ディスガイア小説
□見合いコワせ
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魔王城城下町に佇むある中華料理店。その夜は遅い
「ふんふっふふーんっと」
虫の声しか聞こえない静かな深夜、店を閉め、店の裏手にある家に戻ったチャチャマは居間で一人、ちゃぶ台にノートを広げてそろばんの玉を弾いていました。
その横には領収書が広げられており、それを一枚一枚チェックしていきながらノートに書き留めていき、そろばんの玉を何度か弾いてから
「よし」
小さく頷きノートを閉じると鉛筆を置いて、散らかっている領収書を適当にまとめ始めます。どこか満足そうな様子で片付けていると、後ろの戸がスライドする音が耳に付き
「チャチャマ、家計簿は付け終ったか?」
優しい声色が後ろから聞こえてきたので振り返れば、ガタイの大きい男格闘家の姿がありました。
彼こそチャチャマとテルテル姉弟の父でありピピの雇い主、そして中華料理店の店主。バツイチ
「ついさっき終わった所。今月もギリギリ黒字だったよ」
「そうか・・・それはよかった」
安心したのかホッと胸を撫で下ろす店主、てきぱきと家計簿と領収書を片づけていくチャチャマの前で腰を下ろして一度深呼吸します。
それが見えてなかったのか娘はスルーしています。娘の頭の中は父の深呼吸よりも明日はメーレにどんなご飯を作っていくかでいっぱい。父が入り込む隙間はありません。
「・・・チャチャマよ。少し父の話を聞いてくれないか」
「何ー?」
一応返事はしましたが頭の中はメーレのご飯でいっぱいのまま。父親の話には大して興味を持てていません。これでも親子仲は良いと有名なのですが
娘が何を考えているのかはいざ知らず、店主は口を切りきます。
「実は、城下町の・・・」
「は?お見合い?城下町の連中と?」
魔王城のどこかにあるメーレの部屋、壁一面に置かれている本棚には所狭しと漫画が並べられているだけでなく、棚の前にはあまり読まなくなっている漫画が積まれて埃をかぶっていました。
朝ごはんを届けに来たチャチャマの口から発せられた「お見合いをする」という一言に、メーレは驚きながら振り返ります。
鼻歌混じりにテーブルに朝食を並べていくチャチャマは大した事無さそうな趣で「そうだよ」と返答すれば
「最近悪魔の既婚率が低下してて社会問題になりつつあるんだって、だから城下町の悪魔みんなが協力してその問題に貢献していこうって取り組みなんだ」
「・・・具体的には?」
「結婚してない2000歳以上の悪魔男女を呼び出してパーティするだって、何だっけ・・・人間界で流行ってるお見合いパーティを魔界で実行するって話。本当はお父さんも行くべきなんだけどアタシとお父さんがいなくなるとお店が回らなくなっちゃうからアタシだけ参加することになったんだ」
淡々と話すチャチャマはどこか楽しそうです。メーレのお世話ができるのが最大の理由ですが、今日はほんの少し様子が違いました。
「やけに楽しそうね」
「まあね!お見合いパーティなんて初めてだからワクワクしてるんだーどんな所なのかな?どんな料理が出るのかな?店の新作メニューに生かせないかなー」
まだ見ぬお見合いパーティに想いを寄せ目を輝かせながら部屋の隅に置いてある昨日の夕食に使った食器を片づけていきます
「・・・」
彼女が楽しそうなのはどうだっていいのですが、どうも何かが引っかかるメーレ。険しい表情のままお気楽なお節介を眺めていました。
「ちなみに、それっていつやるの?」
「今日だよ」
「Today!?」
何故か英語
欧米語はさておいて、チャチャマはそこまで驚かれる理由が分からず目を丸くしてキョトン。
「昨日いきなり言われちゃったからねー。でも安心して、メーレのお昼ご飯と晩御飯はピピに届けてもらうように言っといたから」
「そう・・・」
心配しているのはご飯のことではない、けど自分のこのモヤッとした、例えば顔は覚えてるけど名前は思え出せないこのモヤモヤ感の発生源は何か。
あらゆる可能性を考慮しても答えは出てこず、結局パソコン画面に視線を戻してしまいます。適当なスレを炎上させてコメントが怒涛の勢いで流れてきているのですが、既に追いつけない量まで増えていました。
「じゃあねメーレ、行ってくる」
「せいぜい私みたいな売れ残りにならないように気をつけなさいよ」
「はーい」
一つにまとめた食器を持ち、元気よい声と笑顔を振りまきながら彼女は部屋から出て行きました。
漫画だらけの薄暗い部屋に静寂と、出来立てホヤホヤの朝食だけが残され、一人しかいない虚しさが強調されます。
「・・・・・・」
コメントをさかのぼるのを諦め、もっと炎上させてやろうとコメントを打っていた手が止まりました。
画面には乱暴な言葉の書き込みが流れていますが、それに目もくれず拳を握り、小さく震えだすまでの力を込めれば
「ちょっとは否定しろよ!」
絶叫と共にパソコン目掛けて振り下ろし、哀れ何の罪もないパソコンはフリーズし、二度と動くことはありませんでした。