ZXA小説

□俺がお前でお前が俺で
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春一番。といってもリアルでは四月上旬だというのに冷たい風が人々を襲ったり、三月下旬に東北地方でもないのに雪がちらついたりと、全く春の風を感じないわけですが、この世界は違いました。

暖かい日差しに心地よい春の風、そして公園のいたるところに植えられた桜は見事に花開き、その美しい姿を人々に披露していました。週末にはよくお花見をする人もいるそうです。

場所取りのためなのか一本の大きな桜の木の下に、大きなブルーシートをひきその上でぐっすりと眠っているスーツ姿の男の鼻の上に、ひらりと一枚の花びらが落ちた時、彼がいるシートの横を、若い男女四人で合成されたグループが通りました。

「いや〜春祭り満喫してたらアッシュに会うなんて思わなかったわ」

グループの一人、ガーディアンのメンバーであるツンデレのツンしかない少女、エールは右手にりんごあめを持って言いました。

そう、今日はこの町で年に一度の春祭りが行われているのです。今年も無事に春が訪れたことを感謝する祭なんだそうで、実はアルバートが主催しているすんごい祭りなんです。暇なんでしょうかあのオッサンは

「ホントホント、まあそのお陰で色々とおごってもらってるからラッキーよね」

のん気にエールの呟きに答えるアッシュは、たこ焼きが六個乗った船を持ち、その内の一個をつまようじに突き刺し、ポイッと口の中に放り込みました。

「ガーディアンの人達って結構暇なんだね」

わたあめをほおばりながら、グレイは何一つ汚れのない純粋でまっすぐな笑顔を、隣にいるヴァン先輩に言いました。

しかし、彼は高値で買った馬券が全てパァになってしまった時の中年親父のような表情を、常日頃アッシュにいじられ、こき使われている彼に向け

「いや・・・そんなことは・・・ない・・・」

両手で財布の中に入っているお金の計算をしながら、「朝一番に仕事に行けばよかった・・・」と心の中で大後悔しながら重苦しい声を出しました。



ヨーヨーすくいではグレイがヨーヨーすくい初体験の幼児のように、すくえたヨーヨーをキャッキャとアッシュたちに見せびらかし、輪投げではエールが「バスターショットの命中率のよさに定評があるアタシにかかればちょろいもんよ!」とどこから出てくるのか全くわからない自信を持ちながら輪を投げた結果、わなげやのオヤジの両目にクリーンヒットしました。

金魚すくいではアッシュとエールのゴールデンガールコンビが、店の金魚を全てすくい上げかけてしまったため、店のオヤジに泣きながら止められ、射的ではグレイが天才的な銃の才能を発揮し、それに嫉妬したエールが店のオヤジの制止も聞かず射的の銃を乱射した結果、ヴァンに全弾クリティカルヒットさせて道行く人に被害をもたらすことは無かったりしました。

時間と(ヴァンの)お金が許す限り、お祭りを満喫した彼らでしたが、特に楽しそうだったのは生まれて初めてお祭りというイベントを体験したグレイでした。彼の目は、その全てが珍しいのか輝きを失せることなく光り続けていました。



夕方になりました。十分お祭りを満喫した四人(若干一名除く)は、今日はもう遅いし、祭りは明日もあるから帰ろうかと思い始めていた頃

「明日はもう一回射的して・・・ベビーカステラ食べて・・・かき氷食べて・・・キャラクターあめ食べて・・・」

ほとんど食い物関連でしたが、十分すぎるほどお祭りを体験したグレイは、頭の中で明日の予定をセッティングしていました。

そのことの囚われすぎたあまり、グレイは自分の目の前に公園名物百段階段があるくとに気付きませんでした。しかも降りる方面だったため、下手に足を出してしまえば怪我どころでは済まされないかもしれません。

そして彼は、ついに足を置く場所を間違えてしまい、思わず宙を踏んでしまいます。

「あっ!」

気付いたときにはもう遅い。グレイの体は重力に引っ張られ階段の下へと落ちるため傾き始めます。

この事態に、一番初めに気付いたのはエールでした。

「危ない!」

彼女はとっさに、会談から落ちそうになったグレイの腕を掴みますが、バランスを完全に崩してしまった上、全体重を階段の下にかけている彼の体を支えるのには少しだけ力が足らず、うっかりグレイと同じ方向に倒れようとしています。

「おっと!」

次にアッシュがエールの腕を掴みますが、人二人の体重に引っ張られ、やっぱり同じ方向に落ちそうになります。

「させるか!」

最後にヴァンがアッシュの腕を掴みますが、やっぱり無駄。四人は仲良く一緒に真っ逆さまへと階段から落ちていき、ゴロゴロと転がっていきました・・・。





四人は会談の一番下に倒れていました。幸い人通りの少ない道だったため、ハンター界の英雄(注:ただしアッシュ自称)とガーディアンのメンバー二人が倒れている光景は、一般人の目にとまることはありませんでした。

しばらく誰も起きないのではないかと思われていましたが、アッシュが誰よりも早く一番始めに体を起こしました。

「イテテ・・・死んだかと思った・・・」

何だか彼女にしては男らしい口調です。落ちた衝撃で頭でも打ったのでしょうか。

次に起き上がったのはヴァンです。彼は頭を抑えながらゆっくりと身を起こすと

「何で、アタシがこんな目に・・・」

一人称が変わっています。彼も頭を打った衝撃でいろいろな所がおかしくなってしまったのでしょうか。
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