ディスガイア小説

□貴女と私の始まり
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少女は悪魔を悪だと思って生きていました。

物心ついた時から周囲に言われ続けていた事と言えば決まって、悪魔は絶対なる悪であり忌むべき存在である。我々天使は悪魔を排除しなければならないと

特に天使兵である父親は何かとつけては悪魔を悪と決めつけ、その全てを否定していたことに影響され、いつしか彼女も父と同じ考えを抱くようになりました。

少女が父と同じ天使兵の道を歩んでもその考えは覆ることはなく、これからもそう思って生きていく・・・はずでした。

しかし、その考えは、彼女が思い描く悪魔に対する「偏見」は

今日この日、ぐるりとひっくり返されることになるのです。





昼を過ぎたホルルト村は晴れていました。

水不足を心配してしまうほど晴天が続く村ですが、村人の人柄かまだ秘策が残っているのか、皆は慌てもせず不安もせずいつも通りのんびり過ごしています。

魔王ゼノン(偽)がいなくなってから悪魔と人間が共に暮らし始めている村に住む悪魔、男戦士ラウトもそういった住人の一人です。

彼は洗濯物を取り込む中年の女性と軽い挨拶をかわすと、自分たちが住んでいる長屋まで足を進めます。丁度帰路の真っ最中だったので。

「ふっふふっふふーんふっふふーん」

鼻歌まで歌って上機嫌な彼。さっきまでいたアイテム界でようやくお目当てのアイテムを見つけたため丁度有頂天になっています。

のん気に鼻歌まで歌いながら長屋の扉の前に着きました。そして横にスライドして開けるタイプの戸を開いて中に上がると、やや速足で皆がいるであろうダイニングに駆けこむのです。

「聞いて聞いて!やっと銀河王者ベ」

「ふざけるな!」

彼にとって今日一番の美談はこの怒声によって全てかき消されてしまい、ついでの声の迫力に圧倒されてその場で尻餅をついてしまいました。

そのまま声の発生源に目を向け、その先にいたのは黒い髪に三つ編みの少女がテーブルの上に両手をついている姿。耳が丸いので悪魔ではありませんでしたが人間にも見えません。よく見れば彼女、頭の上に大きなタンコブを乗せています。

彼女の怒声を正面から受け止めていたのは、ラウトの弟子でありアーチャーのリンリン。彼女はテーブルの席について優雅に紅茶をたしなみながら、相手を静かに見て微笑を浮かべているだけで喋ろうとはしません。

「誰が悪魔の弟子になんかに成り下がるか!今すぐ契約を解除しろ!」

テーブルを叩きながら三つ編み少女は怒鳴っています。部屋の隅では盗賊っ子サラが子犬のように怯え、様子を窺っていました。

「もう契約してしまったので何を言っても無駄ですよ。師弟関係ぐらいでネチネチ文句を言うだなんて天使という生き物はそんなに肝っ玉が小さい種族なんですか?」

ティーカップをソーサーの上に置いてリンリンはそんな疑問。ただし疑問というより嫌味で言っている可能性が高いでしょう。

案の定、三つ編み少女が逆上してあれやこれやとリンリンを罵倒していますが相手は知らん顔で紅茶に舌鼓を打っています。無視とはいい度胸です。

「へー・・・アイツって天使なんだー・・・初めて見る」

立ちあがったラウトは三つ編み少女を見つめてそんな感想。この瞬間から苦労の末に見つけた銀河王者ベルト(レジェンド)の事は頭から抜け落ちて頭の中を天使の少女でいっぱいにさせます。馬鹿なので思考回路の切り替えが極力単純なのです。

しばらくの間、ぼんやりとリンリンと天使の口論を眺めていると

「ラウトさんお帰りなさい、お目当ての品は手に入ったのですか?」

穏やかな笑みを浮かべる侍の青年、天里が現れ銀河王者ベルトの事を尋ねます。

しかし、すでにラウトの頭の中にはそれはなく「なんだっけ?」と言っているようなアホ面を向けて首を傾げました。天里は何も言いません。

「それよりさ天里!あそこにいる天使って何なんだ?」

そう、今の彼の頭の中は生まれて初めて見る天使のことでいっぱいです。彼女たちを指しながら興奮気味に尋ねるラウトに、天里は内心呆れながらも懇切丁寧に説明してくれます。

「あの方は天使兵のユイカさん、何でもヴェルダイムの調査にやってきていたようですが不幸にもリンリンさんに捕まって気を失ってしまったんです。その間に議会で師弟の契約を結ばれ、今はああして激怒しているというワケです」

「何で怒んの?」

「・・・」

そこも説明するべきなのか。天里は心底困って結果を出せないでいました。

馬鹿はさておき、何を言っても軽くあしらわれてしまう状況にストレスの度合いはすでにMAXを越えたユイカ。テーブルに置いた両手を丸め、必死に頭を動かします。

「(師匠と弟子の契約を抹消するためには師匠側の認証、あるいは師が命を落とすかの二択しかない・・・、殺生は嫌いだがこれを避けていては天界には帰れないし止むおえないか・・・)」

静かに息を吐くとテーブルに置いた手を離し、ゆっくり弓を構えてリンリンを見下したのです。

途端にリンリンは「おやぁ・・・?」と余裕を感じさせる笑みを浮かべ、天里は目の色を変えて驚愕

「えっちょユイカさん!?」

「貴様を倒して忌々しい師弟関係を解消すれば私は天界に帰り任務を報告することができる!そのためにも滅んでもらうぞ!」

彼女の決意は変わりません。真っ直ぐな瞳はリンリンを見つめていますがとんでもない敵意も同時進行で放っています。並の悪魔ならその気迫だけで倒れている所です。

しかしリンリンは全く動じず、紅茶を飲み終えると近くにいたプリニーに片づけるよう命じて椅子から降りました。

「仮にもアーチャー、悪魔随一の弓の名手である私に戦いを挑むとはなんて身の程知らずな方なのでしょう。まあ、飼ったばかりの犬にしつけをするのを主人の務め、少しばかりの相手はしてやりましょうか」

「誰が飼い犬だこの極悪アーチャー!」

そして部屋から出て行く二人。天里もラウトもサラも、誰一人として止めようとする者はいませんでした。

「師弟関係はどこ行ったんでしょうか・・・」

「なあ天里、何で犬と飼い主なんだ?」

馬鹿は無視の方向で
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