ディスガイア小説
□隊長と部下、修羅場編
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数十年前も天界は平和でした。
天界が平和、という事はすなわち天界を守護する天使兵たちはものすごーく暇になってしまうという事。日々魔界を調査し悪魔の生態を調べている調査隊は忙しいのですが、他の天使兵たちは大体暇です。
それは天使に害を成す悪魔を懲らしめるために結成された部隊、悪魔討伐隊も同じです。依頼がなければ常に暇な討伐隊はたまに他の部隊の手伝いをすることもありますが、それがなければとことん暇でした。
「暇ねー」
「そうですね・・・」
悪魔討伐隊の部屋、事務所みたいな所です。
他の隊に比べて待遇が良くない討伐隊の部屋は狭く、六人掛けのテーブルと天井まで届きそうな高さの本棚とわずかな収納スペースと窓があり、最近ベルが買ってきてくれたテレビが本棚と反対側の隅に置かれています。
事務所が狭いのは討伐隊隊長ベルが己の信念を貫きすぎて上司に文句をつけまくっているからですが、隊員全員は誰も文句を言いません。文句を言ったところで素直に聞く天使ではなからです。
そんな強い信念を持つ隊長さんは、テーブルの席に腰を掛け、煎餅をかじりながらのんびりテレビを見ています。隣の席に座っている死んだ魚のような目をしている赤毛の天使と一緒に
「最近仕事がないから暇よねー給料泥棒よねー」
「平和なのは良い事ですよ・・・平和すぎて仕事がないのは仕方ありませんよ・・・」
暇すぎて完全に無気力に陥っているこの二人はテレビに釘づけ。お昼の時間帯に放送しているのはよくある昼ドラです。嫁、姑、愛人の三人が織り成すギリギリドロドロの四角関係の物語。
もちろんこんな放送禁止ギリギリの発言が目立つドラマは天界では作られていません。
「中々味のあるドラマよねー、わざわざ人間界からケーブルを繋いだかいがあったわ」
「・・・繋いだのは俺ですけどね・・・天界では作られそうにありませんよ・・・刺激が強すぎて・・・」
どうやって人間界のテレビのケーブルを繋いでいるのかは謎です。そして、繋いだのはアニューゼですがやり方を知っていたのはベルです。その辺りも謎。
ベルは煎餅(醤油味)を食べ終わり、袋にも入ってないのを見ると視線はテレビに向けたまま、イスの下に手を伸ばし新しい煎餅の袋を持ち上げて袋を開けました。
「嫁が愛人を辱めるために持っている権力を思う存分使って羞恥プレイをした時は、天界の放送無理だなーって思った。てか人間界でもお昼に放送してもいいのか疑問だったわ」
袋に手を突っ込んで煎餅(ザラメ)を食べ始め、思い返すように言うとアニューゼは食べかけの煎餅(醤油味)を持ったまま硬直。
「それって・・・いつやってました・・・?」
「何言ってるの?2日前の放送・・・ってそっか、その日はアニューゼ休みだったわね。見てないのも仕方がないわ」
「そう・・・ですか・・・」
「・・・何か残念がってない?」
「気のせいです」
珍しくアニューゼがハキハキと喋り、ドラマでは愛人が嫁の胸ぐらを掴む修羅場が始まりベルの目が輝いた時
「ただ今帰りました・・・」
備品を買いに出かけていたリペが帰ってきました。いつも一緒にいるコーリー&マリィの双子は別の部隊のお手伝いに行っています。
ちなみに今日のお面は縁日で売っているプリニーのお面。
「リペお帰り―」
「ん」
上司二人、視線はテレビのまま。だって良い所だもん
「・・・はい・・・」
リペは元気なく返し、何も言おうとはしません。
おかしい、ベテラン天使兵二人は視線はテレビに向けつつもそう感じました。リペの様子がおかしいと。
普段なら「またドラマですかー?こういうのって教育に良くないドラマだと思うんですけど・・・」とやんわり注意するリペなのに、今日はそのお小言がありません。出かける前は普段と変わらなかったのに
嫁が怒鳴り愛人が言い返して絶賛修羅場中な所ですがベルは名残惜しそうに目を逸らしてリペを見て、煎餅(ザラメ)をひらひらさせながら聞いてみます。
「どうしたのリペ?元気がないみたいだけど、そんなに修羅場が嫌?」
「隊長ぉ・・・」
意外や意外、リペは今にも泣きそうな声をだして小さく震えているではありませんか。お面で顔を隠しているためどんな表情をしているのかは分かりませんが、きっととても辛い趣になっているのでしょう多分
「えっへっ!?ホントどうしちゃったの!?そんなに辛いなら無理しなくていいのよ!?」
「そうじゃなくて・・・私・・・裏切り者なんです・・・」
泣きそうになっているリペに気づいたアニューゼは死んだ魚のような生気のない目を向けました。