ディスガイア小説

□がんばれエーゼル君
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思えば一目惚れに近かったかもしれません。

ウェルダイムが魔界と化していたあの時・・・先の見えない未来、行く宛てもない孤独、そしていつ殺されるのかもしれないという恐怖に彼は疲れ切っていました。

いっそこのまま死んだ方が楽なのではないか?そんなことを悟っていた時に出会ったのが、彼女でした。

臆病だけど誰よりも優しくて、仲間のことを大切にしてくれて、暗い所にしかいなかった自分を、そこから引っ張り出してくれて・・・

大空から人々を照らす太陽のような笑顔をするあの子に、恋愛感情を抱くのには大した時間はかかりませんでした。

あれからしばらく経って、ウェウダイムが人間界に戻ってもお互い進展はしないまま、ただの師弟関係だけがズルズルズルズル・・・

彼女の方も自分を恋愛対象としてとらえていないらしく、いつまでたっても彼女の中での自分のポジションは「カッコよくて頼りになる弟子」どまり。

このままではいけない。ずっとこの状態が続いてしまえば何もできないまま終わってしまうかもしれない。

ようやく彼は思い立ちました。遅いですけど。

大好きなあの子に、恋愛対象として見てもらうための行動を開始したのでした。





「らんらんらん。らんらららーん」

良く晴れた日のこと。いつにも増して上機嫌な天魅は創作ソングを口ずさみながらホルルト村の通りを歩いていました。

実は昨夜、ユイカと一緒にアイテム界へ行く約束を取りつけていたのですが・・・上機嫌な彼女はそんな約束すっかり忘れて、手を振りながら元気に歩いています。後で恐ろしい目に遭うかもしれないというのに

幸福なことにそれには一切気づかず、歩みを続けていた最中、声をかけられました。

「おい・・・」

「らんらんらんららんら・・・ん?」

多少の誤差は生じましたが声に気づいた天魅は足を止め、誰だろうと振り返りました。

そして声をかけてきた人物を見るなり「あら」とぼやいて微笑みを浮かべると

「エーゼルさん、何か御用ですか?」

毎日のように顔を合わせている仲間に優しい口調で問いました。

表情豊かな彼女とは裏腹に、常にポーカーフェイスというか無表情を保っているエーゼルはその表情のまま、要件を伝えます。

「唐突に尋ねる・・・お前、恋愛経験は豊富か・・・?」

この場に兄(シスコン)がいたのなら、殺伐とした状況になっていたかもしれない、大変命知らずな質問をぶつけました。

彼の口からそんな質問が出てくるとは思ってなかった天魅、声に出すことなく驚いた表情を作り出すと、キョトンとしながら答えます。

「はい、年中無休で兄者に恋してますから」

行き過ぎたシスコン。天魅はためらい一つみせずにまっすぐな瞳で言い切ったそうな。

その後すぐ恋愛に敏感な乙女の思考がフル回転、エーゼルの境遇と言うか状況と、複雑な事情から基づく質問の理由を一瞬で分析すると、すぐさま疑問を言葉に表します。

「もしかして・・・どうしたらサラさんを自分の彼女にできるのか、私に何か良いアドバイスを求めたいのですか?」

「・・・」

無言という返答でしたが、無言ということは否定しないことと同じ意味。つまりは肯定を表します。

それを証拠に若干ではありますが彼の頬が少し赤みを帯び始めた気がしました。

エーゼルの反応に何か面白いモノを感じた天魅、手で口を押えてクスクス笑うと

「ユイカさんと同じ程ではありませんが、面白い反応しますね」

「・・・何故、俺が言いたい事がわかったんだ・・・」

いつもと同じポーカーフェイスで、声色だって通常と変化ないはずだったのにどうしてすぐに分かってしまったのかと、エーゼル表情には出さないものの驚愕している様子。

そんな彼の様子にちょっとした優越感を感じた天魅、手を腰に当てると少し胸を張っていばりながら

「ふふふ、メンバー内の恋愛事情に一番詳しい恋愛マイスターの私に誤魔化しは一切通用しませんよ!」

なんて調子に乗った台詞。ただし恋愛マイスターに関しては自称だったりします。

若干・・・というかかなりふざけている天魅の言動に呆れることなく、どういう訳か頼もしさが見えてきたエーゼルは「なるほど」と納得すると

「理解してくれるのなら話は早い・・・まず、どうすればサラに・・・」

「まずはサラさんにエーゼルさんの事を改めて見直してもらう必要がありますね」

「・・・」

全て伝えきる前にまるで全ての事情を理解したような口ぶりで話を進める天魅。どこか心に火が付いたのか、誰かの恋愛事情に首を突っ込むことが嬉しいというか、楽しい様子を見せていました。

せめて最後まで話を聞いてほしかった彼。しかし、言葉で表現できない何かに引き止められたため、天魅が満足するまで喋らせてやろうと決断しました。

「単刀直入に言いますと、サラさんはエーゼルさんのことを“とっても強くて頼りになる弟子、含めお友達”程度にしか思っていないでしょう」

「う・・・」

その言葉に否定できる個所はどこにも存在していません。エーゼルは少し視線を落とします。
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