ディスガイア小説
□呪われている本
2ページ/7ページ
「うむむ・・・どこにも鍵なんてないし・・・きっと鍵が無くなって、誰も読めなくなっちゃったから処分されるはずだったのよ」
「そうなの?」
「それしか考えられないわ。悪いけど、これを読むのは断念した方がいいわね・・・あら?」
そう言い放ったトルネアが見つけたのは、本の裏表紙に半分だけ顔を出している、黒くて小さな水晶玉でした。
「何これ」
「見せて見せて」
ミンティーが言うと、トルネアはあっさりと彼女に本を返しました。
「むむむ・・・?」
じろじろとその水晶玉を凝視してみると、その中には「心悪しき者、触れるべからず」と文字が書いてあることが、確認できました。
「どれどれ?」
それに興味を持ったミンティーは、右手を水晶玉へと持って行き、それに触れました。
その瞬間、水晶玉が弾けるように割れ黒い光がその場どころか凶室全てを包み込みます。
「うわわわわ!?」
「なっ!?何事!?」
突然の事態に二人は驚きます。そして凶室内にいた生屠達も驚きます。
その光は一分も経たずに消滅した時、突然の事態に頭がついてこれなくなったミンティーとトルネアに、あやめと二トが声をかけます。
「二人とも大丈夫アルか!?」
「一体何したの!?」
二人が口々に言った瞬間、凶室に太い笑い声が響き渡ります。
「はーっははははははははは!ははははははははげほっごほっ」
え、誰?しかも最後むせてるし。生屠一同の思い。
その笑い声と同時に、凶室の天井付近に現れたのは、マントに身を包んだ男でした。
「・・・誰?」
不審者を見る目つきで見上げるトルネアは、あまり関わりたくないと思いつつ、その男に声をかけました。
すると、その男はゆっくりと四人の前に降りて言います。
「私はこの本に封じ込められていたとある魔神です」
小さく頭を下げ、紳士的な態度で言いました。
「本に閉じ込められてた?」
「そうです。随分昔に魔術師に理不尽に閉じ込められ、さらには半永久に出られない呪いをかけられてしまいました」
「半永久に出られない呪いって?」
ミンティーが尋ねると、男は過去を思い出したのかふと悲しい目つきになり、語り始めます。
「半永久に出られない呪い・・・それは心優しき者がこの本に触れなければいけない呪いです」
「そりゃあ永久に出られないアルな」
「魔界に心優しき者なんて死語同然だよ」
あやめとニトが彼の言葉に頷いて同意しました。ただし、ミンティーは何故?と言いたげな顔をしています。
しかし男はお構い無しに続けます。
「アナタが本の封印をといてくれなかったら、私は一生本の中で過ごしていたでしょう。アナタは命の恩人です」
感謝を述べた男は、そう言ってミンティーの両手を握りました。遠くの席からそれを見ていた冷夜の血管が切れる音がしました。フィーノがそれにビビりました。
感謝されたミンティーはまんざらでもない様子でにっこりと笑い
「喜んでもらえるのなら嬉しいよ」
「ええ、ですがこれだけでは紳士である私の気がすみません。ここは一つ、恩返しをさせてください」
男はそう言うと握っていた手を離し、杖を取り出すとマントを広げて、ミュージカルの役者のように言い出します。
「この私が、アナタの願いを何でも叶えて差し上げましょう!」
『何ぃい!!?』
絶叫したのはミンティーではなくクラスメイト全員です。己の欲には驚くほど正直な悪魔たちが、こんな願ってもいないチャンスを見逃すわけがありません。
周囲の悪魔達が目をギラギラと光らせているとも知らず、ミンティーは
「叶えて欲しい願いなんてないよ」
笑顔で言い切りました。
『何だってぇ―――!?』
周囲の悪魔と魔神の男が絶叫する中、ミンティーは平然続けます。
「だって私、今の生活にはすごーく満足してるし、欲しいモノとか特にないし」
「え・・・でも、いいの・・・?一生に一度しかない大チャンスなんですよ・・・?このまま棒に振ったら一生後悔しますよ・・・?」
まさかの返答に、男はかなり動揺しています。そりゃあ誰だってこんな返答予想しませんよね。
「別にいいよ。そんな無理しなくったって」
そう言い切るミンティーの笑顔は、どこぞかの聖母を思い浮かばせたと言います。(ただし冷夜談)