ディスガイア小説

□八千年目のラブレター
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時は五十年ほどさかのぼります。

地獄のある魔界の一角には日中でも薄暗く、天に届きそうなほど高くそびえ立つ竹がいくつも生えている竹林がありました。

その中にポツンと、東にある和の国の家を思い出させる、木でできたレトロな・・・悪く言えば質素でボロい風貌の小さな家が建っています。

そこには単独で活動し続けている陰陽師と、元プリニーであり現在は陰陽師である弟子が住んでいました。

師の名前は忌異(きい)と言い、弟子の名前は忌濡といいました。

陰陽師としての技を磨きながら、生活していた忌濡はある日、手紙を書いている師にお茶を運んだ後、こんなことを尋ねたのです。

「お師匠様。なぜお師匠様は誰とも結婚しようとしないのですか?」

「いきなりドストレートに聞いてくるねぇ」

遠慮しない弟子に尋ねられ、高齢のため普通の陰陽師よりも少し老けた容姿を持つ忌異は筆を置き、苦笑いを浮かべながら答えてくれました。

「答えは簡単。私には絶対に忘れられない大切な人がいるんだ」

はて、忌濡は悪魔という生き物は愛とか純愛といった言葉とは無縁の存在だと思っていたため、忌異の答えを珍しく感じ首を傾けました。

「大切な人・・・ですか?」

「そう、大体八千年ぐらい前に一目惚れしちゃってね。それはそれは美しくて、強い心と力を持った女侍だったんだ・・・」

「へぇ・・・」

時に魔王や魔神から依頼を受けることがある師が、遠い過去を思い出しながら瞳をキラキラと輝かせている様子に、忌濡は思わず苦笑い。

美しい過去の思い出にひたる忌異は突然、顔に影を落とすと

「だけど、あの人とは生き別れになってしまってね。今あの人が生きているのか、死んでいるのかわからないんだ・・・」

「お師匠様・・・だから誰ともお付き合いをしないと・・・?」

「そういうこと」

ここで会話を終了させた忌異は再び筆を持ち、紙に字を書いていきます。どこか寂しそうな表情のまま・・・





それから五十年。忌異は忌濡が正式に陰陽師として認められた日に亡くなりました。

もともと一万歳を超える高齢者でしたし、持病もいくつかあったためいつ逝ってしまってもおかしくない状況にありました。

彼が亡くなった後、行く場所も帰る場所も無くなってしまった忌濡があてもなくふらついている時、偶然レトンたちと出会ってとんとん拍子でことが進み、地獄ファミリーの一員となったのです。

そこの詳しい話は、本編内容とは全く関係ないので省略します。

太陽が傾き始めた昼過ぎ、拠点に置かれてあるヴァルバトーゼの銅像(フェンリッヒ手作り)の下に座り込んでいる忌濡の手には、少しばかり古ぼけてしまっている手紙がありました。

その手紙をぼんやりと見つめて、空をあおぐと彼はため息をつきます。

「・・・どうしよう」

「何か悩み事か!?」

やけに楽しそうな声を上げ、持ち前のスピードと靴装備のお陰で上がったムーブを生かし、光の速さで現れたのは自由行動に定評のあるレトンでした。肩には相棒(ただし、飼い主はユスティル)のネコサーベル、ミーミーを乗せています。

「お前が、悩むなんて、珍しい」

それに少し遅れてやってきたイリアが、ため息をつく彼を心配して近寄ってきます。

しかし、年齢を問わずに女性が苦手な忌濡は立ち上がり、彼女が近づくの同時に後ろに下がっていきます。

「べ、別に誰だって悩むことはあるし・・・とりえあえず、それ以上近づかないで。お願いだから・・・」

「む、それは、すまない」

彼の特性と事情を理解しているイリアは、すぐ負い目を感じると足を止めて、忌濡にこれ以上近づこうとはしませんでした。

負い目を感じるイリアとは対照的に、ワクワクと瞳を輝かせているレトンは忌濡に近寄ると

「何だ何だ何に悩んでるんだ?マネーか?恋バナか?はたまた昔の事情がヴァルバトーゼにばれそうに・・・」

「しーっレトン君!ここでそのことを話さないでって何度も言ってるじゃないか!」

「おお、うっかり忘れてた」

この様子だといつ彼が口を滑らせて、自分の過去がヴァルバトーゼたちにばれてもおかしくないと認識する忌濡は、やれやれとため息をつかずにはいられません。

「何度も何度もため息つくなよ、幸せが逃げてくぞー」

陽気に肩を叩くレトン。しかし彼の幸せを逃している原因が確実に、目の前にいるこのガンナーなのです。レトン本人がその事実に気付いていないだけ、幸せなのでしょうか。

「・・・帰っていいかな」

「まあまあ遠慮するな。お前は俺のおも・・・じゃなくて相棒なんだから、お互い辛いことや苦しいことは包み隠さず、フルオープンするべきだろ?」

「それってただ、レトン君が暇つぶししたいだけだから僕のプライベートに首を突っ込みたいだけっていうか、さっきオモチャって言いかけたよね」

的を付いた忌濡の反撃に、レトンは楽しそうな表情のまま口をつぐみました。図星だったのか、顔から汗が流れ出します。

「・・・・・・・・・・・・・・・そんなわけないじゃん」

すごく長い間です。少なくとも十秒以上はありました。

まあ、何だかんだ言っても彼は、魔界で頼れるものが一人もいない忌濡の唯一の支えでもあります。

それに一人で抱えているより誰かに打ち変えたほうがずっと楽になりますものね、忌濡は内心ヤレヤレとは思いつつ、場所を変えてレトンたちに事情を説明することにしました。
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