ディスガイア小説
□ドジっ娘の本領発揮
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ここは地獄で働くプリニー教育係や看守などが住まう寮のような場所。
時刻は午後三時。まだ仕事の時間帯なため人気は全くありませんでした。
しかし今、この場所を我が物顔で歩く者が一人おり、その後ろをテコテコと親の後ろを必死についていく子動物のような人物が一人。
我が物顔で歩く彼の名はウェイル。元囚人の腹黒戦士。三度の飯よりメイドさんが好き。
後ろをついていく彼女の名はレシア。超ドジっ娘の女戦士。三度の飯より料理が好き。
似ても似つかぬ性格の二人は、ただただ黙って歩いていたわけですが・・・
少し、ほんの少しだけいつもと様子が違いました。
それは、レシアの服装のことです。いつもは軽装備の彼女ですが、今日はベルトファッションではなくごくごく普通の、いわばノーマルのメイド服に身を包んでいました。
ちょっと恥ずかしそうに頬を赤くしながらてこてことウェイルについて行く彼女。彼本人は何食わぬ顔でスタスタと歩いていました。
しばらく歩いていると、ふと、彼は足を止めて振り返り、メイドファッションに身を包んでいるレシアを見ると
「さて、ここらでいいか。レシア」
「あ、はい・・・ウェイ・・・じゃなくてご主人様・・・」
時は若干戻り約23時間前。食堂にて
「ホント、お兄様の言動ときたら最近飽き飽きする所がありますわ」
テーブルの上で頬杖をつき、やれやれと言わんばかりにため息をついたノアは、目の前で銃の整備をしている今どき(?)口調の盗賊、トトコを見ながら呟きました。
「ふーん。例えばどんな所?」
「そうですわねぇ・・・強いて言うならあのセルテアの抱擁地獄を一種の快楽として受け止めている所かしら。同じ男である忌濡やエミーゼルでさえ拒絶しているというのにお兄様ったら幸せそうな表情を浮かべて・・・妹として情けありませんわ」
愚痴をこぼしながらため息をつくノアは、一息つくと手元のティーカップを持ち上げ、中にあるミルクティーを一口飲みました。
銃を解体し始めたトトコは、大した興味は無いような様子。解体した銃を清潔感丸出しの白い布でキュッキュと拭きながら言います。
「ふーん・・・そういえばさ、アタシこの前超すごいもの発見しちゃった」
「超すごいもの?それって何ですの?・・・あ、ちょっとレシア」
「えっ?何?」
突然ノアに声をかけられたレシア本人は、隣のテーブルを拭いていた手を止め、目をぱちくりさせながら用件を聞きました。
「ミルクティーくださらない?丁度なくなってしまったの」
「ミルクティーね、ちょっとだけ待ってて」
にっこり笑顔で用件を聞いたレシアは、テーブルを拭く作業を一時中断し、食堂の奥へと消えていきました。
「あ、転ばないように気をつけ・・・」
ノアは転倒回数ナンバー1のレシアに声をかけましたがもう遅い。すってころりんとレシアは前方に転びました。
「(あー・・・)」
言わんこっちゃない・・・。まるで注意したのにも関わらず目の前で転んでしまった子供を見る親のような表情を向けるノア。そんな彼女にトトコは何故か不機嫌そうに言います。
「で?超すごいこと聞くの?聞かないの?」
「聞きますわ」
ノア即答。この瞬間レシアのことを心配するという悪魔にしては優しい感情はどこかへと消えてしまいました。
「ちょっと小耳に挟んだんだけどさ、昨日レトン達とルファとユスティルがフェンリッヒに殺されかけたらしい」
「え、あの自由馬鹿一行とルファとユスティルが?馬鹿一行はともかく、何故人畜無害そうなあの二人がフェンリッヒさんに殺されかけたのでしょうか」
「さあね、アタシもただ噂を聞いた程度だから詳しくは知らないけど。現にあいつら、今日一度も見てない」
「そうえばそうですわね・・・。まあ、ルファとユスティルはともかく、あの自由馬鹿がこの世から消えて無くなってしまったとしても、私には何の関係もないことですわ」
いつも自由馬鹿レトンと一緒に行動しているミーミーや忌濡やイリアはどうでもいいのかどうかは定かではありませんが、ノアは平然と言い捨てました。
白い布で銃の部品を拭いていたトトコは、布を置いて解体した銃を組み立てながら言い出します。
「大人しくしておけば、あのヴァルバトーゼ馬鹿のフェンリッヒの餌食にもならなかっただろうに、ホントここにいる奴って超ロクな奴がいない」
「そうだな。ちなみにその超ロクな奴じゃない奴のリストには当然お前も入ってるぞ、盗み下手な盗賊」
「誰が超盗み下手だって!!」
突然背後から自分を馬鹿にするような声をかけられ、驚きつつ振り返るとそこには腹黒戦士ウェイルの姿がありました。
彼はニヤニヤと、見る人によっては腹を立てるかもしれない笑みを浮かべながら、敵意むき出しのトトコに向かって言います。
「何だその“自分はそんな奴じゃない”って言いたそうな顔は。言っとくが俺はただ事実を言っただけだ」
「(むかっ)そんなことは超わかってるし!アタシはただ人が気にしてることを嫌味ったらしく言ってることに怒ってるだけだし!」
「(そうかしら・・・)」
ウェイルを睨むトトコをどこか遠くの世界を見つめるような様子で見ているノアは、心の中で疑問に思いました。しかし今言ってもまともに取り繕ってはくれそうもないので、それを口に出そうとはしませんでした。
威勢よく反論するトトコに対して、ウェイルはニヤリと笑ったまま言い返します。
「えー絶対嘘だろ。俺から見ればお前は、自分はそこまで使えない奴じゃないって言いたそうな表情してるぞ、自分の存在を否定されたくないってな」