ディスガイア小説

□ラスボス襲来
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「そうか・・・奴らは・・・いないのか・・・」
項垂れたままボソボソと喋り出す男にアリナは杖を向け、
「いないって言ったでしょ?これ以上何かするならこの場で凍らせるわよ」
「我に向かってその生意気な態度・・・やはり覚えておらんようだな・・・そうか、ならば教え」
「ねえリアス、このオッサンってアンタの知り合いとかじゃないワケ?もしくはアンタの前の師匠繋がりとかさぁ」
男が名乗ろうとするも、明らかに機嫌が悪くなっているアリナが見事に遮ってしまい、主張は強制終了の一途を辿ってしまうのでした。
「・・・・・・」
相手の話なんて聞こうとしないアリナの態度に呆れるどころか唖然として、言葉すら出て来なくなってしまった男。
完全に停止してしまった彼をよそに、リアスはさっさと立ち上がって、
「俺が知る限りあんなオッサンと関わった記憶はないぞ。師匠は・・・自分の事をあんまり喋らない悪魔だからなぁ、聞かれても分からん」
「そう、じゃあ本当によく分からないわねこのオッサン・・・そこそこ歳喰ってるし」
「歳喰ってる・・・あっ!じゃあ老化が原因で起きる頭の障害で他人に対して一度会った事があるように振る舞ってるって線はどうだ!?」
「あーありそう!きっとそれよ!まだヨボヨボでもないのにこんなのになっちゃって、誰がこんなになるまで放置したのかしら」
「うおい!我を勝手に年寄り扱いするでないわ!」
老人扱いされるのだけは無視できなかったのか、男は突然声を荒げて叫び出し、通りすがりの子供を硬直させてしまいました。
今にも泣きそうになった子供を母親らしき女性が慌てながら抱き上げ、逃げるように去っていく姿をリアスは横目で追うだけで、アリナは、
「うるさいわねオッサン。アンタの事なんかこれっぽっちも知らないんだから好き勝手言われても仕方がないじゃない、分からないから憶測とか偏見とか妄想が生まれるのよ」
呆れるように断言してため息を吐きます。もう既に原稿は見ていません諦めています。ただでさえ良いアイディアが浮かばないというのに知らない男に絡まれてしまったのですから、アリナでも諦めてしまうというもの。
ただし警戒心とストレスは保っているので杖は仕舞われていません。その気になれば昼間のホルルト村に氷像を誕生させる事だってできます。
彼女の魔力が高いのはレベルを見れば火を見るより明らかですが、男は態度を改めずに絶叫を続けます。
「貴様らぁ!コロシアム地下や屍の荒野で我の顔を見ていたのではないのか!?」
「知らなーい」
「俺も俺もー」
必死に叫び続ける男の訴えは少女たちに1つも届かず、返って来るのは冷たい言葉ばかり。
「適当ないちゃもんでも付けてカツアゲしようって魂胆なんじゃないの?小物ねぇ」
「見た目の割に器の小さいおっさんだなー」
「黙れ黙れ!我の目に狂いがなければ!貴様らはあの時、我が城でアデルや姫と共に我と対峙しただろう!物語の最後に!」
もはや答えのような言葉が飛び出しましたが、2人の少女は首を傾げてお互いを見合わせ、
「城って何かしら?」
「最近城に行った覚えないぞ?」
「そうよね?狂いがあるのはあのオッサンの方なんじゃない?」
「確かに」
「ななななな何だとぉ!?」
ここまで言っても気づかないとは・・・男が更なるショックを受けている最中、すぐ近くから足音が聞こえます。2人分の足音でした。
「・・・なんだか騒がしいな」
「どうしたんだろうね?」
男は見向きもしませんでしたがリアスはその2人を視界に入れると、すぐさま手を大きく振り、
「エーゼルーサラーちょっと来てくれ」
リアスと同じく暇だったのでお散歩をしていたエーゼルとサラを呼び寄せ、首を傾げながらも来てくれた2人に尋ねます。
「あそこで突っ立ってるオッサンがさー俺たちの事知ってるとか言い出しててメチャ迷惑してるんだけどよ、何か知らないか?」
「・・・・・・」
「う〜ん」
興味がないのか無言のままのエーゼルと、興味はないけどノーリアクションではないサラ。性格が出ていますね。
「我には見覚えがあるぞ!このガンナーの小僧に盗賊の小娘!貴様らも我と対峙した事があったであろう!」
男は2人を指して叫んでいますが、エーゼルは興味なさそうに目を向けているだけで何も言いません。見ている、というよりは睨んでいるといった方が正しいのかもしれません。
横でキョトンとしているサラは自分よりも頭2つ背の高い彼を見上げて、
「エーゼルーあのおじさん知ってる?」
「・・・初対面だ」
「何だと!?」
「やっぱりエーゼルたちも知らないのかー」と分かっていたような口ぶりのリアス。後頭部で手を組んであの男をどうするか、のんびり考え始めていた時、
「もしかすると、不審者かもしれませんね」
「おおっ!?」
唐突に背後からリンリンが現れたので驚いて声を上げました。
いきなり出現した彼女こそ、極悪である事に定評のあるアーチャーです。これぞ悪魔!悪魔の鑑!お手本!と一部の悪魔から絶賛されている悪魔。
不審者発言というよりはリンリンの存在が恐ろしくてたまらないサラは、小さな悲鳴を上げてエーゼルの後ろに隠れてしまい、怯えながら様子を窺う事しかできなくなってしまいます。
「とっても面白そうな事をしている気配がしたので来ちゃいました。私も混ぜてくださいな」
「お前が来たらややこしくなりそうなんだがなぁ」
経験論です。リアスだけでなくエーゼルも、サラも、アリナも大きく頷いていました。
極悪である事に定評のある彼女が何らかのトラブルに首を突っ込めば、話が大きくなるどころかややこしくなって解決にひと手間もふた手間もかかってしまうのですから、嫌な顔をされても当然ですが、
「関わるなと言われても関わるのが私のアクマニズムですよ」
「そうだな・・・お前はそういう奴だ」
犬猿の仲というのもあって睨みをきかせるエーゼルが吐き捨てるように言っていますが何事もなかったかのうようにスルーして、
「一応聞くけど・・・リンリンは知らないか?あのオッサンの事」
リアスに尋ねられ、彼女は一旦男に視線をやるとクスリと笑い、
「いいえ、あんな自称魔王神の小物野郎は知りません」
「覚えておる!その口ぶりは確実に覚えておるなアーチャーの小娘ぇ!」
このやりとりは他の4人には完璧に無視され「やっぱりリンリンも知らないか」というムードが漂い始めます。そろそろしかるべき場所に届け出るべきかもしれないとアリナが言い始めたのが聞こえました。
「しかるべき場所?私とアリナさんの婚姻届を出すために市役所の扉を開けてめくるめく新婚生活を」
「アンタは自分の死亡届でも出してなさいよ縦巻き黒ロール」
リンリンにとっては最大級の求愛もアリナにとっては工事現場の騒音並の雑音にしかなりません。冷たく一蹴するのでした。
「全く・・・何でアイツは私にばっか懐いてんのよ腹立つ・・・意味わかんない、私をストレスで殺すつもりなのかしら・・・」
「どーどー」
明らかにストレスが右肩上がりしているアリナをリアスが宥めている最中「今日も相変わらずイライラしてますねぇ」と愛しそうにアリナを眺めていたリンリンは、突然男に向き直り、
「では、本題に入りましょうか」
「本題だと?」
「どうしても貴方の事をアリナさんたちに説明してほしいと仰るなら、一度滅ぼされる前に築いた財産や土地やその他諸々・・・全てを私に提供すると一筆書いてください。それぐらい余裕でしょう?さあお早く」
笑顔でとんでもない事を言い始めました。提案のようにも聞こえますがどう見ても恐喝です。
「笑顔で我の全てを要求してきよった!なんて小娘だ!」
「できないのでしたらそれはそれで構いませんよ?でも、私が説明をしなければ貴方は永遠に狂言を言いふらすだけの不審者野郎です。最終的には事情を知らない誰かにボコボコにされるかどこかに連れて行かれるから二択ですねぇ・・・」
「うむむ・・・だが、一度滅んだ我に前のような地位や権力は無い。あやつらに復讐する事だけが我の生きる理」
「みなさーんやっぱりこの方はただの不審者で間違いなさそうでーす」
男の事情など聴く耳持たずにリンリンは皆に呼びかけるのでした。
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