ディスガイア小説

□冬の日
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灼熱のイメージが強い地獄でも、冬という季節は当然やってきます。

時期は冬真っ只中。北風が吹くだけで泣く子も怯える地獄の囚人がぶるりと震え、豪快なくしゃみを出す囚人もいれば、凶悪そうに見えて可愛らしいくしゃみを出す囚人の姿もみられます。

ふと息を吐くと、白い息が現れて冬の寒さをより一層深めてくれました。

その寒さをさらに強化するかのように姿を現したのは、空から降る白い物体。ご存じ雪でした。

一週間前からしつこいほど振り続けた雪はどんどんどんどん積もっていき、一時地獄に大混乱を巻き起こしましたが、ヴァルバトーゼが研修中のプリニーたちに「雪かきの訓練だ!」と教育ついでに雪かきをやらせたお陰で、雪の事故は一件も起こっていません。

さらに、あまりの寒さにプリニー教育係が「寒いからストライキする」と書かれた張り紙を自室のドアに貼り付け、一日中引きこもる事件が多数発生。フェンリッヒが怒鳴り込んでいなければ、ほとんどの教育係が地獄から姿を消していたのかもしれません。

さて、こんなに寒いというのに地獄の仕事は山積み。プリニー教育係や看守たちは寒さに震えながらも、仕事をこなさなくてはなりません。

プリニー教育係の一人、アーチャーのルファもその内の一人に当てはまります。

「ふう・・・今日も寒いな・・・あ、おはようレシア」

「おはようルファ、昨日からずっと雪が降ってるね」

場所は食堂。食事当番を担当しているレシアは朝食を作っているプリニーたちの指導と、朝食作りの手伝いのため、早朝からここに来ています。

一通り指導が終わったため、食堂の清掃をしているレシアは、床を履くホウキを動かす手を止めて、丁寧なあいさつの後面白味の欠片もない台詞を口に出しました。

「うん。降ってるね」

ふと窓に視線をやり振り続ける雪を眺めて同意。まだまだ降り止む気配はありません。

すると、今はぼんやりしている場合じゃないと思いだし、すぐに視線をレシアに向けると

「そういえば・・・ねえ、ユスティル見てない?」

「ユスティル?知らないけど・・・彼女がどうかしたの?」

いつも・・・というかほぼ一日中ルファと行動しているユスティルの姿が見当たりません。

看守の仕事サボってまでルファと一緒にいる彼女がいない・・・。レシアにしてみれば結構珍しい光景でした。

幼い頃から一緒にいた親友が心配なのでしょう、ルファは少し視線を落とすと顔を曇らせます。

「実は・・・朝にはいつも部屋の前で待っててくれるんだけど今日はいなかったの。だからもしかしたら先に食堂に行ってるんじゃないかって思って・・・」

この時偶然会話を聞いていた研修中のプリニーが「朝から部屋の前って・・・ストーカー同然じゃないッスか・・・」と呟きながらツッコミを入れました。

一般的に考えておかしいユスティルの行動に対し、鈍感なのかレシアは全く引くどころか、ホウキを脇に挟んで腕を組み、真剣に考え始めます。

「それは変だね・・・でも私は見てないからここに来てない可能性が高いし・・・もしかして、最近めっきり寒くなったせいで風邪でもひいたとか・・・?」

「そんな事ないよ!だってユスティル、風邪ひいてフラフラになっても部屋の前で待っててくれるもの!」

「・・・・・・」

ユスティルの熱意にレシア唖然。それでも引きはません。

「私がいくら“部屋で寝てて”って言っても全然言う事聞いてくれなかったし・・・風邪はひいてないと思うよ?」

「そっか・・・と、とりあえず後で部屋に行ってみたらどうかな?私はまだお仕事残ってるから行けないけど・・・」

「そうだね、じゃあそうして・・・」

話が終わりを迎えかけた時、食堂のドアが大きな音を立てて開いたため、一瞬で食堂は静寂に包まれ、皆一斉に食事をする手を止めて音がした方向へ視線を送ります。もちろんルファとレシアも。

豪快にドアを開けたのはついさっきまで話題になっていた彼女、ユスティル。急いで来たからでしょうか、かなり息が荒いです。

静かな食堂など気にも留めず、肩で息をしながら食堂内へと歩み始めた彼女は「ジロジロ見てんじゃねーよ」と言わんばかりに周囲の悪魔たちを睨みながら、ルファとレシアに近づいていきました。

「ぜぇ・・・ぜぇ・・・待たせたな・・・ルファ・・・」

二人の前に到着したユスティルの表情に憎悪という文字はありません。あるのは疲労という二文字だけ。

ほんの数秒で豹変した彼女の表情に、レシアだけが疑問に思っています。ルファは気にしていない様子。

「いや、別に待ってないけど・・・どうしたの?」

その台詞はルファにとっては何気ない一言ですが、ユスティルにとっては超魔王バールの一撃よりも重い台詞であろうと、通りすがりの研修生プリニーは悟ったそうな。

それを証拠に、ユスティルはほんの少し顔を引きつらせながら、ルファたちから視線を逸らします。

「き、昨日も今日もマジ寒くてさ・・・うっかり冬眠する所だったんだ。いや〜危なかった危なかった」

「冬眠!?」

「・・・・・・」

ルファは驚いていますがレシアは何となく予想できます。要は寝坊したって事か・・・。

「いや〜参った参った。雪は降るし気温は落ちる一方。温かい地域で育ったアタシにとって冬はホントキツイいんだよな〜」

笑いながら言っていますが正直胡散臭さしかしないと、レシアがうっかり口を滑らしかけた時・・・。

「雪と言えば!」

珍しく忌濡もミーミーもイリアも連れてなく、一人で行動しているレトンが会話に割り込んできました。

折角ルファと話してたというのに、図々しく邪魔してきたレトンにユスティルは思いっきりガンを飛ばします。

奇跡的にルファはそれに気づいていません。が、気づいたレシアは小さく悲鳴を上げて固まってしまいました。
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