ZXA小説

□ライブメタル覚醒
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朝です。細かく言えば日が昇ってから1時間程は経った早朝です。
レギオンズのどこかにある四天王ズの居住スペースにあるテティスの部屋。
ベッド横の窓から入ってくる朝日と、鳥たちのさえずりが彼の目覚まし時計変わり、朝日が顔に当たれば少年は目を覚まし、眠気眼をこすりながら体を起こすのでした。
「うう・・・眠い・・・」
と言いつつ二度寝を決めて朝食に遅れてしまうという醜態を晒した事はありません。フード付きの水玉パジャマ姿の彼は髪がボサボサになっているのも気にせず、あくびをしながらベッドサイドにある白いミニテーブルに目を向けて。
「・・・んんっ?!」
衝撃のあまりまだ眠っていたであろう電子頭脳が一気に覚醒しました。
テーブルの丸い天板の上には一輪挿しのガーベラが真っ赤な花を咲かせているだけ、寝る前に必ずガーベラの花瓶の前に置いているモデルLの姿がないのです。
ロックマンモデルLであるテティスにとってライブメタルがないのは致命的。運命ゲームの参加権を剥奪される可能性だってあるのですから。下手すりゃ消される。
「な、ななななんで!?」
ベッドから飛び降りると慌てて周囲を探し始めます。ミニテーブルやベッドの下はもちろん、壁にかけてあったパーカーのポケットに何度も手を突っ込んで堅い感触がないか調べますが、出て来たのは水色の糸だけでした。
「ど、どうしよう・・・」
泣きそうな顔になりながらベッドと反対側の壁に目をやると、手にしていたパーカーが滑り落ちました。
ライトオーク色のチェストの上には海の魚たちが入った水槽があるのですが、その中に、さっきまで必死になりながら探していたモデルLが最初からそこにいたような貫録を出して沈んでいるではありませんか。
探し物は発見できたので、とりあえず冷静さを取り戻したテティスは何故、モデルLが水槽の中にあるかと考え、もしかすると寝ぼけてモデルLを放り投げ、たまたま水槽の中にホールインワンしたのかもしれないという推測を叩き出したのでした。
「寝相・・・悪いのかな、やっぱりストレスのせい・・・?」
思い当たる節が多すぎるて考える事すら放棄するのでした。
クマノミやデバスズメダイが若干迷惑そうに泳いでいるのを見て、最初にモデルLを水槽から取り出さないと思考を切り替え、水槽の前に立った時。
『あ〜・・・やっぱりこんなちっちゃい水槽じゃダメね〜ちっとも気持ちよく泳げやしない』
頭の中に女性の声が響いてきました。電子頭脳に直接語りかけてくるような、ハッキリとした声。
普通なら誰・・・?と不気味に思う所ですが、この感覚には覚えがあります。心当たりもめちゃくちゃあります。
例えば、かつてモデルAの適合者2人と対峙した時、彼らとライブメタルたちと会話を交わした事が・・・。
『やっぱ泳ぐんだったらちっこい水槽じゃなくてもっと広〜いプールとか海の中が一番ねぇ、でもライブメタルのままで自由に泳いだりできるのかしら?まっ!そこはやってみないと分からな』
「えええええええええええええええええええええええ!?」
ライブメタルが、力を使う上で抵抗されないようにと意識を封じ込めたライブメタルが喋ってるし行動している非常事態に、時と場所を忘れて叫ぶテティス。
と同時に、これと似たような絶叫が他二か所から確認されました。





それからしばらく経ち、朝食の時間になった頃にはひとまず冷静さを取り戻しました。
意識を封じたライブメタルが突然覚醒したのはモデルLだけではなかったらしく、モデルH,モデルF、モデルPの3つのライブメタルたちもしっかり覚醒。目が覚めたばかりの適合者たちを驚愕と絶叫の渦に引き込むのでした。マフラーを巻いた紫色の適合者は除きます。
「うへーこれが“ちゃんと”動いてるライブメタルねー」
おひつに入ったご飯をよそってアトラスに渡し、ツキリは部屋の隅にある鳥かごを眺めてそんな感想。
逃げ出してガーディアンベースに帰ったらたまらんと、シャルナクの案でライブメタルたちを鉄製の鳥かごに入れてしっかりと鍵をかけて部屋の隅に放置しているのですが、案の定ライブメタルたちからの苦情が殺到する訳で。
『出せー!モデルX様はどこだー!』
『か弱いレディをこんな狭い密集地帯に放り込むなんてどんな教育受けてるのよ!』
『い―――な―――朝飯美味そうじゃん!じゃなくて出せ―――――!』
『・・・外道か貴様ら』
誰が言っているのかはお察しの通りです。
「暴れてるね」
「暴れてるな」
鮭の塩焼きを堪能しつつ、ツキリとアトラスの平凡な感想。
「暴れてるのは当然だからいいけど、何で急に動き出したんだろう」
「知らん。聞きたいのはこっちだ」
「原因不明、理解不能」
「アルバートのプロテクトは完璧だったと思うんだけどなぁ」
こちらも朝食を堪能しつつ、あまり深刻に捉えていない男子たち。状況はそこそこ深刻ですが口調はいたって穏やか、ロックオンできませんがライブメタル自身が襲ってくる事はないので楽観視しているのです。
「ツキリ、ご飯おかわり」
「はいはーいおっけーだよアトランさん、にしてもアトランさんたちはいいなーライブメタルたちの声が聞けてさあ」
適合者でないツキリに、鳥かごの中で暴れているライブメタルたちの声は全く聞こえませんし、頭の中に響きません。動いているのは分かりますが何を訴えているのかは分からないのです。
ご飯を受け取ったアトラスは目を白黒させながらツキリを上から下まで見て。
「ああ・・・そういえばそんな設定だったな。すっかり忘れていた」
「今までライブメタルたちが喋ってなかったからね、無理ないよ」
テティスがフォローを入れてから味噌汁をすすっていると、パンドラがふと。
「ライブメタルが喋り出した原因・・・だけど」
「ん?パンドラちゃん心当たりあるの?」
「・・・昨日の朝、アルバートがライブメタルのメンテナンスしてた・・・」
刹那、凍りつく一同。適合者でない少女たち除く。
「ツキリ―ご飯山盛りおかわりー」
「はいはーい、サンルは朝からよく食べるねー」
少女たちのほのぼのとした会話が流れ、お茶碗からはみ出すぐらい山盛りになったご飯がサンルの手に渡ると同時に。
「アルバートは!あのオッサンはどこだ!今から殴りに行くぞ!」
「駄目だよアトラス!あのオッサン今日が重要な会議だとかなんとか言って昨日の夜から出張してて明日の昼まで帰ってこないんだよ!てか昨日の朝にそう言ってた!」
「肝心な時に限っていないのかアルバートは!なんて空気を読まない奴だ!」
「こういう時に限って仕事しやがって!」
「目標・・・不明・・・」
「・・・・・・」
皆が騒ぐ中、先に朝食を平らげたパンドラは小声で「ごちそうさま」と言ってから、ちゃぶ台の下からタブレット端末を取り出してスイッチを入れました。
「どんな手を使ってでもアルバートに会議をさぼらせて、レギオンズ本部に戻ってこさせるしかなさそうね・・・」
「やった!パンドラちゃんが珍しくグレイ以外でやる気を出した!でも前みたいに変な所ハッキングしてレギオンズを内部崩壊寸前まで追い込んだりしないでね!」
「努力するわ」
かつてパンドラが何を行ったのか、そしてどんな事件を起こしてしまったのか。気になって仕方のないテティスでしたが、これ以上深い闇に入り込みたくないという理由で寸前の所で踏みとどまりました。
「アルバートのオッサンはパンドラに任せるとして、アタシたちはどうすればいい?」
「ライブメタルノ脱走阻止ヲ早急ニ遂行スルコトヲ推奨」
「鳥かごじゃ無理があるの?」
パンドラの食器を片づけるツキリが問いかけても、シャルナクは答えずお茶をすするだけ。
「4つ揃ってると何をするか分からないっていうのが最大の理由とかだったり・・・?」
テティスの言葉にシャルナクは頷き、湯呑みをちゃぶ台に置くのでした。
「なるほど。ならモデルFを連れ出すか」
「シャルナクの意見に同意だな」
「モデルP回収」
いつの間にか朝食を終えていた3人の適合者たちは、さっさと腰を上げると鳥かごの蓋を開け、それぞれのライブメタルを手に持ちます。
『何をする!』と文句を飛ばしているのはモデルHだけで、他のライブメタルたちはそこまで文句を言わずに素直に連れて行かれ。
『えーアタシだけ置いてっちゃうやつー?』
別の意味で文句を飛ばすモデルLは素直に鳥かごの中にとどまったまま、去ってしまう適合者たちの姿を眺め続けるのでした。
「アトランさんたち行っちゃったねー」
朝食最後の作業「後片付け」を始めるツキリの一言はまるで他人事のよう。
「適合者じゃないから実際他人事だけどね!」
「お茶碗重ねながら誰に何言ってるの。それよりアトラスたちが思った以上にあっさり受け止めちゃってるし、なんか心配だなぁ」
人一倍真面目なテティスらしい意見ですが、ツキリは「心配性だねー」と軽い口調ですし、サンルは朝のワイドショーに夢中。プロメテとパンドラは端末を使って一生懸命アルバートとコンタクトを取ろうとしており周囲に気を回す余裕がありません。
他にやる事もないし・・・とテティスは鳥かごからモデルLを逃げ出さないようにしっかり掴んで、そこから持ち出すのでした。
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