ディスガイア小説

□八千年目のラブレター
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行き先はデスコが収容されていた地獄の最深部。そこは滅多に人が来ないため、内緒の話をするのにはうってつけの場所でした。

「ここなら大丈夫、きっとばれずにすむ。うん」

「一人納得と満足してないで、早く事情を聞かせてくれよ」

三段目の階段に腰かけ、レトンはこれからどんな面白いことが聞かされるのかとわくわくしていました。

その下の一段目の階段に腰かけるイリアも、何も言ってはいませんが興味津々。ミーミーも同じようです。

期待するほど面白い内容ではないんだけどなぁ・・・。と苦笑いを浮かべつつ、忌濡は事情を説明する前に、古ぼけた手紙を二人と一匹に見せました。

「何だコレ?随分ボロい手紙だなぁ」

「何て、書いて、あるんだ?」

「ニャー?」

二人と一匹が思い思いに声を上げると、手紙をしまった忌濡は切り出します。

「これは、僕のお師匠様が生涯愛し続けた人にあてたラブレターだよ」

「へー。ラヴレターか・・・俺にもそんな時代があったようでなかったなぁ・・・・・・ん?」

ラブレター。その意味は恋文。

さらに詳しくすると、愛を告白するときに使う手紙のことです。

魔界では愛という言葉は死語です。つまり、ラブレターを書いて愛を伝える行為など、魔界では愚行以外の何物でもありません。

しかも、忌濡の言葉にも引っかかるところがあります。生涯愛し続けた・・・なんて悪魔では決してあり得ない行為です。

言葉と手紙の正体に驚いた悪魔三人は

『ラブレターぁぁぁぁぁ!?』

と絶叫してすごい勢いで後ずさり。ミーミーはレトンの肩に飛び乗り、毛を逆立てて悲鳴を上げています。

わずか数秒で距離が開いてしまいましたが、忌濡はそこまで気にすることなく苦笑いを浮かべて

「はは・・・そりゃあ驚くよね、悪魔ってそういう綺麗な言葉が嫌いだもの」

「お、お前は何とも思わないのかよ・・・」

忌濡から一番遠い壁にはりつき、ドン引きしているレトンは尋ねました。

「悪魔の実態を知った後は、お師匠様って変わってる人だな・・・って思ったけど、対して気にならなかったよ」

「そうか・・・さすが元人間、肝が据わってやがるぜ・・・」

彼の度胸に関心したレトンですが、元人間の彼からすれば、悪魔の方が異常に見えてしまうことを、レトンは知りもしません。

驚きすぎたのが原因でしょうか、レトンの腕にすがりつくようにつかまっているイリアは、恐る恐る尋ねました。

「それと、忌濡の、悩み、関係、あるの、か?」

「まあ一応ね。それよりそろそろ戻ってきたらどうかな」

そう指摘され「それもそうか」と二人と一匹はあっさりと、忌濡のもとに戻ってきました。ラブレターの衝撃は、すでに忘れさられています。

「お師匠様が亡くなる寸前、“もし、あの人が生きていたら、これを渡してほしい・・・私の代わりに・・・”って僕に渡してきてね。百年も世話になった大切な人の最後の頼みだし、絶対に成し遂げようと思ってるんだ」

「そりゃあ善意が詰まった行為だことで、でも、それとため息と何の関係があるんだ?」

「忌濡の、師匠の、想い人、見つからない?あるいは、死んでる?」

悲しそうな目を向けて尋ねるイリアは、思い詰めている忌濡を慰めるためにゆっくりと近づいてきます。

しかし、女性が苦手の忌濡。イリアが近づいてくるのと同時にゆっくりと後ずさりました。しかも、その表情は若干・・・というかかなり歪んでおり、これ以上何もしないでほしいと目で訴えかけている様子が窺えます。

ちらりとレトンに目でSOSを訴えますが、悪魔である彼にそんな善意なんてありません。そっぽを向いて口笛を吹いています。しかも異様に上手です。

「忌濡、かわいそう。今は、いない、師匠の、ことで、ずっと、思い、悩んでる」

じりじり迫ってきます。忌濡の背中が壁とぶつかります。

「う、うん・・・」

「イリアと、ミーミーと、ついでに、レトンが、何とか、してみせる。だから、正直に、言ってみろ、お前の、悩み」

目の前の彼女は決して、女性が苦手な彼をいじめるために近づいているわけではありません。ただ、彼を心配しているから、何とかしてやりたいと思っているからゆっくりと迫ってきているだけなのです。

そんな善意からくる行為だということは理解していますし、拒絶することが愚かなことであることだってわかっています。しかし忌濡にとってそれは、恐怖の存在が迫ってくるようにしか感じられません。

「イリア、忌濡の、味方、だぞ」

彼女の善意が十分伝わり、二人の距離が三十センチ以下になったところで、忌濡は地獄全土に響き渡るほどの大声で悲鳴を上げたのでした。
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