に入れることなく断言すると、ルテクは自然と早足になります。

アッシュが何か企んでいるなら高確率で自分にとばっちりがくはず、だったら今のうちに逃げておかないと折角ゲットしたでかい依頼が水の泡になってしまいます。

ここは目を合わせずに何も見なかったことにしたほうが良い。良いに決まっている。

そう自分に言い聞かせながら早足で歩くことわずが数秒、土煙は猛スピードで彼らに近づきルテクとすれ違った瞬間、腕を使ってがっしりと彼を捕らえ、そのまま連れ去っていったのです。

抵抗する間もなく捕らえられた彼は、罵声に近い絶叫を上げなら、そのまま連れて行かれてしまいました・・・。

「・・・せんぱーい・・・」

十代後半の男を腕だけで捕らえて、そのまま連れ去っていく犯人の腕力に驚きながら、後輩君は呆然としながら消えていく土煙をいつまでも見守っているのでした・・・。

「・・・逃げられてしまった・・・」

とてもとても悔しそうに
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