ディスガイア小説

□血フェチ天使は自重しない
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魔王城の個室には一部屋にひとつ、バスルームがついています。ついていない部屋もあります。

ユイカと天魅が共同で使用している部屋はバスルーム完備の部屋、なのでお湯さえ貯めればいつでもお風呂に入る事ができるのでとても便利。

そのバスルームにはあまり広くないバスタブとシャワー、小さい鏡があるだけの簡易的なつくりになっていますが使える分に超したことはありません。丁度、バスタブには温かいお湯が張られており、バスルームを湯煙で満たしています。

天魅が面白半分興味半分で入れた白い入浴剤で透明なお湯は今やミルク風呂のように真っ白。お陰でお湯に浸かっていると体が全く見えなくなっています。

「・・・・・・」

入浴しているのは天魅ではなくユイカ。彼女は黙ったまま、右腕をお湯から上げて恨めしそうに見つめています。

いつもは袖に隠れて見えない彼女の素肌には、何とも複雑かつおぞましい模様が手首から二の腕まで刻まれていました。

「・・・・・・」

「ユイカさーん!今日こそ一緒にお風呂に入りましょう!」

全裸(ただしタオルは巻いてあるものとする)の天魅が飛び込んできましたが、描写する間もなくバスルームの外に飛ばされて顔面から床に着地しました。そうです割愛です。

倒れた天魅が動かなくなったのを確認して、ユイカはバスルームの扉を閉め

「全く・・・アイツは毎日毎日・・・」

呆れてため息をつき、もう一度バスタブの中に戻ります。

戻ったところでもう一度ため息をつくのですが、何度ため息をついたって天魅のアレは治りませんし、幸せは逃げていくだけで良い事なんてありません。更に不幸になるだけだと首を振ります。

悪い事を考えるのはやめておき、また右腕を睨みつけ

「極悪アーチャーめ・・・」

憎んでも憎み切れない悪魔の俗称を呟くのでした。





その数日後。少なくとも3日以上は経った日のこと。

アニューゼは魔王図書館にいました。

魔王城の図書館は中央広間とはまた違った場所に位置しています。時空ゲートを使わなければ行けないというまた面倒な使用なのは、本を無断で持ち去る輩への対策。

なんせ悪魔は己の欲でしか動かないため、本を無断で持って行ってどこかで売りさばいてしまう者がいてもおかしくありません。むしろ悪魔的に普通の事だと称してもおかしくはないでしょう。

そのため司書兼ゲート管理人が許可をしなければ時空ゲートは使えないようにしてあります。理由はゲート使用前の荷物検査をするため。拒否すれば永遠に図書館から出られませんし警護をしている悪魔にボコボコにされてしまいます。

最近魔王城によく出入りするようになった天使も荷物検査の対象内です。天使だからといって荷物検査無しという訳にはいかないのです。悪魔なのにキッチリ仕事をしますよこの司書。

「・・・・・・」

本編と関係の無い設定はこのぐらいにして、アニューゼの話です。

本を探しに来たという理由でもなく、単なる暇つぶしのためにここを訪れたのですが、興味を引くような本がなかなか見つかりません。そもそも興味の対象が血しかないため当然ですが。

血についての本が見つからないもののあまり気に留めず、のんびりゆっくり歩きまわっていると。

「・・・あ」

壁際にある松明の下の席。1人用のそこまで広くない机で、左腕を枕にして眠っているユイカの姿を見つけました。

彼女の周囲には開きっぱなしの本がいくつか散らばっており、右手には万年筆が握られています。書きかけのノートには一文がありますが、今のアニューゼはそこは気になりません。

「一度にこんなに読んだのか・・・?」

本の虫恐るべし。と思いつつ1冊手に取ってみるのですが、今まで見た事のない言語がズラリと並んでいて読めません。

「魔界・・・語・・・?でもなさそうだ・・・」

ふと他の本を見ると、その言語を天界語に翻訳しているのが見えたので恐らく辞書でしょう。えらくマニアックな辞書だなぁとつい関心してしまいます。

というより、見た事も無い言語で書かれている本を読もうとするユイカの熱心さにちょっとした感動を覚えます。そこがまた勉強熱心というか努力家というか本中毒というか・・・

「ん・・・?」

生気の無い瞳で元部下を眺めていた矢先、目に留まったのは少し袖がめくれてしまっているユイカの右腕。刺青のような黒い物が見えてしまいました。

天使が・・・というかユイカが刺青?あの生真面目で天使である事に誇りを持っているあのユイカが?と一気に膨れ上がる疑問。

少しでも解決するために刺青をじっくり見ます。よく見れるように顔も近づけます。遠くから見たらセクハラしているようにも見られるかもしれません。それぐらい近い。

「ん・・・」

じっくり観察していて、その不気味さというか威圧感というか、嫌な気配を感じてアニューゼは少し震えます。

この感覚には覚えがあります。できれば二度と感じたくない、あの・・・

「・・・・・・」

キョロキョロと辺りを見回し誰もいないか念入りに確認。勉強熱心な悪魔が多く出入りする図書館ですが珍しく誰もいません、気配も無い。

気配が無くても念入りにチェックした後、袖をそっとつまむとユイカを起さないようゆっくりめくっていき・・・。

見てしまいました。

手首に刻まれたおぞましい模様の黒い刺青を。
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