ディスガイア小説
□貴女と私の始まり
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己の自由をかけた決闘。最高クラスのリンリンもそうですがユイカというあの天使も中々高いクラスの天使兵のようですし、これは激闘になるやもしれません。
と、期待して長屋の外に出て二人の対決を見守り続けて早十分
「まっこの程度ですね」
結論から言うと、ユイカ敗北。
しつけ、という名目から命まではとらなかったようですが彼女はボロボロのズタズタ、使い捨てられた雑巾のような哀れな姿になって地面に伏せたまま動きそうにありません。
「今日の所は大目に見てあげましょう、ですが次からは本気を出すので覚悟してくださいね」
可愛らしくウィンクを決めると足早に長屋へと戻って行きます。彼女の衣服は全く乱れてなく、戦ったのかと疑問すら覚える程整っていました。
要はあまり動いてなかったということでしょうか、勝負は一瞬でついてしまっていたようです。
ラウトが「リンすげー!」と目を輝かせながら一緒に長屋に入った後、ユイカは爪で皮膚が破けるのかと思う程拳を固く握りしめました。
「(強い・・・あのアーチャー性格が悪いクセに強すぎる、人間界の村に住まう悪魔など大したことないと踏んでいたが・・・大きな計算違いを起していたようだ・・・)」
この先、自分はどうなってしまうのかと思うと顔も上げる気になれません。
悪魔の世界では何よりも強さが一番、それは天使であるユイカでさえも知っている一般常識のようなもの。
それを分かっていたからこそ、今まで力で悪魔たちを屈服させ、時には討伐してきたというのに自分が屈服させられてしまえば本末転倒。力社会の悪魔の世界では敗北=死に繋がってしまいます。
幸い、師弟関係がどうとか言っていたので殺しはしないでしょうが・・・
「ユイカさん、大丈夫ですか?」
目の前からする悪魔の気配に反応して即座に顔を上げたユイカの目に留まったのは、こちらに向かって手を差し伸べている天里の姿でした。
相手を警戒させないように穏やかな笑みを浮かべていますが彼女にとって悪魔の優しさなど不燃ゴミ以上に不要なモノでしかありません。その手を払いのけると黙ったまま立ち上がり
「どうする・・・どうすれば天界に帰れる・・・?」
なんて独り言をぼやきながら長屋へと戻ってしまいます。当然、天里を置いて
「・・・手ごわいですね・・・」
さて、力で敵わない事を立証された結果。ユイカを本格的に長屋に住まわせるための会議がスタート。とはいえ大半のメンバーは外出しているため、リンリンとラウトとサラの三人がダイニングのテーブルで行っているだけですが
目を輝かせて今後の方針を熱弁するラウトに適当に相槌を打つだけのリンリン、サラも何度か意見を言っていますが、どうも目前にいるリンリンが怖いのかどこか怯えた趣
一方のユイカといえばソファーに座り、頭を抱えながら天界に帰る方法を考えていました。彼女はまだ諦めたワケではありません、希望がある限り絶望しないのです。
「(強さで敵わないならどうする事もできない・・・足掻いたって無駄だろう。ならば早急に別の手を考える必要があるがどうすれば・・・)」
ラウトが彼女の名を呼んでも相槌を打つどころか反応すらしません。考えることに夢中になったせいで外部の音が全てミュートされているのです。
ドアの近くでその様子をうかがう天里は少し心配そうな様子、今日初めて会った天使とはいえ刺々しい態度むき出しの彼女を気遣っているのでしょうが、相手が悪魔嫌いな性分のため声がかけにくい状態でいました。
「弱りましたねぇ・・・」
声をかけても威嚇されて終わり、気を使っても無視されて終わりではただ気疲れするだけです。それの積み重ねで信頼を得て行けばいいとは思っても、あの様子では莫大な時間が必要といえるでしょう。
天井を仰いで小さくため息をつき、今頃妹はどうしているかなと想いを別の場所にはせていると
「・・・これしかないな」
小さくぼやいたユイカはソファから腰を上げ、そのまま早足で歩み始めます。
「ん?ユイカーどこ行くんだよー」
彼女が動き始めたのをいち早く察知したのはラウト、目をぱちくりさせながら振り向いて声をかければ、ユイカはこちらを見ようともせず
「貴様たちには全く関係の無い事だ」
それだけを淡々と答え、ドアノブを掴みます。
リンリンが目を細めて後ろ姿を見つめていますがそんな事関係ありません。無視です、無視を決め込んで先へと進まなければ未来は切り開けないのです。
「(恥を忍んで天界に戻り、この契約を解いてもらうしかない・・・ただの天使兵の私ではどうにもならない事だが天使長様か大天使様ならきっと・・・)」
悪魔などに掴まってしまうなんて恥でしかないものの、このまま飼い殺しか奴隷扱いされるぐらいなら一度の恥だけで済んだ方が百倍マシ。そんな結論にいたった彼女の決死の行動でした。
相変わらずこちらを見ているリンリンの視線が気になる所ですが構ってなどいられません。意を決してドアノブを引いて・・・
「戻ったぞー!新しい仲間が増えたって本当か!?」
その前にドアを勢いよく開けた女戦士の力にいとも簡単に負けてしまい、その勢いのままドアごと壁に押しつぶされてしまいました。
幸いだったのは、天里がいる場所とドアがぶつかる場所が反対側だったという事ですね。
「・・・おろ?」