ディスガイア小説

□地獄日和
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「まあいいわ。こうして私は今ピンピンしてるわけだから、特に問題らしい問題はないんだし」

自分一人の解釈で問題を解決したルファは、とりあえず納得したように独り言を呟きました。ユスティルは苦笑いを浮かべて「そ、そうだな・・・」と小さく同意するだけです。

「あ、そうだ。私これから買い物に行くんだけど、ユスティルも一緒にどう?」

「行く、今日は看守の仕事も休みだし」

実は嘘です。今日も仕事が彼女を待っているのですが、ルファと一緒にいるためそんなものは斬り捨てるつもりですよ、このお方。

「そっか、それじゃあ・・・」

ルファが目的地の名を口に出そうとした瞬間、突然どんがらがらがしゃーんと、何かがひっくり返ったような大きな音が聞こえてきました。

『・・・・・・・・・』

場所は食堂。そしてこの大雑把すぎるようなわかりやすいような大きな効果音と、聞こえてくる「イタタタ・・・」という小さな独り言。

大体これぐらいで何が起こったか予想できる二人ですが、放っておくわけにも行かず、席を立って入り口近くで座り込んでいる少女、レシアに駆け寄ります。

「レシア・・・大丈夫?」

「あ、ルファ。・・・うん、大丈夫、私は平気だから心配しないで」

スッとルファが差し出してきた手をレシアはにぎり、立たせてもらうと近くにある中身が散乱してしまったゴミ箱を見て

「あ・・・私ったらまたやっちゃった・・・」

「またひっくり返ってゴミ箱の中身ぶちまけたんだな」

やれやれと、テストで二回も低い得点を出してしまった子供を見るような親の目を向けて、ユスティルは小さく首を振ると、レシアはルファの手をにぎっていた手を離し

「はあ・・・私ったらまた同じことの繰り返し・・・やっぱり駄目なヤツなのね・・・私って・・・」

あ、ヤベッ。レシアのマイナス思考のスイッチが入ってしまったことを瞬時に悟ったルファは、彼女を何とかなぐさめようとある話を持ちかけます。

「そんなに自分を責めちゃだめよレシア!ほら!今日はただ何も無い所でひっくり返っちゃったけど、昨日・・・じゃなくて一昨日はゴミ箱の中身を思いっきりヴァルバトーゼ閣下にぶちまけちゃってたじゃない!」

思いっきりそれをぶちまけた後、フェンリッヒから発生した無限の怒りは量りしれなかったと言う・・・

「(よく生きてたよなぁ・・・レシア・・・)」

「確かに一昨日、私が駄目でドジなヤツだから閣下にゴミ箱の中身を思いっきりぶちまけてフェンリッヒさんに半殺しにされたけど・・・」

「(半殺しにはされたのかよ!)」

決して声には出さないユスティルの本心。

「一昨日は閣下にぶちまけたから、下手したら死んでいたかも知れないほど酷い目に遭ったと思うけど、今日は誰もいない所でひっくり返っただけで人的被害はゼロよ!これも進歩よ!アナタは日々成長してるの!」

「進歩・・・?私が・・・?」

己の耳に入った進歩、という言葉が自分の中に発生していることが信じられない様子で、レシアは目を見開いて驚きました。

ルファは「そうよ」と小さく同意の言葉を言い、首をタテに振ると

「だからもっと自信を持っていいの、もっと積極的に行動していいの。アナタは決して駄目な子なんかじゃない。本当に駄目な子だったらここにはいないでしょ?」

「そっか・・・そうだよね・・・。ありがとうルファ」

彼女の説得に耳を傾け、自分は本当に駄目な子なんかじゃないと認識することができたレシアは、ぱっと明るい笑顔を作り、床にぶちまけてしまったゴミ箱の中身をサッと元に戻すと、フタをして持ち上げ

「私、もっと頑張ってみる!」

「うん、その調子その調子」

そう言って歩き始めた瞬間、モップで拭いて滑りやすくなっているわけでもないのに、バナナの皮が前もって置かれているわけでもないのに、ワックスをかけたわけでもないのに、彼女はツルリと滑ってまた前方に転びました。

転んだ瞬間ゴミ箱は宙を舞い、中身を撒き散らしながら、掃除していたプリニーの頭に見事命中。角がクリティカルヒットしたので、彼は悲鳴も上げずその場に倒れました。

倒れたレシアはすぐに起き上がると、倒れてしまったプリニーを見て顔を真っ青にして

「きゃあ!私ったらまた人的被害を出しちゃった!大丈夫!?しっかりして!」

倒れた彼を必死に揺さぶりますが、当然返事は返ってこないわけで

その様子を唖然としながら見ていたユスティルは、さらに唖然としているルファの肩をポンと叩き

「ルファ・・・本当にあれで大丈夫なのか・・・?」

「ごめん、よくわからない・・・」

涙目を浮かべて倒れてしまったプリニーを揺さぶる彼女を見て、二人は何ともいえない不安な気持ちに襲われました。





あの場はレシアに任せることにして、二人は一緒に廊下をてくてく歩きます。

「それでね、その時のアクターレ様がとてもとても神がかり的にカッコよくって・・・」

「へー」

ルファが楽しそうに話すことといえば、アクターレの話題しかありません。しかし別にアクターレなんてアイテム界にいつの間にか存在していた低レベルのノートリアスと同じぐらいどうでもいいユスティルなのですが、奴を軽蔑するとルファが黙っちゃいません。なのでいつもアクターレの話題は適当に聞き流すことにしています。恒例行事です。

「地獄の皆はアクターレ様のことを罵倒しているけど、私は誰が何と言おうとアクターレ様のファンであり続けるわけであって・・・」

「ふーん」
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