ディスガイア小説
□少女達は夜に戯れない
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「これ、やる」
今日も平和なホルルト村。風は微風、冬が近づいて来たためか、太陽がいつもより遠く感じてしまうこの頃。
アデル宅前の畑でミミズを触って遊んでいた天魅に無口無表情が良く似合うガンナー、エーゼルが二枚のチケットを渡した事がそもそもの発端でした。
「ほえ?」
目の前に現れたかと思ったら、突拍子も無くチケットを目の前に差し出されるのですから首を傾けてしまうのも当然です。応えようとも受け取ろうともしませんが、エーゼルは表情を崩す事なく無言で答えを待っています。
微動だにしなくなった彼を見てこれは受け取らなければいけない物と判断した天魅は立ち上がると、恐る恐るそれを受け取りました。
「ありがとう・・・ございます?どうして私にこれを?」
物を受け取ったからにはちゃんとした礼を言うのがマナーです。兄の言いつけをしっかり守っている妹は首を傾げながら礼を言い、念のため尋ねてみましたが。
「本当はサラと一緒に行きたかったが無理だということがわかった・・・それだけのことだ」
「へ?どうしてですか?」
折角のデートの口実を兄という恋人しかいない悪魔に渡してしまってもいいのですか?と追加で尋ねる前にとエーゼルはさっさと踵を返してしまいます。
呼び止めようにもやや早足で彼女の前から去ってしまい、スタコラサッサとどこかへ行ってしまいすぐに見えなくなりました。
こうしてこの場には天魅とチケット二枚だけが残されました。さっきまで彼女が触っていたミミズはとっくの昔に土に帰っています。
「これは一体・・・」
よく分からないままチケットに書かれているある文字を見た刹那、エーゼルがこれを天魅に託した理由の全てを知る事ができました。
チケットには不気味なフォントの赤い字で
『恐怖の連続!幻と言われた超ホラー映画!“リトマス試験紙の秘密”』
というタイトルがでかでかと書かれており、隅には顔色の悪い女性が恐怖に染まった表情を浮かべています。要約するとホラー映画のチケット。右下の隅に「R15」という注意書きがあるので全年齢向けではない。
「あー・・・」
怖がりのサラがホラー映画なんて見たがるわけが無いし、見せたら見せたでとても嫌われてしまうことは必須、折角の映画デートが台無しになってしまいます。
何を思ってこれを手に入れたのかは謎ですが、これは彼にとって持っていても意味のない物。でも捨ててしまうのも勿体無いからとりあえず適当な人に渡そう・・・という経緯があるのでしょう。さっき勝手に決め付けました。
「エーゼルさんったらそれならそうとちゃんと言ってくれればいいのに・・・まあいいです。兄者と一緒に行きましょう!デートデート」
兄、天里とデートができると浮かれる彼女はルンルンと鼻歌を歌い、楽しそうにスキップをしながらここから離れた畑でアデルの農作業を手伝っている兄の元へと向かうのでした。
この選択が後に大変なことを引き起こすことになろうとは・・・。
この時の天魅は考えてもなかったのです。
その後天魅は「ホラー映画は大丈夫なのですか?」と過保護な親のごとく心配する天里に対し
「大丈夫ですよ兄者、ホラー映画ごときで怖がるぐらい私は子供ではありません。ユイカさんやアリナさんじゃないのですから大丈夫ですよ」
恐らくユイカとアリナが耳にしていたら、間違いなくぺタクールと弩炎竜のコンボを喰らうであろう台詞を口にして。
「あん?何か今すっごいムカツク事言われた気がするんだけど」
「ここには俺とお前意外いないだろうが。幻聴に耳を傾けてる暇があったらさっさと次の階に行くぞ」
同時刻、アイテム界で魔物をバッタバッタと倒していたアリナの眉間にしわが寄り、リアスに一蹴されるのでした。
アイテム界はさておき、怖いもの知らずな天魅は心配する兄の手を取り時空ゲートへと直行。付いた先はホルルト村よりも賑やかな都会町です。
偽ゼノンの一件で悪魔に対して偏見のない住人たちは町の真ん中を歩く兄妹など気にも留めません。兄妹はそのまま一角にある映画館に入ります。
着いた時間は映画公開5分前だというのもあってやや急ぎ足で館内へと急ぎましたが「映画館といったらポップコーンとジュースですよ兄者!」という天魅のワガママにより売店へと急ぎます。
子供に人気のアニメが上映中というのもあり、蓋に猫とリスを合体させたようなマスコットキャラクターのオモチャが付いている限定ポップコーンカップが販売されていました。このカップだけに描き下ろされた限定イラストがカップにプリントされています。
通常のポップコーンの1,5倍の値段でしたが目を輝かせている妹には逆らえずあっさり購入。
「だからユイカさんに“お前はシスコンすぎて甘い”って言われるんですよね・・・」
「わー可愛い!ありがとうございます兄者!」
「どういたしまして!」
無理、絶対、シスコン克服。
ポップコーンとジュースが揃った所で早速映画鑑賞開始。客席は割と埋まっているため、思っていたよりも有名な映画のようです。
映画が始まる前は「ホラー映画なんて大したこと無いでしょう」なんて考えていた天魅でしたが、映画が始まってすぐにその思惑は全て消え失せてしまいました。
『何て奴らだ!殺っても殺っても沸いて出てくる!』
『大変!窓の外も奴らでいっぱいよ!』
『くそっ!何てことだ!ああ!ワール君!』
『ぎゃあああ!助けてー!』
まさに最初からクライマックスといえる展開で始まった映画。
不気味なモノローグから始まり、主人公とヒロインと主人公の親友が謎の生命体から必死に逃げている場面から始まったのですが、たった今、主人公の親友が謎の生命体に頭からバリバリ食われました。
食されている演出は効果音のみですが、なんとも言えないエグイ音が映画館に響きます。人を食っている時ってこんな音がするのか・・・といわんばかりのリアルな演出です。