ディスガイア小説

□風邪嫌ですね
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注意:本作はディスガイア5発売前に執筆しています。ゲーム本編と異なる場面が出てしまう可能性があるのでご了承ください。


各魔界を旅する宇宙船の中。設備は十分すぎるほど整っておりローゼンクイーン商会各店舗や病院、アイテム界も管理、娯楽施設も多々ある豪華使用となっています。そうです拠点です。

春先に控えた激戦に備えての休暇も兼ね、スカウト屋を通して配属された汎用キャラたちは現在、のんびり過ごしていました。

その中の2人、水色の髪と穏和な雰囲気の男天使兵フィルスと、藍色の袴を身につけた女侍姫華はテラス方面へと歩いていました。

「最近寒いねー」

「すっかり冬だからな。こういう時に限って体調を崩す奴が出てくる」

大好きな姫華の隣を歩くだけで幸せ気分の絶頂に浸れるフィルスですが姫華はその逆、今すぐにでも首を絞めて窒息死させてやりたい男が横にくっついて歩いている嫌悪感を噛み締めながら、湧き上がるストレスを抑えています。

「まるで自分は体を壊さないみたいな言い方だね」

「産まれてから今まで2、3度しか病気をした事がないからな。季節の変わり目で体調を崩すなど私にとって別次元の話だ」

「さすが姫ちゃん。丈夫だね〜」

齢1900歳程の姫華。悪魔や天使的には一般的な年齢ですがこの年齢を人間年齢に換算しても(注:19歳になります)病気にかかった回数が異常な程少ないのは誰が聞いても分かるでしょう。

しかし隣の天使、さも当たり前かのように聞き流し、ニコニコしながら姫華を見ています。彼にとっては一般常識のよう。

まだ悪魔が少ないテラスを散歩がてらのんびり歩いている2人。最近働き始めたプリニー3体がモップで床掃除をしている光景を横目で流すと。

「あー・・・」

「うー・・・」

「・・・・・・」

テラスの一番奥のテーブル。星空が輝く外の風景もバッチリ見える良い場所にある白くて丸いテーブルの上に、3人の悪魔がそれぞれ伏していました。

当然姫華とフィルスはその光景を目の当たりにしてしまいますが「今年度関わりたくない悪魔ランキングベスト5」にランクインしている悪魔が2人もいるため、見て見ぬフリをしようと踵を返そうとして。

「頭痛いよぉ・・・」

「鼻水止まんねぇ・・・熱もあるし関節も痛い・・・歩きたくねぇ・・・」

「・・・大丈夫?

「コタロ何言ってんのか分からん」

奴らの様子がいつもと全く違う事に気付いてしまいました。

まず腕枕の中に顔を埋めたままの青髪の女天使兵ソレイユ。見た目は天使、中身は悪魔・・・というかハーフの極悪天使は言葉を発するだけでぴくりとも動きません。関わりたくないランキング4位。

次に10数秒単位でテーブルにあるティッシュを出して鼻をかむオレンジ色の髪に緑のバンダナを巻いた女戦士ミトン。顔はやや赤く、かみすぎたせいで鼻の周りも真っ赤に染まっています。関わりたくないランキング2位。

最後に顔だけ上げているものの、全く喋っていない赤髪の男戦士コタロウ。喋ろうとはしているのですが声はカスカスで空気が出ている音しか耳に入りません。関わりたくないランキング圏外。

「・・・・・・」

全てを悟った姫華、絶句。フィルスはやれやれと首を振っています。

姫華だ

最初に姫華に気付いたのはコタロウでした。一応声は出したのですが案の定ミトンたちには届きません。

それでも、顔を姫華たちに向けたため何かがいると気付いたミトンは姫華と目が合ってしまうワケで。

「んだテメェ、何しにきやがったへぶしっ」

語尾でくしゃみをかましてすかさず鼻をかみます。すでに足元に用意してあるゴミ箱には使用済みのティッシュが山のように盛られていて、少しずつ山崩れが起きている所です。

明らかに体調不良なのに威勢よく喧嘩を売ってくるミトンに感心と呆れを覚えながら近づき。

「何をするも何も、お前たちはこんな所で何をしているんだ」

「冬風邪だよぉ・・・夏風邪じゃなくて冬風邪だよぉ・・・」

口は動くが体は動かないソレイユが力なく答えると、フィルスは姫華の肩を優しく叩き。

「よかったね。身近に風邪をひいている悪魔が3人もいて」

「何1つよくない!」

姫華の正論という名の怒声はフィルスの手を肩から離れさせるだけの効果で終わりました。

軽い漫才が終わったところで、ようやくソレイユが顔を上げます。ミトンと同じく顔は真っ赤、瞳は潤んでいてかなり震えています。悪寒が酷いようですね。

「どうして・・・姫華ちゃんとフィルスさんはへーきなの・・・?」

「そういう体質だ」

「天使は風邪をひかないからだよ」

「私も天使なのに〜」

「・・・時々ギャンブルに行って荒稼ぎして、銀行にお金を貯めまくっている子が・・・天使って・・・」

フィルスが言いたかった事は「普通の天使みたいに規則正しい生活をしていれば風邪をひかなくて済むよ」だったのですが、コタロウの見解にも納得できる節があります。あってしまいます。

「だからコタロ!言いたい事はハッキリと・・・ぶえっくしょえ!」

「汚っ!鼻水を飛ばすな!」

おっさん臭のするくしゃみと鼻水を回避した姫華は当然文句をぶつけますが、ミトンは詫びる事もなくやわらか素材のティッシュで鼻をかみながら

「好きで飛ばしてねーし!近寄るテメーが悪いんじゃねぇか!」

「くしゃみを手かティッシュかハンカチで押さえて周りの悪魔に迷惑がかからないように配慮ぐらいするべきだろう!マナーを守れマナーを!」

「悪魔がマナーなんて守るワケねーだろいい子ちゃんが!テメーも悪魔の端くれなら他人に迷惑をかけて生きる術の1つや2つ考えたらどうなんだよ・・・ぶわっくしょ!」

「だからこっちに向けてくしゃみをするな!」

「隙あらばテメーに風邪をうつそうっつーアタシの悪魔心ぐらい察しろ!」

「病人でも構わず首を斬り落とすぞ!」

マジで刀を抜く3秒前。フィルスが止めていなければ白いテーブルが一瞬にして紅白模様に染まっていた事でしょう。
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