ディスガイア小説

□ラスボス襲来
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太陽がまだ真上まで登っていないお昼前のホルルト村。
気温はやや暖かく、草むらの上に寝転がれば気持ちよく眠れそうなほど心地よいお昼寝日和。こう晴れの日が続くと農作物に影響が出そうだと心配になる村民もちらほら出始めています。
村民たちの心配など異世界の出来事のように捉えているのは、ホルルト村在住の悪魔たちぐらいでしょうか。
「退屈だー」
アデル宅の正面にある大きな壺。その縁に上半身を預けてすっかりだらけきっているリアス、退屈のあまり全身の力が抜けてしまい、頭のアホ毛までしおれた植物のように垂れていました。
彼女のすぐ後ろでは、ロザリーが勝手に購入した白いガーデンテーブルの上に原稿用紙を広げ、それとひたすらにらめっこを続けているアリナがいて、
「退屈退屈言ってんじゃないわよ、4日ぐらい我慢しなさい」
「4日もアイテム界と修羅の国に行けなかったら確実に全身鈍るー・・・あー戦いてー」
「アンタみたいな戦いしか頭にない戦闘バカには良い薬ね。アイテム界や修羅の国の戦闘に没頭して2、3日帰ってこない時だってあったんだから、謹慎命令が出るのだって仕方のない事でしょ」
「うーぐぐぐ・・・」
「駄目ね、ろくに会話もできやしない」
退屈すぎて会話すら放棄しかけているリアスをフォローする事もなく、アリナは原稿用紙とにらめっこを続けます。ペンは持っていますが原稿用紙は白紙のまま、文具屋で買いたてほやほやのような美しさを保っています。
「あーあ、気分転換に外で書こうと思ったのにいいネタがちっとも出て来ない。身近に色恋沙汰の話がもっと出たら楽なのにー」
「ウチないだろ色恋沙汰・・・姫さんとアデル師匠以外は全く」
「黙れ」
色恋沙汰に鈍い奴が何か言ってたので一蹴。コイツとユイカから何かネタでも取れたらいいのに・・・と心の中でぼやき、いっその事自分の体験をネタにしようとも考えたものの、あの極悪アーチャーに付きまとわれている現実しか思い浮かばなかったので却下しました。
「てかさーさっきからずーっと紙見てるだけだけど、何の儀式してんだよ?」
「儀式じゃなくて原稿よ原稿!3か月後に投稿する原稿なんだけど良いネタ思い浮かばなくって・・・」
ストレスを感じるのも忘れて、ため息が漏れてしまいます。頬杖をついてアイディアを絞り出そうにも、出てくるのはありふれた話ばかりでアリナの好みではありません。
すると、リアスはパッと顔を輝かせて振り向き、
「そういう時は体を動かしたら良いアイディアが・・・」
「その手には乗らないわよ」
体を動かす。どうせならもっと激しく動かした方が良い。じゃあアイテム界に行こう!
という筋書きだったのでしょうが、この程度の罠にはまるようなアリナではありません。一切リアスを見ずに返答したのでした。
「ちぇっ」
しつこくすれば逆上されるだけだと分かっているリアス、これ以上は何も言わずまた前を見た時、
「見つけたぞ・・・ホルルト村・・・」
正面から、金髪オールバックの男性が現れました。
長いマントを羽織り、顎には髭を蓄えている中年ぐらいの男性です。服装から高貴な身分なのではないかと想像できますが護衛らしき者の姿は1つもなく、無防備な状態で立っています。かなり目立つ姿なので、戦場だと真っ先に狙われるでしょう。
こんなオッサンがこんな観光名所の1つもない村に来るなんて珍しい。ぼんやり思いつつ眺めていると、男はゆっくり近づいてくるではありませんか。原稿中のアリナは気づいていません。
それでもリアスは警戒心1つ持たずに男を見ており、彼が壺の前で足を止めると、
「貴様らは・・・あの時奴らと共に我に挑んだ悪魔だな・・・」
「へ?」
「答えろ、あの者たちはどこにいる」
「は?」
首を傾げるリアスの声を聞き、ようやくアリナが男の存在に気付いたのか、興味なさそうに目を向けて一言。
「何コイツ」
「分からん」
「は?」
きょとんとする男、渋い声には似合わない間抜けな声色でした。
「貴様ら・・・我を知らないと言うつもりか・・・?」
『うん』
同時に返事を受けてショックを受けてしまったのか後ずさりする男。退屈だったとはいえよく知らないオッサンと関わりたくはないリアスは体を起こして、
「変な言いがかり付けるなら余所でやれよなオッサン、こっちはすんごい暇だけど知らないオッサンとつるむ気はないからな」
「清々しいほどド正直ね、別にいいけど」
「・・・・・・」
愕然とする男。悪魔という種族であるにも関わらず、自分の気持ちをありのままにぶちまけてきたリアスに対してショックを受けているのではなく、確かに関わった事があるというのに、完全に忘れられてしまっている事がショックだったのです。
彼はしばらくの間固まっていましたが、恐る恐る口を開きます。
「言いたい事は色々あるが・・・その前に1つ問う」
「1つって言ったから1つだけな、それ以上は認めない」
「・・・この村に住んでいるアデルという青年はどこにいる」
「アデル師匠なら3泊4日の家族旅行に行ってっから留守だぞ」
「え」
間抜けな声再び。リアスとアリナによる不審者を見る目つきに臆することなく「ほ、本当か・・・?」と尋ねてしまう男ですが、
「1つしか答えないって言っただろ、ノーコメントだ」
大変イジワルな応えを受けてしまいましたが言葉通りだったので返す言葉もありません。失意のあまり、男は無言で項垂れてしまうのでした。
「そのせいで家の留守を頼まれた上にサボリ対策にアイテム界と修羅の国利用禁止令が出たのよねぇ」
「チクショー!!」
当時の無念が脳裏を過った挙句、その時受けた精神的ショックまでぶり返してしまいリアスは膝を付いて絶叫。私利私欲のために生きる悪魔とはいえ師匠の言いつけは絶対なので大人しく留守番しているしかないのです。
このリアス、前の師匠に反抗して家出した悪魔ですがアデルに対しては反抗する気は全くないので律儀に言いつけを守っています。ワガママババアの世話よりも、熱血戦闘オタクと一緒に戦場を駆け回る方が何倍も良いのですよ。
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