ディスガイア小説
□名前で呼んでください
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途方に暮れてしまったラウトは、アデル宅の前の壺置場をブラブラしていました。
「あーあ・・・盛大にフられた・・・」
「誰にフられたって?」
「そりゃあユイカに・・・ってアリナ?」
少し遅れて反応した彼がふと横を見れば、アデル宅の前にロザリーが勝手に設置した(詳しく言えば弟子とプリニーたちが作った)主にテラスに置かれるテーブルにつき、一人でのんびりと紅茶をたしなんでいるアリナがいるではありませんか。
今の悩みを誰かに打ち明けたくてたまらなかったラウト。すぐさまアリナの元へ行くと了承も得ずに隣の席につきました。
「ちょっと、何で勝手に隣に座ってるワケ?」
当然文句を言うアリナ、ミルクティーの入ったティーカップを持ちながら横目でラウトを睨みます。
ところがラウト、何故怒られているのか分からないのでキョトンとしながら
「何でって・・・空いてたからいいかなーって思ったから?」
「疑問形を疑問形で返すんじゃないわよ。まあ、アンタ馬鹿だからしょーがない・・・か」
カップをソーサーの上に乗せ、ため息を交えて、どこか遠くを眺めながらアリナ言いました。
「・・・・・・何で、もう治らないって言ってる医者みたいな口ぶりで言っちゃう?」
自覚は全くないけど、自分はそんなに酷いのか・・・?顔を引きつらせるラウトは、ぼんやりと遠くを見据えるアリナを眺めて呟く事しかできません。
「アンタの馬鹿は今に始まった事じゃないからまあいいとして・・・どうして辛気臭い顔しながら独り言呟いてたの?」
横目で見つつ尋ねると、相手は我に返ったのかビクリと反応、いきなりに沈んだ表情を作り出したかと思えば、いつもより少し低い声で
「実はさ・・・さっきユイカに頼んだんだ。名前で呼んで欲しいって」
「あー・・・なるほど」
たったそれだけでアリナには事の全てが手に取るように分かりました。
生粋の悪魔嫌いのユイカ。一部の悪魔には友好的に接してはいるものの、そうでない者に対しての態度は良いモノではありません。心の奥底から嫌っています。
名前を呼ばないのはその一環から来ているのですが、能天気馬鹿男ラウトがそれを知っているはずがありません。断られてショックを受けた場景は、何となく想像できました。
「だからフられたってワケねー・・・にしても、どうしてユイカに名前で呼んでもらいたいの?」
どうせくだらない理由なんだろうなー。とは思っていました。彼が何か起こす時は、突発的な発想が尾を引いているものですから。
ところがラウトは表情を変えず、腕を組んでうなり始めます。
「・・・あら?」
てっきり即答で返ってくるかと思っていたアリナ、この反応は予想外。突発な行動が目につく彼がここまで真剣に考えるとは珍しい。
半分感心、半分驚きながら眺めていること数分。しばらく考え込んでいたラウトがふと空を見上げ、ようやく答えを出しました。
「よくわからない」
「は?分からないって何よ、自分の事でしょ?」
返答はまさかの「不明」。どんな答えがくるのか楽しみにしていたアリナにとって、それは気分を害する言葉でしかありません。
呆れる彼女は見上げ続けるラウトを睨むも、彼はこちらを見ようとせず、その真意を述べます。
「今までは“馬鹿一号”って呼ばれてもそんなに気にならなかったけどさー・・・どういうワケか最近妙に気になっちゃって、名前で呼んで欲しいなーって思い始めたんだ。なんでだろ」
考えても考えても、オツムの足りない頭では答えははじき出される事無く、そこでグルグルと同じ場所を何度も回り続け、頭の中に混乱を招きます。
ついアリナに問いかけてみるも、何も知らない彼女が、得体のしれない上に不鮮明すぎる疑問を解決できる根拠はどこにもありません。
なので当然
「私が知るワケないじゃない。これはアンタの問題なんだからアンタが考えなさいよ」
そう冷たく突き放され、そっぽを向かれてしまいました。
「・・・だよねー」