ZXA小説
□お料理奏死曲最終楽章
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彼女の料理は味覚が崩壊するなんて話しじゃない、人体に破滅をもたらす生きた・・・というか手作りされた兵器なんだ。
僕と友人は彼女の作ったクッキーに始まり、うどんにおでん、レモンの酢漬けで終わった。そう思っていたんだよ・・・。
最近そのこともネタにされなくなってきたし、これで僕達の身も安全かなって思ってた。
でも・・・まさかあんな終幕になるなんて・・・
この時の僕は、予想すらしていなかった。
その日、ツキリは絶好調でした。
「おっしゃあ!次は“残○な天使のテーゼ”行ってみようかぁ!」
「イエーイ!ツキリかっこいいよー!」
「・・・・・・」
ルテクとの賭けポーカーで勝った彼女は、日々の節約に命をかける彼にカラオケ代全ておごることを要求し、承諾を得たお陰で現在アニソンを熱唱。今のメジャーな曲から始まって、彼女が生まれる前に制作されたアニメの主題歌なんかもノリノリで歌っていました。
アニソンというか、歌自体もあんまり知らないサンルはオーダーで飯を頼みながらツキリが歌う曲を熱心に聴いており、成り行きでついて来たベニはただ無表情でタンバリンを振っていました。ちなみにルテクとの距離、約3メートル。
カラオケ代(飯とドリンク代含む)を全ておごらされるハメになった彼は、隅っこの席の方で真っ白になったボクサーのように項垂れて、独り言を呟いていました。
「二度と・・・賭けなんてやらない・・・好物に釣られない・・・絶対に・・・」
「よーし、次はコネ○トいっちゃうよー!さあ、契約だ!」
『おー!』
そこは同意する所ではありません。
日が沈み、その日がまた昇ったとき、久しぶりのカラオケでぶっ続けてテンションを上げまくっていたツキリは・・・
「うーんうーん・・・頭痛いよぉ・・・喉痛いよぉ・・・魔女になるよぉ・・・」
「なりません」
文字通り、風邪をひいて寝込んでしまいました。
ここはツキリたち少女軍団の部屋。朝からずっとこんな調子のツキリは、メンバー内でまともな人物の一人テティスに看病されていました。
ちなみにサンルとベニは風邪がうつっては大変だということで、アルバートが用意した別の部屋に待機しています。レプリロイドに人間の風邪がうつるとは到底思えませんが、これもアルバートなりの配慮なのでしょうね。・・・きっと
「うう・・・最近私の病弱ネタが使われなくなったから、てっきりもう大丈夫なんだなって思ってたらこの有様だよ・・・」
賭けポーカーで勝った所まではよかったんだけどなぁ・・・。と窓の外の景色を遠い目で見つめる少女の額に、水で濡れてひんやりしているタオルを乗せるテティスは優しくも厳しい口調で
「そうやって油断してるから風邪菌にやれてちゃうんだよ。今日は僕が面倒みてあげるから、早く風邪を治してね」
「うん・・・ありがとティー君・・・」
やっぱティー君良い子だなぁ・・・。と感心する中学生。まあ、理由は私がいないとアトランさんの死の料理がやってくる可能性が高くなるから、私にはつねに健康でいてほしいだけなんだよねぇ・・・。とむなしくもなる中学生。
「ヘリオスはともかく皆冷たいなぁ。シャルナクは毎週日曜にどこかに出かけてるし、プロメテとパンドラも朝からいない、それにアトラスだっていつの間にかいなくなってるし・・・もうちょっと僕らの命をつないでくれている人の心配すればいいのに」
「・・・・・・・・・・・・」
ここでツキリは黙り込んでしまいます。テティスの自分を思いやってくれている言葉に感動したという理由もありますが、そんな感動など一旦置いて、彼に伝えなくてはいけないことがあるのです。
彼女の様子の変化に気付いたテティスは、すぐにそれを言葉にしてくれました。
「ツキリ?どうかしたの?」
「いや・・・ティー君にどーしても伝えないといけないことを思い出して・・・」
伝えないといけないこと。ツキリのことだからゲームかアニメ関連の物しか考えられないテティスは、若干嫌そうな表情を浮かべつつも、用件を聞き出します。
「え?何それ」
「実はね・・・」
ツキリの口から放たれた衝撃過ぎる言葉、それに彼は一旦沈黙してポカンとするだけでしたがすぐに目を見開いて驚愕の表情を作り上げると
「たっ・・・たたたたたたた大変だぁぁぁぁ!」
看病そっちのけで部屋から飛び出し、すぐにその姿を消してしまいました。
「頼んだよティー君・・・全ては世界のためなんだ・・・」
布団の中から見守るツキリの目は、戦場へと駆けていく若い戦士を見つめる、熟練の戦士のようだったと、本人は自画自賛気味に語っています。
その頃の完璧主義者。もといヘリオス。
彼は折角の日曜を有意義に過ごすため、自室で静かに本を読んでいました。本のタイトルは「奴を消す」主に暗殺関係について書かれています。
もちろんツキリが風邪を引いたという話は知っていますが、あんな馬鹿のことなんて最近仕事そっちのけで、自室に引きこもって怪しい機械を開発しているアルバートと同じぐらいどうでもいいので、見舞いにも行かずこうして過ごしているわけですが・・・
「ヘリオス!」
絶叫しながら自分の領地、てか部屋に入ってきた青い髪で赤い瞳の少年、テティスはまるで悪い知らせを伝えに来たような不吉な様子で現れました。
四天王中で数少ない常識人の登場に、ヘリオスは機嫌を悪くする様子を全く見せずに本を閉じ、それを机の上に置くと
「なんだテティス、ついにあの馬鹿が危篤に入ったか?今夜が峠か?」