ディスガイア小説
□鶏狂奏曲
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翌日、天気予報では雨でしたが今日の魔界は快晴です。
魔界にしては珍しい、晴れ晴れとしたいいお天気の下
「そんなこんなのこういう訳で!養鶏場の様子を見に行くことになったよ!」
『イエーイ!』
『待て!』
場所は魔界某所にある丘・・・の頂上まで続く長い坂道、道幅は広いのですが舗装されておらず、土と岩が多いため足元はデコボコしています。下手をするとうっかり躓いて転んでしまいそうですね。
周りには名前も分からない木に道に沿うように、不規則な感覚で並んでいます。幹は黒くて葉は深い緑色。非常に暗い色合いですが葉は少ない上に空は晴天、そのため周りは暗く感じられません。
「およ?」
チャチャマを先頭にして坂を上る悪魔一同(内2人天使)のツッコミは、見事なまでに分かれていました。
「え?どうしてそんなに冷たい反応なの?」なんて趣で皆を凝視しているのはチャチャマとテルテル姉弟の他に、天魅とレトンのノリが近いコンビ。瞳はとても純粋な光を放っています。
そんな軽いノリの四人に対し、呆れながらも声をかけたのはリアスで。
「いや、何で俺らがこんな面倒な仕事しなくちゃいけないか考えろよ。思い出してみろ、飯おごってやるって言われたからついて来たんだぞ」
「そうです!すっかり忘れていました!チャチャマさんたちのテンションに引っ張られちゃいました!」
天魅我に返る。後ろの方でユイカが頭を抱えていますが省略。日に日に馬鹿になっていくのが保護者として耐えられないのでしょう、オルソドがそっと慰めているのが見えます。
「そもそも養鶏場って何よ、アンタの家って中華料理屋じゃなかったの?」
続いてアリナが不機嫌そうに問いかけると、リアスもユイカもオルソドも頷いています。レトンは紫と黄色の水玉模様をした蝶々を見ているばかり。
さらにテルテルも姉を見上げて
「僕もそれ思ってたんだけド、どうしてお父さんは養鶏場を持っているノ?」
どうやら弟には詳しい事情を知らされていないようで首を傾けています。知らなかったハズなのに、姉と同じノリとテンションで同行していた辺り頭の出来は姉とほぼ同じなのでしょう。
弟の純粋な瞳を見た(一部表記に誤りがあります)チャチャマは「ああ!」と手を叩いて目を丸くさせ
「まだテルテルが生まれる前だったから知らなかったね。ウチは昔、中華料理屋じゃなくて養鶏場を営んでたの」
そこまで言うとその場でくるりと回って踵を返し、再び坂を上り始めます。先頭を行くチャチャマが動き始めるに従って他一同もついていきますが、まだ誰一人として納得していません。
「見てみろよ天魅、これストライプメガシプリールアゲハっていう珍しい蝶なんだぞ」
「わぁ!紫と黄色の水玉で目がチカチカしそうな模様をしてますけど、よく見るととっても可愛い蝶さんですね!レトンさん、どうしてこんなカッコイイ名前なんですか?」
「恐らく自由の名のもとに付けられたのではないかと予想する」
向こうで昆虫採集をしている馬鹿二人は除きます。
「私が316歳ぐらいの時かな?お父さんが突然“俺は料理人になる”って言い出してお母さんが止めるのも聞かないで預金全部使ってお店を建てたの」
「え?じゃあ養鶏場はどうなったノ?」
「放置」
一同唖然。昆虫採集している馬鹿二人(以下略)
蛇足ですがこれが離婚の原因になったという事を、チャチャマ以外に知る者はいません。
「ずっとほったらかしにしててアタシはすっかり忘れちゃってたんだけどね?お父さんはふとしたきっかけで思い出しちゃったみたいで・・・それがすごーく気になり始めて仕事に手が付けられなくなってきたから様子を見てほしいって頼まれたの」
陽気に話しているチャチャマですがどうとらえてもとんでもない職務放棄話です。一体どれほどの悪魔たちが困り果ててしまったのか想像もつきません。
愕然としたままの一同ですが、テルテルは納得した様子で
「なるほド!だから最近、料理の出来が1,24秒から3,58秒まで遅れてたんだネ!」
彼だけが抱えていた謎が解けてスッキリした様子ですが他一同ついて行けず。さらにユイカが「今までと何一つ変わってないぞ・・・?」と独り言、彼女と天魅は店の常連さんです。
「だがな天魅、こんなに可愛いストライプメガシプリールアゲハ・・・略してストシプアゲハだがな、実はこの羽すっごいんだ」
「すっごい?何がすっごいんですか!?変形するんですか!」
「から揚げにすると美味い」
「すごいです!」
何時まで経っても話に混じろうとしない馬鹿は放置の方向で進めるとして。
姉弟の会話に区切りがついたところを見ると「そういえば・・・」と話に割り込んできたのはリアスです。
「あの店って従業員少ないよな?なのにチャチャマとテルテルが店を留守にして大丈夫か?」
「そーねーあの腐クリオネに機動力とか俊敏さとかありそうもないしー」
すかさず悪口を交えて水を差すアリナです。
腐クリオネとまで言われてしまったピピとツンギレ娘のアリナ、目指すモノは同じでも好みが異なるだけですっかり敵対関係。ちょっとでもピピの話を出すと一気に不機嫌になる程嫌い。
つまり今のアリナを下手に刺激すると自分も火の粉を浴びかねない状況。皆口をつぐんでいます。チャチャマもテルテルも口出ししようとしませんでした。
チャチャマは坂を上りつつさらに続けます。
「お父さん、若い頃は忍者してたから影分身の術が使えるの。お客さんが多かったりアタシたちがお仕事できなくなった時は分身を作って厨房やホールのお仕事やってくれるんだ」
「今日は休日だし、お客さんも多いから分身さん大量発生してるんじゃないかナ?」
僧侶のテルテルは姉ほど体力はありませんが、それでも一生懸命ついて行きます。いつか父のようにたくましい男になるためにも、これぐらいの坂でへばってはいられないのです。どっかのツンギレ魔法使いよりも根性がありますね。