ディスガイア小説
□天使と悪魔と時々幼児
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注:作中には地獄は出てきません。
それは、ヴァルバトーゼが革命を起こす1600年ぐらい前、人間的には大昔、悪魔的にはちょっと昔の時代。
地獄のある魔界とは別の魔界。そこの西の果ての国の一角には地平線まで広がる森があります。
森とは言っても普通の森ではありません。その地に根を生やしている木々は普通の木よりも何倍も太く、背も高い巨大な木ばかり。枝の太さも長さも半端ではなく、木々に覆い尽くされているせいで日の光もあまり入らず、日中でも薄暗く感じます。
足を踏み入れるだけで小人気分を味わえる森は元々果てもない荒野だったのですが、100年もしない内に緑豊かすぎる森が誕生たとか。理由は謎のまま
これほど広大な森なら集落の一つや二つほどあってもおかしくありませんが、集落どころか悪魔の気配すらなく、不気味なほど静かでした。
ただし、彼女がいる場所は別です。
「ズン、ズンズンズンドコ」
「チャチャチャ!」
木の枝を振り回して草むらを叩き、謎の歌を口ずさみながら我が物顔で歩いている侍の女性こそ、自称森の主であり魔界では生ける伝説となっている侍、イレーナです。
彼女の手にひかれて合いの手を打っているのは200歳ほどの幼児です。青く短い髪に青色の瞳、笑顔が素敵な女の子。ややぶかぶかの無地のシャツを着て、裾がボロボロの短パンを履いています。
「今日のご飯は何にしようかしらねぇ、肉が食べたいなー」
「おにくー」
「リアスも肉食べたいの?」
「べたい!」
「だが断る」
酷く大人げない台詞です。しかし言葉の意味が分からないのか、リアスは首を傾けているだけでした。
ちなみに、当時イレーナ8200歳ちょっと、リアス200歳ちょっと
森の中で食料探しに出かけたのはいいものの、全くといって成果は無し。動物がいれば生け捕りにするのですが、木枯らしが吹き始めるこの季節、動物たちは冬眠に入り始めているため姿を現しません。
そういうのもあって途方に暮れているものの、めげないイレーナは謎の歌をまた歌いだし、リアスが合いの手を入れます。全て教えられた通り
そして、根の一部が地面から出てしまっている木の前にさしかかった時
「はぁ・・・出口はどこなんだ・・・」
木の向こうから声が聞こえ、イレーナはとっさにリアスの口を塞いで黙らせます。
そのまますぐ近くの草むらに身を潜め、気配を出さないように注意しつつ様子を窺っていると
「そもそも出口なんてあるのだろうか・・・不安だ・・・」
ネガティブな独り言をぼやきながら木の裏から出てきたのは、黒い髪に赤い瞳の男。黒髪は背中で三つ編みに結われています。
雰囲気と外見的な特徴から、彼が悪魔ではなく天使兵だという事が、イレーナはすぐに分かりました。
近くで悪魔に見張られているとも知らず、男は木を見上げて
「こう木々が多いと飛び立つこともできない・・・か。枝で羽を痛めてしまう訳にもいかないから、結局歩いて出口を探すしかないのか」
恨めしそうにぼやく男を見て、イレーナはほくそ笑みつつ口元に右手の人差し指を当て、リアスに「喋らないでね」とジェスチャーで伝えました。
少女が大きく頷いて納得するのを見届け、懐から取り出したのは細い竹の筒でした。
それを口にくわえて素早く息を吹き込めば、筒から針が飛び出し、男のうなじに命中します。
「わおっ!?」
大した痛みはありませんが突然の奇襲に驚いてしまった彼、イレーナが吹き出しリアスが拍手喝采を送っていると
「いきなり何をするんだ貴様!」
その男が怒鳴りながらこちらに近づいてきたので、イレーナは草むらから姿を出し
「おお!刺さったまんまとは珍しいわね!」
男を見ていたく感心。草むらから出られないリアスが「リアスもみるー」と訴えてきていますが無視です。
「人のうなじに針を刺すなど非常識極まりないと思わんのか!」
「常識だけで生きていてもつまんないでしょ?」
「フリーダムでも度がすぎるぞ悪魔!」
怒りが収まらない男の怒声を適当に受け流しつつ、イレーナは手を叩いて
「ああ、アンタって天使だったわねぇ。道理で効かないワケかー」
「何の話だ」
「さっきの針には眠り薬が仕込んであったんだけど」
男の表情が凍ります。それと同時にリアスが草むらから出てきました。
「でれた!」
両手を上げて喜びのポーズ。ふと見上げた時には愕然としている男が見えてまた首を傾けます。
「だれ?」