ディスガイア小説

□鶏狂奏曲
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夜です。魔界の夜は人間界のビルの明かりで照らされた夜よりも暗いのですが、空の星はあまり輝いていない寂しく不気味な夜です。

悪魔は基本夜行性のためこの時間帯の方が活動している悪魔は多いのですが、このシリーズはこの設定をがっつり無視している方向性で進めていくのでご了承あれ。

夜といってもかなり深い時間帯の夜になれば魔王城城下町でも夜の静けさに包まれ、いつもは騒がしい魔界もしん・・・と静まり返っています。これから夜が明けてしばらくするまでこの調子です。

城下町の一角の中華料理屋はすでに店じまいしており、アルバイト中の水棲族ピピはモップで床を磨き、フロアの掃除をしていました。

「・・・こんなものね」

しばらく床を磨いていましたが唐突に手を止めると、あらかじめフロアの真ん中に置いてあったバケツの取っ手を右手に持ち、軽々と上げます。

反対の手にモップを持ったまま、奥の厨房に入るや否や

「チャチャマさーんお掃除終わりましたー」

流しで調理器具を洗うチャチャマに声をかけるのでした。

中華料理屋看板娘兼現役格闘家娘チャチャマ、どこかズレた発想といい戦闘能力の高さといい只者ではない女性。彼氏なし、趣味はおせっかい。

ピピに気づいた彼女は蛇口をひねって水を止め、中華鍋をシンクに置くと微笑みを浮かべ

「ご苦労様、アタシはここを片付けちゃうから先に上がってて良いよ」

「はーい」

元気よく返事をしたピピはモップとバケツを持ったまま厨房の奥の扉をくぐって姿を消してしまいました。

中華料理屋の奥がチャチャマたちの家になっており、帰ろうと思えば徒歩10歩で帰れるほどの距離しかありません。行く場所も帰る場所もないピピはこの家庭で居候をしています。

「さて、今日もキリキリ働いたしノルマまでもうちょっとかな?明日もキリキリ働いてお金を稼ぐぞー」

意気込みを独り言にしてぼやきながら、エプロンで手を拭くとシンクの傍に置いてあった白い布巾で中華鍋の湿気をふき取り、壁のフックに引っかけて片づけ終了。

「よーしお片付け完了!帰って家計簿着けたらどうしようかなー新メニューでも考えて、メーレに味見してもらおうかなー」

ゆっくり伸びをして達成感に浸り、少し前から考えていた新メニューについて思考を巡らせます。最近考案したのはゴマ団子ではなく乾燥させた麺を付けた麺団子。チャチャマ曰く「パリパリ麺とあんこの甘さがベストマッチ!」なんだそうです。

鼻歌を歌いながらエプロンを脱ぎ、軽い足取りで厨房の奥に足を進めた刹那

「う――――――む」

シンクの前で腕を組んで難しい顔を浮かべ、明らかに悩んでいる様を全面的に出している格闘家の男が突如現れました。まるで亡霊のよう。

彼は亡霊でもなければ怨霊でもありません。彼こそ中華料理店兼チャチャマとテルテルの父兼現役格闘家なのです。バツイチ。

突然出現するなどこの親子にとっては日常的なもの、チャチャマは大して気にする様子もなく振り返って小首を傾げ

「お父さん?難しい顔してどうしたの?」

と、不思議そうに尋ねるだけ。ここでツッコミを入れなくてどうすると思ってしまった我々の方がおかしいのかもしれない程、スムーズに会話が行われます。

チャチャマ父こと店主は娘に目を向けると一瞬、迷ったような趣を見せます。

「うむ・・・少し心配事があってな。どうしようかと考えていたのだ」

「売上なら今月もギリギリ黒字だよ?」

「売り上げの事ではなくてな・・・時にチャチャマよ」

「なあに?」

「少し頼まれてくれんか?」
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