ディスガイア小説
□風邪嫌ですね
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現状を整理すると、ミトンは鼻風邪、ソレイユは頭痛と熱、コタロウは喉の痛み・・・とそれぞれ症状はバラバラ。
「現状が分かったのはいいけど・・・病院に行ったら?」
フィルスの意見も最もです。姫華が大きく頷いています。宇宙で一番嫌いな天使と同意権というのを肯定しているのですから大変まともな意見だというのが分かります。
しかし現実は非情です。
「まだこの拠点・・・お医者さんが来てないんだよー・・・」
力無く訴えるソレイユの言う通り、本格始動前の拠点にはお医者さん兼僧侶がまだ定住していません。簡単なケガを治せる悪魔なら多数いるのですが本格的な医療が行える者はまだいないのです。スカウト屋ががんばっている真っ最中。
「発売前だからしょうがないよね」
「だからコタロはちゃんと喋れ!」
「喉を痛めている弟に言う台詞か?まあいい、とにかく3人共部屋に戻ってベッドで寝ていろ」
医者不在で本格的な治療が出来ない以上、出来る事と言えば病気の悪化を防ぐぐらい。幸いそこまで重症にも見えないので1日中安静にして市販の薬を服用しておけば症状は落ち着くでしょう。
本人も気付かぬ内に助ける気満々の姫華ですが、気に食わない悪魔代表の彼女に言われてすんなり受け入れるミトンでもありません。
「誰がテメーの命令なんて聞くかぁ!ぶわっくしょん!」
くしゃみ交じりの怒声。苛立ちを隠せない姫華は舌打ちを繰り出し立ち上がる気力も無いミトン見下す明らかな挑発行為。奴にかける言葉を選ぶ気にもなれない。
険悪なムードになった途端、間に割って入ったのはフィルスでした。
「ミトンってば勿体無いなー折角姫ちゃんが心配してくれているって言うのにその親切心を踏み倒」
刹那、姫華の手が彼の首を掴みました。正面からの鷲掴み、女子とは思えない怪力であっという間に首を絞めます。
「お前は少し黙っていろ・・・」
「姫ちゃん・・・首はやめよう・・・首・・・は・・・」
姫華としては窒息死させても良かったのですがここで終わらせてしまうのはつまらない。苦しむ彼を床に捨てるのでした。
生死の境にいた天使の咳ごむ声をBGMに、姫華はミトンを指して言います。
「風邪をひいても外に出たいという強がりはわかるが、体調が悪いときに安静にしていないともっと重い病気を発症したり、誰かに風邪をうつしてしまったりと大変な事になるんだぞ。それが分からないのかお前たちは」
口調に棘はあるものの悪魔らしからぬ思いやりにあふれた台詞。コタロウは面食らった趣で姫華を見つめ、ソレイユは「だってさミトンちゃん」と愛しの幼馴染を見やります。
目を向けられた少女は鼻水を垂らしながら毅然とした態度で
「馬鹿言え、風邪をひくだけで周囲に迷惑がかかるんだぞ。迷惑行為は悪魔としての基本的な行動だからアタシはベッドで寝ないでこんな所で暇をもてあまし、周囲の悪魔に迷惑をかけるんだ」
首を押さえつつ咳から回復したフィルスが「その心は?」と問えば
「アタシは悪魔らしく悪事をする事に誇りを持っているからだ!」
すかさず「姉さんカッコイイ〜」と弟から歓声が入るのですが、喉風邪のためその声が姉に届くことはありません。
ミトンにとっては素晴らしい悪魔としての生き様でも、姫華にとって他人の生き様など全くと言っていいほど興味がなく、それどころか病気をしても治療しないで放置するまで貫き通す生き様なのか?と疑問を通り越して呆れを覚える所です。
「そんな悪魔ニズム知るか!くだらないプライドや意地よりも一番心配する事は自分の体だろ!倒れたら生き様も何もない!」
「ミトンちゃん、姫華ちゃん・・・怒ってるよ・・・」
「このままにしておけばずっと奴を怒らせる事ができるな。ならいっそ、このままテラスに永住して奴のストレスをうなぎ上りにさせてストレスで殺すか」
実際ストレスでは死にません。ストレスが原因で引き起こる病気や障害によって命を落とすのです。そしてそれには長い長い時間が必要となります。
「直接手を下すよりもえぐいやり方を選ぶんだね・・・」
熱で朦朧とした中でも、風邪を引いても強がっているミトンの顔が見たいと思ったのか、少し体を起こそうとしたソレイユでしたが
「さすがは・・・ミトン・・・ちゃ・・・」
知らず知らずの内に体は限界に達していたのでしょう。突然、糸が切れたかのように意識が途切れ、瞼を開けていられなくなります。
全身の力が抜けてしまった少女はテーブルを掴む事もできず、重力に引っ張られて椅子から落ち、冷たい床の上に倒れてしまいました。
「ソレイユ―――――――――!!」
ミトンの風邪を吹き飛ばす勢いの絶叫。一応コタロウも叫んでいたのですが文字表示すらされませんでした。
叫ぶだけしかできなかったミトンに代わり、姫華はすかさずソレイユの元に駆け寄ると
「言わんこっちゃない!緊急事態だ、お前たちが何を言おうと安静にしてもらうからな!そしてそこのモブプリニー!」
騒ぎを遠巻きに見ているだけだったプリニーに鋭い視線を送った刹那、本能的に危険を察知したプリニーはモップを落とし、立ちすくんでしまいます。
「ヒエッ!?何ッスか!?」
「今すぐベッドが3つある部屋を確保してこい!コイツらまとめて面倒を見る!」
「わ、わ、分かったッスー!」
落としたモップを片付けもせず、プリニーは一目散に駆けて階段を駆け上ります。仕事ができなければ死ぬ、プリニーとはそういう世界だと教育係りに死ぬほど言い聞かされているので必死なのです。
1日1日を必死になって生きる者の背中を見送ると、姫華はソレイユをそっと抱き上げます。女子のあこがれ、お姫様抱っこ。
「姫ちゃんカッコイイ〜」とフィルスがおだてますが、現役ソレイユの彼氏(彼女?)が黙っちゃいません。
「テメェ!アタシのソレイユに何を・・・!」
「医者もいないこの拠点で、病気を深刻化させて肺炎のような厄介な病気にかかったりでもしたら大変だからな、一刻も早くベッドに寝かせて薬を飲んで暖かくして寝た方が良い」
「だからってお前、アタシのソレイユを・・・」
「これ以上放置しておいて重病にでもなったらどうするつもりだ?時間をかけすぎると手遅れになるぞ」
目の前でソレイユが倒れたのもあり、ミトンは反論できずじまい。舌打ちをしてそっぽを向くだけです。
「諦めなよ姉さん」
「だからコタロ!でっかい声で言え!」
「はいはい、姉弟喧嘩はそれぐらいにしてお部屋に行こうか。そろそろ良い部屋を見つけてきてくれるハズだし」
フィルスがやんわりと姉弟喧嘩(姉が一方的)を止めると同時に、さきほどのプリニーが全速力で戻って来るのが見えたのでした。