ディスガイア小説

□逃げることも生きること
2ページ/6ページ

ミニ魔界病院。見るからに重症だったフィルスのためにも、時空ゲートのすぐ近くにある簡易的な病院ではなく、魔界の奥にあるもう少し設備の整った病室に運びました。一人用のためそこまで広くはなく、ベッドが1台と側に椅子が2つ、壁には窓があり外の風景を見ることができます。宇宙ですが。
ここの病院の院長は男僧侶。随分前に募集をかけたのですが中々女僧侶が見つからず、やむおえず男僧侶をスカウトした経歴があります。ちなみに彼、この5人の中だと最年長。
「処置は終わったのでもう大丈夫ですけど、しばらく無茶しないでくださいね〜」
と軽い口調で言い残すと、カルテを片手に病室から去りました。
ベッドの上に運ばれたフィルス。右足首には包帯が巻かれ簡単に動かせないようにギプスで固定されています。そうです骨折です。
「着地所が悪かったからってあれぐらいで骨折って・・・」
「無茶するから」
顔を覆ってしまう天使に、窓際に椅子を置いて腰かけているコタロウはそう語りかけ、まだ残っていたリンゴを剥いてあげます。「タイミング良いなぁ・・・」という独り言も添えて。
「フィルスいたそう・・・」
コタロウとは反対側のベッドサイドに両手を乗せて、アリスは心配そうにフィルスを見上げていました。その後ろにはキーグーがおり、無表情のまま彼をじっと見ています。
その出で立ちだけでも恐ろしいのですが、キーグーはアリスの命令がなければ動かないのであまり怯える事はなく
「大丈夫だよアリス、天使の回復力はすご〜く早いから、これぐらいの骨折なら一週間ぐらいで治っちゃうよ」
と、微笑みを浮かべて今にも泣きそうな少女の頭を撫でてやれば、少女の顔に自然と笑顔がこぼれます。
「ホント?1週間でなおる?なおったらだいかいじゅーごっこしてくれる?」
「治るよ。治ったら今度こそ遊んであげる、でも大怪獣ごっこよりおままごとが先だからね?ね?」
そこに関しては必死。命がかかっているので。
「1週間で治るなら大した事はねぇな。帰るぞソレイユ」
「うん。菊の花もいらないしね」
コタロウの隣にいたミトンとソレイユ。お葬式でもするつもりだったのか、とツッコみたくなるソレイユの台詞に触れるのを一旦グッとこらえ、フィルスは彼女ら3人に向けて
「待って!事態はすっごい深刻なんだからね!」
『何が?』
首を傾げる3人。話についていけないアリスはキョトンとするばかり。
「鈍いのわざとなの?よく考えてみて、怪我をして思うように動けない+戦えない俺、ゾンビの入った檻に入れられた足の折れたプリニーのような状況なんだよ?」
『それで?』
なんというハモリ。なんという息の合ったハモリ。当然事前に打ち合わせなどしていません。このタイミングでウサギさんカットされたリンゴが6つできたのも偶然です。
「・・・・・・ソニードと姫ちゃん」
『ああ!』
「気づくのが遅いって!」
手を叩いた3人はようやく彼が言いたい事を理解できました。
日々フィルスの命を狙っているソニードと、常日頃からフィルスに対する恨み辛みストレスを抱え、チャンスさえあれば命すら奪おうとしている姫華。普段からフィルスに対する復讐心に関して意気投合している2人が獲物が足を怪我して動けなくなっているという状況を見過ごす理由がありません。
まあ全て自業自得因果応報。ですが。
「こんな状況のフィルスだったらこぞって殺りに行くな、アイツら」
腕を組んで大きく頷きながら納得するミトン。それと同時にコタロウがウサギさんカットされたリンゴを皿に盛ってサイドテーブルに置いたので早速それを1つ拝借して口の中に放り込みました。フィルスの分だと分かっていて。
「だいじょーぶ!ソニードがフィルスをいじめに来てもアリスが守ってあげる!ね!キーグー!」
「・・・・・・」
恐らく彼にとって宇宙で一番頼もしい幼女が振り向きつつ言えば、後ろの凶熊族は小さく頷いて返事をしました。全てはアリスのために。
「すっごく頼もしいのに何故だろう、とんでもない恐怖を感じる」
「アリスとキーグーがいるから問題ねぇな」
「いやでも姫ちゃんいるし!100パーソニードに加勢するからあの子!悔しいけど!」
嫉妬深いフィルスが悔しがるのはともかく、姫華とソニードがタッグを組む事は決定事項と言ってもいいでしょう。アリスとキーグーを除く全員が「知ってる」という返答。
「・・・要はアリスたちだけじゃなくて君たちにも協力してほしいんだけど・・・」
「何で?」
椅子から立ち上がりつつ首を傾げるコタロウに、フィルスはやや視線を落として
「アリスはソニードに対する敵対心は強いけど姫ちゃんには懐いてるから敵対しない。ソニードだけなら何とかなったかもしれないけど、姫ちゃんもいるから・・・」
「でも姫華にフィルスを殺す度胸はないと思う」
コタロウの言葉通り、普段からフィルスが関わってくる度に「死ね」やら「首落とす」やらの暴言を吐く姫華ですが、ソニードのように本気で彼を殺しにかかった事はコタロウが知る限り一度もありません。100年間ずっとこの調子だったと姫華本人も発言した事があるため、実は口先だけで殺すつもりは毛頭ないのでは・・・?と考えているのです。
ただしミトンは「そうか?まだ本気になってないだけじゃね?」とやや呆れていますが。
一瞬、眉をひそめたフィルスは
「いや、姫ちゃんに殺られなくてもソニードに身柄を渡される可能性があるって」
と、コタロウの言い分を否定も肯定もせず話を元に戻したのでした。しかし
「しつけぇ奴だな、アタシがタダで働くと思ってんのか!」
ミトンがドヤ顔で断言して後ろを向いて
「悪いけど姉さんが協力しないなら俺もしない」
コタロウが友人よりも姉をとるシスコンの模範解答を披露して後ろを向いて
「私もー」
ソレイユが明らかにノリで発言しているような様子で後ろを向きました。
3人が帰る姿勢を示し、アリスがちょっとだけ不満そうな顔を浮かべた時
「もちろんタダではとは言わないよ、俺が無事に一週間過ごせたらお礼に姫ちゃんのこっぱずかしい秘密を教えてあげる」
『やる!!』
恐らく音速を超えたであろうスピードでミトンとソレイユが引き返しました。コタロウを置いて
「・・・だよねー」
姉さんが協力するなら俺は全力でサポートするだけだけどー。と軽い足取りで彼も戻るのでした。
「よかった〜じゃあ姫ちゃんとソニードの足止めをよろしくね」
「アリスは?」
「最終防衛線」
ミニ魔界の広間で暴れられたらまた雇い主1号(セラフィーヌ)に叱られてたまったもんじゃないし、いざという時に一番頼りになる子はできれば手元に残しておきたい・・・という理由で側に置くことを決めました。そのいざという時に病院がどうなるのかは考えないようにして。
「わかった!アリスさいしゅーぼうえーせんがんばる!」
「よろしく」
「ねーねーフィルスさーん、さっきからすっごい元気だけど本当に足の骨折れてるの?」
「姫華のこっぱずかしい秘密を知ったらどういう風にいじめてやるか」という計画を練り始めて1人でほくそ笑み始めたミトンを置いて、ソレイユが大変無邪気な笑顔を向けてきました。
それに若干ながら嫌な予感を感じ取ったフィルスはやや顔を引きつらせて
「今も地味に痛いけど・・・」
「どれどれ」

どすっ

右足首をチョップ一発。良い子も悪い子も真似しないように。
「☆■×◎△Å※!?」
文字表記できない絶叫が病室に響き、ベッド上の彼が悶えます。
「お〜」
心配の「し」すら見せず感心するソレイユに「これ姫華に見せてやりたい・・・」とぼやくコタロウ。
「何言ってんだ、アイツが喜びそうな光景を独占してこそ勝ち誇れるし自慢できるんだぞ」
そして弟を一喝するミトン。アリス以外は誰も心配してくれません。
「さっすが姉さん!嫌いな相手が一番悔しがる術をよーく心得てる!やっぱり姉さんは悪魔の鑑だよ!」
「よせやい、照れる」
「性格悪すぎだよ君たち・・・」
姫ちゃんに出会う前に彼らに出会ってなくて本当によかった・・・悪魔に対する偏見と憎悪が増えなくてよかった・・・と激痛の中、改めて巡り合わせに感謝するのでした。
「とりあえず姫華のヤツとソニードを再起不能になるまでボコボコにすりゃあいいんだろ?任せとけって!」
「できれば姫ちゃんをいたぶるのはやめてほしいけど・・・贅沢言ってられないか・・・」
ちなみにいたぶるのをやめてほしいのは彼女が傷つく姿を見たくないのではなく、むしろその逆で姫華を傷つけるのは自分だけでいい!という歪んだ思考から来ています。ミトンたちもそうですが、彼も十分異常です。
「早速部屋に戻って作戦会議だ!行くぞソレイユ!コタロー!」
「おー!」
「お〜って事で戻る前にもう一発」
痛みに悶えるフィルスの姿が気に入ったのか、性懲りも無くまた拳を握った刹那。
喉元にひやりと、冷たくて尖った何かが突き付けられていると気づきました。
「・・・・・・」
ポーカーフェイスを保ちつつベッドに目を向けると、フィルスがすごい形相で槍の先端を自分の首に突き付けている姿が見えました。
まるで殺人鬼のような瞳で・・・事実そうですが。
「次触ったら首に穴が開くよ・・・?」
どう見てもマジギレです。普段は温厚な彼ですが怒る時は本気で怒り、同族だろうが子供だろうが容赦なく戒めます。怒りの沸点が低い事で有名ですが、今の場合は低くても高くてもマジギレしておかしくないと思われます。
ソレイユ、表情を凍らせたまま無言で後退してミトンに抱きつくと
「フィルスさんにいじめられた・・・」
「今のは100パーお前が悪いからな」
涙声で訴えてもミトンは庇ってくれません。一応慰めるように頭は撫でてあげますが、それ以上の事はしませんでした。
「キョウハクってああやってするんだーすごいねキーグー」
「・・・・・・」
幼女は間違った方向に成長しそうでした。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ