ディスガイア小説
□片想いの受難
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それを見てオルソドは重大な事に気づき、またもや青ざめれば、みっともないぐらいに慌てふためきだし
「すすっすいません天魅さん!急いで来たものですから気の利いた品の一つも持ち寄れず・・・!」
全力で頭を下げ、何の準備もせずただ来ただけの自分をこれでもかと悔いました。
「そういえばコイツ手ぶらだったなー」とのん気に観戦しながら、リアスは自分が買ったお見舞い品の果物を勝手に食べ始めています。バスケットを持ったままのユイカが動揺しているのも関係なく
こんなに慌てた彼を見るのは初めて。天魅はしばらく口を小さく開けてキョトンとしていましたが、やがて小さく首を振り
「気にしないでください、魔王城を破壊してまで私の元に来てくれたオルソドさんの気持ちだけでも十分ですから」
「でも・・・」
当然納得できないこの男。「固いわねー」と果物ではなくオルソドについての感想を述べ始めたアリナを見つつ、ユイカはもう何も言わないと決意しました。
ついに目を伏せてしまったオルソド。シーツに乗せられた彼の手にほんの少しだけ小さい手がそっと触れられ、とっさに顔を上げます。
視線の先には、彼の手に自分の手を重ね合わせている天魅が微笑んでいました。
「私、小さい頃は今よりもっと病弱でほとんど寝たきりだったんです。兄者も両親も忙しかったので一人でいる事が多くてすごく寂しい思いをしてました。だから、物がなくてもこうして遊びに来てくれるだけで十分幸せなんですよ」
「・・・」
「オルソドさん?」
首を傾ける天魅は気づいていないようですが、手と手が触れ合っただけで極度の緊張状態に入ってしまったようです。しかも赤面したまま
「誰か起してやりなさいよ」
ペンを高速で動かしてメモをとりつつ催促するアリナはオルソドを助けるつもりはありません。悪魔ですから
数十分後、朝より一段と騒がしくなった魔王城廊下を足早に進んでいるオルソドの姿がありました。
天魅に手を握られた時のあの趣はどこにもありません。いつも通り、真面目かつ緊張感のある趣でした。
「待てよオルソド、どこ行くつもりだ?」
後ろから声をかけてきたのはリアス。彼とほとんど同じスピードで歩きながら追いかけています。
ちなみに、途中までアリナも同行していましたが二人の歩くスピードがあまりにも早いせいでスタミナが切れ、途中で倒れてしまいました。これでも3分と彼女にとっては長い記録を叩き出しているのです。
「うるさい、お前には関係ないだろう。付いて来るな」
振り返らずに冷たく言い放っても、彼女に限らずほとんどの悪魔がそれを受け入れるハズがありません。それを証拠にリアスはさらに足を速め、ついに隣に並んできました。
「どーせ天魅にちょっとでも好意を持たれるためにプレゼントを送ろうと躍起になってんだろ?」
「何故分かる!」
心境を言い当てられたのがよほど驚きだったのか、目を見開いてリアスを睨む彼。そうでなくても鈍い事に定評のある彼女がオルソドの心境を言い当てられる事自体が驚きに値しますが
「言ったのは俺じゃなくてアリナな。お前が天魅のこと好きなのもアイツから聞いただけだし」
なんて他人事のごとく白々しく言い放ちました。
「チッ」
小さく舌打ちしつつリアスから目を逸らせば、彼女を引き離すためにさらに足を速めます。
しかし並大抵の身体能力を持っていないリアスは涼しい顔で付いて行くではありませんか。身体能力の差がハッキリしていますね。
「なあオルソド―いつまでこんな不毛な追いかけっこしたら気が済むんだよー天魅にプレゼント送るんじゃないのかー」
「お前がついて来なかったら全て丸く収まる話だろ!」
二人の歩くスピードが速すぎたせいか、あまり掃除されていない床から埃が舞い始め、鼻炎に悩んでいる悪魔が睨んでいます。
しばらくそんな状態が続いていると、オルソドの隣に一匹のモスマンが並んできました。
二人同時に目を向ければ、モスマンの背中に息を切らして床に這いつくばっていたハズのアリナが何食わぬ顔で乗っているのが見えました。
「それよりもあの子に何をあげるつもり?ちょっとは気の利いた物あげないと好感度はユイカよりも低いままで終わることになるわよ」
呆れながら言う彼女の台詞に、一瞬聞き捨てならないフレーズがあったような気がしますがあえてスルーしました。
彼女からも目を逸らし前だけ見始めたオルソドは何も言いませんが、リアスはどこか呆れた目をアリナに向け、正直な感想を述べます。
「平然と新システム使いこなすお前の順応力半端ないな、モスマンがパシリ用にしか見えなくなったぞ」
「便利だからいいじゃない。それにアンタの馬鹿みたいに高い身体能力について行くの大変なんだからこれぐらい当然でしょ」
口を尖らせて返すアリナ。モスマンは一言も喋らず黙って事の経緯を見ているだけ、無口なモスマンのようです。
リアスとアリナに挟まれた状態に陥ってしまったオルソド。答えさえ言えば解放してくれるだおうと希望と抱きつつ、ため息をつきながらしぶしぶ答えてやります。
「ゾンビ池に免疫力を高める薬草があると小耳に挟んだ事がある。それが本当なら天魅さんの体調がよくなるだけじゃなくて、病気にもかかりにくくなるかもしれない」
「へー。目的があるのはいいとして、場所は分かってんのか?」
まるで「協力するぞ」と言っているような口ぶりがオルソド神経に触り、自然と眉間にシワが寄りました。
「一昔前のユイカみたいな反応ね」と小声で口を挟んできたアリナを無視し、オルソドはさっきよりも大きく足音を立ててストレスが増しているのを分かりやすく表現してくれます。