ディスガイア小説

□ミステリーホラーハウス
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回想です。3時間前の同じ場所。
「ここの魔界の名産品は何と言っても太ももぐらいの太さがある凶根アスパラだな!農家の約9割がそれを作ってるぐらいだから、一部じゃアスパラ魔界って呼ばれてる」
「なるほどー。アスパラなのに“根”という字を使用してる点はひとまず置いといて・・・アスパラですかー。アスパラを使ったお菓子ってあったでしょうか・・・」
何気なくぽつり呟いた途端ヒテの目が光りました。獲物を発見した猫のように。
「もしかして!新しいお菓子作ってんの!?試作品とかできたらくれない!?助言するからさあ!」
マフィンのお菓子が食べたいという下心が丸分かりですが、迫る勢いで懇願すると
「まあ!食べ物のプロの方から助言を頂けるなんて光栄です!よろしくお願いしますね!」
下心を知ってか知らずかマフィンは手を叩いて大喜び。目の前の男が手をグッと握ってガッツポーズしているのはしっかり見えていましたが、気にしませんでした。
「おっしゃ!」
という気合の入った小声も聞こえていましたがこれも気にしなかったメイドの目に、例の木造平屋が映りました。不気味な風貌もよく見えます。
「あら・・・あのお宅は・・・?」
「そうそうこの家!情報屋の俺でも全く詳細がつかめない謎多き家!今日はここを調べに来たんだー」
マフィンもヒテも外観を気にせず涼しい顔。マフィンには家よりも気になる事があるので
「ヒテ様でも知らない事があるのですね」
「残念ながらそうなんだよなーでも、その知らない事を少しでも減らすためにこうして自分の足で調べてるんだ」
入り口を背にして語る彼。情報屋として知らない情報がある事は悔しい事ではありますが、努力で情報やとして知識を補おうとしているその顔は、不思議と輝いて見えました。
美しい光景が広がっているその時、背にしてあるドアがゆっくりと重い音を立てながら開いていくのが見えます。
「あっ」
それが確認できたのはマフィンだけ。元からオーバーアクションが少ない彼女の些細な言動では、背後で起っている非常事態をヒテに伝えられません。
「情報やたる者、一番の武器は情報だからなぁ。強くなるために鍛錬魔界に行ってレベル上げするのと同様、情報を得ていくのもレベル上げみたいなモノなんだ」
「あの」
「俺としてはこの家しかりヴォイドダークの一件しかり雇い主2号しかり色々と知りたい事はるんだけど、一番は君みたいな改造メイドさんなんだよなぁ。聞けば聞く程俺が想像もしてない答えが返ってきて」
何も知らないヒテがそこまで話した時でした。
暗闇しか見えないドアの奥から白い手が生えてきたかと思うと、ヒテの襟首を掴むではありませんか。
「おっ?」
ようやく異常事態に気づいたのか振り向いたヒテが見たのは、暗闇から延びる白い手で。
次の瞬間には、すごい速さで引き込まれてしまい、それに合わせてドアも閉まりました。
「ヒテ様!?」
さすがに驚いたマフィンは急いでドアまで行き、ドアノブを回して押したり引いたりしてみますがビクともしません。
「あ、開かない・・・どうしましょう・・・ヒテ様が・・・」
すぐに自分の力ではどうにもならないと悟った彼女は、踵を返すと来た道を引き返します。時空ゲートへ行き、ミニ魔界へと戻るために。





回想終了。
「という訳でして」
「・・・それもうアイツの墓立てときゃいいじゃん、この辺に」
ひとまず落ち着いたミトンが呆れた顔ををして腕を組んでいます。悪魔はどうしてこうなると、墓を立てようとしたり葬式をしようとしたりするんだろう・・・と、前回被害に遭いかけたフィルスは悩まずにはいられません。
「ヒテ様がいないと新作お菓子を味見をして貰えなくなるんです!それはちょっと困るんです!」
「それが目当てなのか・・・」
「他に何かあります?」
「いえ何も」
可哀想な奴め・・・と、コタロウがこの場にいない彼を心の中で憐れむのでした。
「つまりマフィンちゃんは、この家の中にいるであろうヒテさんを助け出してほしいと?タダで?」
「はい。皆さんお暇そうだったので丁度いいかと」
途端に「タダ」の部分を強調させたソレイユの目つきが鋭くなったので「お菓子食べ放題でどうですか?」と尋ねれば、すぐさまいつもの笑顔に戻るのでした。
「まあまあ大変ねぇ、じゃあガンバッテ」
暇なのは事実だけど面倒事はご免です。すぐさま逃げようとしたスズネの着物の襟を素早くつかんだのは、姫華でした。
「逃がすか」
「ここまで来て他人面はさせねぇ」
更にミトンも襟を掴み、逃走は更に困難を極める結果に。
「ち、違うわよ!?アタシは助っ人を呼ぼうとしただけ!」
「へ―――――――――――」
「助っ人ね――――――――」
ソレイユとフィルスによる疑いアイズが飛び、スズネの冷や汗の量は右肩上がりの増加傾向を示します。
「よし、逃げ出さないように私が見張っておこう」
姫華の提案に「ナイス名案!」とか「いい事思いつくね!」といった台詞が飛びますが、どうもこの一同には「ヒテを見捨ててミニ魔界に帰る」という悪魔的発想は無い様子です。お菓子に釣られたというのもあるかもしれませんが。
「えっ!?姫華ちゃんとデート!?」
「違う」
目を輝かせて振り向くスズネとは全く目を合わそうとせず、姫華は彼女の服の襟を掴んだまま来た道を引き返していきます。既にミトンは手を離しており「道中で羆に襲われて死ね」と憎しみしか篭っていない言葉を彼女の背中に投げかけるのでした。
「お早いお帰りをお待ちしてます〜。じゃあ私たちはお菓子でも食べながら待っていましょうか」
持っていたバスケットを掲げてマフィンが提案すると、周囲から小さな歓喜が飛び交いました。そして輝かんばかりの羨望の眼差しはバスケットに向けられるのです。
盛り上がるミトンたちとは違い、コタロウは顔をやや引きつらせながら
「心配じゃ・・・なかったっけ・・・?」
「何がです?」
「あ、いえ何でも・・・」
やっぱりヒテが可哀想になってきたコタロウでした。
「あ〜んアタシもお菓子食べたーい」
「後で貰えばいいだろ、さっさと行くぞ」
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