ディスガイア小説

□トラウマはいつも平行線
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場所は変わってアグルの魔境。
不思議な形の植物や木が茂っているジャングルのようなこの場所は、魔界有数の樹海スポットとして知られており、自ら赴く悪魔は少ないと言いますが。
「ペットどこだ―――!テメーに俺の酒がかかってんだぞ!とっとと出てきやがれ!」
「どこですか―――!?飼い主さんが心配してますよー!」
ペットにかけられた賞金が100万ヘルだと知るや否や、目の色を変えたリアスはユイカとアリナをほぼ強引に巻き込み、目撃情報が多いとされるこの場所まで来ていました。なお、言うまでもなくアニューゼもいます。
「たかがペットに100万か・・・」
「さっすが貴族、思考が私たちの斜め上を行ってるわね」
「・・・思い入れが強いというか・・・見境がないというか・・・」
前方で声を上げてペットを探す2人とは違い、無理矢理ペット探しに協力させられた3人はほとほと呆れた様子。最後尾にいる仏頂面の表情を読むのは至難の業ですがさておき。
「にしても貴族のペットの影響力ってすごいわね、普段は人気の少ない魔境がハイエナ悪魔だらけじゃない」
周囲を見渡すアリナの言う通り、周りには縄や網を持ち、目をギラギラさせてウロつく悪魔が多くいます。彼らも天魅と同じくビラを貰って詳細を知り、リアスと同じく金に目がくらんでペットを捕獲して賞金を得ようと企んでいるのです。
「考えている事は皆同じか・・・悪魔は単純だな」
「ん」
「その単純な奴らが丁度目の前にいるわよ」
そこは見て見ぬ振りをする天使2人。虚しいので。
「ところで天魅、行方不明になったペットってどんな魔物なんだ?」
「アンタそれも知らないでここまで来たの!?」
絶叫したのはアリナです。ユイカも呆れ果ててため息をついています。
「金と酒の事しか頭になくてすっかり忘れてただけだっつーの、よくある話だろ?」
「ないわよ!」
「あ、えーっと・・・ビラに写真が付いてましたよ?」
これ以上の口論を止めるため、天魅は袴から4つ折りにされたビラを出すと、その場で振り返って後ろの3人にも見えるように広げます。
「貴族、ファールテンネさんの愛蛙、ワーズラックのワンちゃんです」
ビラには全体の3分の2を占める大きな写真と連絡先、そして「無事に捕獲してくださった方には謝礼金として100万ヘルお支払します」という大変重要な項目が右端にちょこんと載っていました。
写真に写っているのは、赤い首輪をしている水魔族の魔物と、その頭上に肘の乗せて微笑んでいる夜魔族の女性です。この女性こそ貴族ファールテンネであり、水魔族のワンちゃんの飼い主なのでしょう。
若干強調されているような気がする夜魔族の谷間にアリナが目つきを鋭くさせていますが、触れたらたちまち罵詈雑言の嵐を喰らうので誰も触れませんし言いません。
複雑な表情を浮かべているユイカは、一旦その話題を頭の隅に追いやって、
「水魔族なんて久しぶりに見るな・・・」
「チャチャマさんから聞いたんですけど、この魔界にワーズラックはいるにはいるそうですけど数は少ないそうです。だから希少価値が高くて貴族の間でちょっとしたブームだとかなんとか」
何でも手に入れられるからこそ、滅多に手に入らない珍しい物には目が無いのが貴族です。そこに莫大な資金をつぎ込み、マスコミのネタにされてしまうのはどこの世界でも日常的にある事。
「・・・この魔物は・・・初めて見」
珍しく関心を覚えたアニューゼがそこまで言った時、突然背中に何かが伸し掛かってきました。
「・・・・・・?」
首を傾げながら振り向いた彼が見たのは、子泣き爺のごとく背中にしがみついてピクリとも動かないリアスです。よく見ると小さく震えています、何かに怯えるように。
「何を・・・しているんだ・・・?」
ついさっきまでやる気に満ち溢れていた彼女が突然意気消沈してくっついてきてるのですからアニューゼが動揺しないワケがない。いつものようにボソボソと、でも恐る恐る尋ねると、
「・・・んで・・・カエル・・・」
「ん?」
うまく聞き取れずに首を傾げた刹那、リアスは顔を上げ、
「なんでよりによってコイツなんだよ!どうして貴族がこんなもん飼ってんだよ!趣味悪いっつーか奴を飼う神経がそもそも分からん!馬鹿なんじゃないのかこの女!」
「ん?ん?んん?」
半泣きになって絶叫。訳が分からず目をぱちくりさせるアニューゼとは違い、女性陣は冷静でした。
「ああ〜、そういえばアンタってワーズラック系もトラウマだったのよねぇ」
「すみません・・・リアスさんのトラウマ事情をすっかり忘れてました・・・」
「大金を得るために必要なのがトラウマの対象・・・か」
口々に出てくる「トラウマ」という単語に反対側に首を傾げるアニューゼ。この中でリアスの数多いトラウマ事情を知らないのは彼だけです。
「トラウマ・・・?水だけじゃなかったのか・・・?」
「コイツさ、小さい頃にワーズラックにボコボコにされて死にかけてからトラウマになっちゃってるのよ」
ワーズラックという単語が出る度に、背中のリアスがビクッと体を震わせて反応している辺り、本当に恐ろしいようです。幼少期のトラウマ恐るべし。
「繁殖期で気が立っているワーズラックさんたちにちょっかいをかけて返り討ちにあったんですよね?」
「しかも自分の強さを過信して」
天魅とユイカが口々に言うと、リアスはとっさに顔を上げ、
「ちょちょちょっと待て!?何でそんな細かいエピソードまで知ってんだ!?そこまで言った覚えはないぞ!?」
『イレーナさんから聞いた』
「あのクソババア――――――――――――――!!」
今頃、地獄の某所で高笑いしているであろう師への怒りを空に向けてぶちまけたのでした。
「リアスの師匠って・・・どんな悪魔なんだ・・・?」
「聞いた通りの悪魔だ」
「ん?」
アニューゼ、理解不能。
「なあアリナ・・・俺は魔王城に帰るからさ?ペット探しはお前らだけで・・・」
「じゃあアンタの取り分はナシねー」
「うぐっ」
言葉を詰まらせるリアスを見るや否や、アリナはふふんと鼻で笑います。
「私たち4人で山分けしたら1人25万ヘルって所かしら?25万ヘルかーどうしようかしら・・・この前新しくできた高級スイーツ店にでも行ってみようかなー?あそこのイチゴパフェ、1度食べてみたかったのよー」
目的がリアスと酷似しているとアニューゼは思いました。酒かスイーツかの違いです。
天魅とユイカが呆れた様子で眺めていると、案の定リアスがアリナに喰ってかかる訳で、
「お前はパフェ食って俺は酒無しってか!そんなの納得できるワケないだろ!」
「じゃあ我慢して協力すればいいじゃない。ちゃんと働いてちゃんと報酬を貰う、それが世の中のごくごく普通の流れでしょ?」
言い方はともかくアリナの意見は真っ当です、抜け駆けは許されないのですよ。
黙ってやり取りを聞いているだけのアニューゼは、背中にくっついたままのリアスが小さく震えている事がすぐ分かりました。それはワーズラックによる恐怖ではなく、アリナに対する怒りだと理解し、何も言いませんでした。こういう時は慰めた方が余計に怒鳴られるので。
「だったら・・・」
「だったら何よ」
怒りで震えるリアスはさっきからずっとアニューゼの背中にくっついている状況を忘れて、大声で叫びます。
「だったらお望み通り最後まで付き合ってやるよバーカ!これで1人20万ヘルだぞ!5万ヘルも減ってやんの!ざまあみろ!」
「たかが5万ヘルでギャーギャーわめくほど子供じゃないわよ。口と腕力と体力はいっちょ前なのに中身がコレじゃあタカが知れてるわね」
「体力も腕力も一般人以下のクセに!」
「何とでも言えばぁ?」
「ぺったんこ女!チビ!」
「はあ!?」
怒りのあまり口に出してしまった禁句。その瞬間アリナは杖を出してリアスを睨み、リアスもまたアリナを睨み続けます。背中から。
ぺったんこ、というフレーズが出た途端にユイカの顔が引きつりましたが、天魅は見なかった事にしてそっと目を逸らすのでした。
一触即発のピリピリした雰囲気の中、次に声を上げたのは渦中の中心にいる彼。
「とりあえず・・・俺を挟んで喧嘩するのはやめてほしい・・・」
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