ディスガイア小説

□逃げることも生きること
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ミニ魔界。
絢爛魔界の姫魔王セラフィーヌが所有している普通の魔界よりもちょっぴり小さめの魔界。最近絢爛魔界と合体して宇宙艦隊のような事をしでかしましたが、主が主なので住民は大して気に留める事もなく、合体前と何一つ変わらない生活をしていました。
なお、このミニ魔界は反乱軍の拠点として使用されています。そうです魔帝に反旗を翻し、全ての悪魔の自由と平和のために日夜ロストと戦っているあの反乱軍。メインメンバー全員が魔王というある意味恐ろしい組織です。混沌と無秩序を好む悪魔の平和のために戦っているといのもちょっとおかしな話ですが、言葉のあやという事でスルーします。
日夜ロストと戦っているからと言っても毎日が戦いの連続という訳でもありません。これも言葉のあやです。
今日は非番の日、戦いがなければ基本的に暇な悪魔たちはミニ魔界で暇を弄んでいるワケで。
「フィルスー!だいかいじゅうごっこやろー!」
ミニ魔界の西側(プレイヤー視点)にあるテラス。セラフィーヌのお付のメイドが床掃除をしていたり、兎兎魔界の黄色いプリニーがカレーを仕込んでいる中、魔法使いの少女アリスは偶然ここを通りかかった天使兵の青年フィルスに元気よく駆け寄っていきました。
「大怪獣ごっこ」という単語を耳にした途端顔を引きつらせるフィルスでしたが、アリスの純粋な瞳を向けられてすぐに笑顔を浮かべると
「いや〜今は大怪獣ごっこの気分じゃないな〜遊ぶんだったら他の遊びにしようよ」
と、遠回しに大怪獣ごっこを拒否。知っている人は知っていますがアリスの言う「大怪獣ごっこ」とは彼女の使い魔である凶熊族のキーグーか双竜族のドラドがアリスとタッグを組んで悪役となり、勇者役の悪魔か天使をやっつけるという凶暴性MAXの恐ろしい遊びの事です。一度遊ぶとトラウマ化必須。
当然フィルスも例外なくトラウマと化しているため、なるべく避ける方を選びます。この遊びの最も恐ろしい所はアリス本人が皆にトラウマを与えているという自覚がない所。子供だから仕方がないのかもしれませんが、将来に不安を感じざる得ません。
さて、遠回しに大怪獣ごっこを拒否されてしまったアリス。当然拒否されたという事実には気づかず「そっか〜」とやや残念そうに言って。
「じゃあだいかいじゅうごっこは明日やろ!今日はおままごとしよ!」
「うん、いいよ」
いいよと言って、ちょっと後悔した。明日にはあの恐怖がやってきます。生と死の狭間を行き来するあの恐怖の遊びが。
子供はこういった約束事をしっかり覚えているものですからもう逃げられませんね、やや絶望した趣を浮かべながら、青年は少女に手を引かれて行くのでした。
「アイツさ・・・アリスの扱い方をほぼ完璧にマスターしてるよなぁ」
そんな微笑ましい様子を、やや遠くのテラスのテーブル席から眺めているのは女戦士のミトン。頬杖をついて、のんびりフィルスとアリスのやりとりを傍観しています。
「そりゃあ毎日大怪獣ごっこしてたら身が持たないってもんだよ姉さん」
隣の席ではミトンの弟、男戦士のコタロウが果物ナイフでグレープフルーツの皮を丁寧に剥きながらこんな台詞。彼らもアリスの大怪獣ごっこの被害者であるため、フィルスがほぼ毎日受けている大怪獣ごっこの痛みや苦しみが痛いほど理解できてしまう、悲しい事情の持ち主です。
「フィルスさんのお陰で私たちに飛び火しないからありがたいよね〜」
ミトンの反対側の隣の席にいるのは女天使兵のソレイユ。彼女はコタロウが剥いたグレープフルーツをひょいひょい口に入れて甘酸っぱい味を堪能しています。シスコンのコタロウとしてはミトンに食べてもらいたいところですが、その姉に「文句言うなよ」と鋭い視線で訴えられてしまったため文句の1つも言えません。
そんな微妙な三角関係とほのぼのとした雰囲気がテラスを漂っていたその時。
フィルスの真上から紫色の光が弾けたかと思うと、一直線に降下して彼の頭上目がけて突っ込んでくるではありませんか。
「わっ!?」
アリスの手を振りほどき、慌てて左に避けるフィルス。慌てすぎて階段でつまずいてこけました。
「あいたっ」
「外したか」
その階段の一番上から姿を現した暗闇騎士ソニード。フィルスに深い恨みを持ち、彼の命を常に狙っています。その野望を達成するためなら時や場所を選ばない悪魔として有名。
「今日もやるんだ」
「アイツも暇だなぁ」
「懲りないね〜」
剥いている果物をグレープフルーツからリンゴにシフトした幼馴染三人組。なんでもかんでもおちょくったりうるさく騒いだりするギャラリーのため、ソニードはいちいちツッコまずに無視する姿勢を貫きます。これかなり重要。
「うわぁ出た!ってかスター使えたのアナタ!?」
まるで苦手な魔物と対峙したような様子でとっさに起き上がる天使、アリスの大怪獣ごっこと同じ頻度で命を狙われているため、彼にとってソニードは宇宙で2番目に苦手な生き物として登録されています。
「威力は弱いが貴様にダメージを与えるには十分だ。こればかりはスズネに感謝しないとな」
「ああ・・・スズネさんでしたか・・・」
そうだねあの狐スター使えるもんね・・・と納得した刹那
「むー、またアリスとフィルスが遊ぶのジャマするのー?」
頬を膨らませたアリスがソニードとフィルスの間に割って入ります。ここで誰も「危ないよアリス!」と言わないのは彼女の強さと度胸をよーく知っているから口出ししないのです。
「遊ぶなら1人で勝手にしていろ。私は奴の息の根を止めるのだからな」
「ヤダ!アリスはフィルスがいいの!いきのね止めちゃダメなの!」
これソニードの意識がアリスに逸れている間に立ち去れば逃げれるのでは?
この状況から1秒でも早く去りたい彼は2人が言い争っているのを良い事にこっそり逃げようとします。その様子は幼馴染三人組の目にしっかりと留まっていますが、ちょっと可哀想なので告げ口はしないでおき、蜜たっぷりのリンゴを堪能します。
「やっぱ師匠の森で採れた果物は美味いな」
「そうだね姉さん」
「いっぱい送ってもらったから明日アップルパイ作ろろうかな?」
「逃がすか!」
リンゴとアップルパイに想いを馳せる中、突如飛び出すソニードの声。狙いはもちろんこっそり逃走を図ろうとしたフィルスの頭上。メガスター。
「うわっと!」
さっきのスターよりも格段に威力の上がった魔法を間一髪、飛び跳ねて回避に成功。しかし、メイドが一生懸命掃除した床が焦げてしまいました。
メイドが愕然とする最中に一同の目に飛び込んできたのはフィルスの綺麗な跳躍、体操選手のような美しい跳躍、そのバレエのような飛び方に世界がスローモーションと化します。皆が唖然とする中、ソニードだけが冷静に次の魔法の詠唱を始めており、彼が着地した瞬間を狙います。
スローモーションなら10秒以上かかった跳躍が終わりを告げ、彼は地に降ります。そう、バレエのようにつま先から・・・。

ぐきり

地と足のつま先が再開を果たした時、異様な音が響きました。
「あ゛」
とても濁った声を上げて、前から崩れ落ちる青年。
「フィルス!?」
予想外だった着地の様子に一瞬呆けてしまったせいで、フィルスを心配したアリスが慌てて駆け寄ってきてしまい魔法の詠唱を止めざる得ません。アリスに何かあったらその後が怖いのです。厄介な魔物が2匹もいるため。
「どうしたの?大丈夫?」
「う゛・・・う゛ん・・・まあ・・・」
近くで膝を折ったアリスが彼の体をゆすっても、彼は一言二言で簡単な返事をするだけ。しかもかなり酷い声、本来濁音が入らない文字に濁音が入っているのですから酷い声なのは一目瞭然。
さすがに無視できなくなったミトンたちはイスから降りてフィルスの元へ。
「すげえ音したけど、どうしたんだ?」
六分の一にカットされたリンゴを口にくわえつつ、心配してそうな台詞を心配の欠片も無い様子でミトンが尋ねますが返答は無し。
「顔色悪いぞ?」
俯いたままの横顔から見て取れたのか、コタロウも声をかけますがやはり返答無し。
「・・・・・・」
一方のソレイユは何も言わず、ちゃっかり作っていたウサギさんカットされたリンゴをコタロウに渡すとその場にしゃがみ、フィルスが最初に地と再会した右足の足首を杖で叩いてみました。こつん。
「!!?!?!?!」
一瞬、悲鳴ならない声が彼の口から出たかと思うと
「んに゛ゃあああああああああああああああああああああああ!!」
右足首を抑えてその場でゴロゴロと暴れながら激しく悶えるではありませんか。これにより周囲の悪魔たちの注目を一気に集める事に。
異常とまで言える彼の様子に、アリスな泣きそうな顔を浮かべながら
「どうしたの!?スターが足に当たっちゃったの!?」
と、彼を心の底から心配する言葉をかければ悶えていた彼の動きはピタリと止まり
「だ、ダイジョブだよ・・・?ただ足が痛いだけダカラね・・・?」
若干片言な台詞が返ってきました。
「今のグキってもしかして・・・」
「足首イッなこれ」
「おお〜」
心配する少女の傍らでミトン、コタロウ、ソレイユは心配の欠片もない様子。冷たすぎると思われるかもしれませんが、彼が犯した罪を考えるとこの扱いも納得できてしまうから不思議。
さて、右足首がイッてしまったフィルス。この状況こそ好機と考えたソニードは剣を出し、彼がまともに動けない隙をついで首をはねようと試みますが。
「出てきてでっかい子!」
突然立ち上がったアリスが杖を振り上げ、呪文を唱えたその瞬間少女の背後に巨大な魔法陣が浮かび上がります。
ミトンも、コタロウも、ソレイユも、フィルスも何度も見た事ある呪文と魔法陣に思わず顔が引きつってしまい、ソニードも動きを止めました。
赤黒い光を放つ魔法陣からゆっくり出てきたのは、一体の凶熊族でした。名前はキーグー。
「フィルスをびょーいんにつれていって!」
「・・・・・・」
出てくるなりアリスにお願いされるとキーグーは一言も喋らないまま小さく頷き、フィルスをそっと抱きかかえました。右足首に触れないように注意しながら。
「うわ〜この歳になって大きな腕に包まれる安心感を得られるとは思わなかったよ〜」
喜んでいるような懐かしんでいるような言葉ですが、顔は病人のように青白いままです。
ソニードが何もできなくなってしまったのを良い事に、キーグーを先頭にして一行は魔界病院へと足を進めるのでした。
「てか姫華は?ソニードもフィルスもいるのに姿形すらないのって珍しいよな?」
「そういえば朝から見てないねーどうしちゃったんだろ?」
「どうでもいいだろあんな奴」
なんて会話している3人の前方で、キーグーの腕に抱かれたフィルスはぽつりと
「姫ちゃんいなくてよかった・・・今日が赤い月の日でよかった・・・」
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