ディスガイア小説
□地の果てまで血を愛して
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「平和だなー」
「そうねー」
ある朝の魔王城。ベッド二つと机があるだけのそこまで広くない共同部屋。リアスとアリナの一日はこんなのんびりとした会話から始まりました。
「ここ最近は大きな事件もないしアイテム海で遊んで飯食って酒飲むだけの毎日だもんなー退屈なハズなのに全然退屈しない」
ベッドサイドに腰をかけて日の光を浴びつつ、いつものバンダナを額に着け寝癖を手ぐしでさっさと整えるだけ身だしなみを完了させたリアス。驚きの速さですし、アホ毛が立ったままですがアリナは何も言いません。言っても無駄ですから。
「修羅の国で死に物狂いになって修行してたあの頃よりは千倍マシってものよ、トラブルなんてあってもよかった事なんて一度もないんだし、何でもない日が一番よねー」
一方のアリナはベッドの脇の机で長い髪にクシでとかしている真っ最中。正面の壁にかけた鏡を見ながら、いつもの完璧な身だしなみを作っていきます。
緊張感の欠片も無い空気に彼女の鋭い目つきはどこへやら、珍しくのんびりした趣なのは一昨日に完成した原稿を出版社に送りつけたから、一仕事終えた快感が抜けきっていないだけ。
「何でもない日万歳だなー」
「そうねー」
リアスはベッドに寝転がり、アリナは頭にリボンを着けて身だしなみ完了。寝癖が残ってないか念入りにチェックして完璧と満足げに鼻を鳴らした刹那
「リアス!」
ドアを開ける音と同時進行でその声は部屋に響き、それは今日の平和の終わりを告げました。
突然の大声に驚いたのは名を呼ばれた本人だけでなく、アリナまでもが大声に反応して振り向きました。
「何よいきなり大声なんか出して・・・って、えっ?」
目を丸くするのも無理はありません。目を向けた先にいたのは意外な相手、アニューゼだったのですから。
「アニューゼ?無口無表情兼仏頂面のお前がデカイ声を出すなんて珍しい事もあるもんだな、今日は台風か?」
ベッドから腰を降ろしたリアスにアニューゼは無言かつ仏頂面のまま早足で近づき、女の子の部屋に遠慮なく足を踏み入れていきました。
普段と全く違った雰囲気をまとった彼は妙に迫力があり、かつて修羅の国で生ける伝説となった二人を圧倒させてしまいました。
それも気に留めずにリアスの前まで来た元天使兵は
「大変なんだ」
「しかもハキハキ喋るな今日のお前、いつもはもっとボソボソ言ってるのに・・・ついにイメチェン計画始動すんのか?」
様子がおかしい彼に皮肉を交えた一言をかけた途端、彼は膝と両手を床に付いて項垂れてしまったではありませんか。
「え?今の台詞のどこにショッキング要素含まれてた?お前ってイメチェンにトラウマでもあんの?」
「俺の・・・」
「俺の?」
「俺の血がない・・・」
表情が一変して冷めた趣を浮かべるリアスとアリナ、ようはいつもの血フェチ。
「今朝の事だ。保管していた悪魔の血も一番大切な血も全て根こそぎ無くなっていた。大切な血は金庫に入れてちゃんと管理していたのに。金庫ごと消えていた」
『・・・』
白い目で見つめられても気にもしません。今のアニューゼの頭には行方をくらました血しかないのですから。
「リアスの血も折角集めたのに一つ残らず消えていた。特に一昨日採取した腕の第二間接辺りから出血は採取した中でも一番キレイな色をしていたし味もそこそこ」
『黙れ変態』
これ以上喋らせた所で変態的な台詞しか出てこないのは必須、特殊すぎる趣味を持つ天使をゴミを見るような目つきで見下し、容赦ない罵倒をあびせて話を無理やり終わらせるのでした。
魔王城地下にはろうそく一本の明かりしかない暗い倉庫があります。
日持ちする食料から武器防具に生活用品など悪魔の住処にしては珍しく、ある程度と整理されていますがやや清潔感が無く埃っぽい所がやはり魔界の倉庫といえますね。
その片隅、生活用品スペースにある木箱の上にカンテラを置き、ぼんやりとした明かりに照らされている悪魔たちは輪を作っていました。
「これで全部か」
「もっちろん!俺の情報に抜かりはない!」
大声を倉庫の中に響かせて右手親指を立てたレトンは素敵なキメ顔、これ以上ない自信を表明してくれました。
無駄に元気な大声に怪訝な顔を浮かべたウェイルは舌打ち、そのままレトンの横にあるクーラーボックスを開けて中を確認します。
中には大小さまざまな大きさの瓶が隙間なく収められており、その全てには赤い液体が入っています。さらに瓶の側面には名前と日付が書かれたラベルが貼ってありました。