ルフ魔女小説

□牢獄と人形兵
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行動を起こすにも何もできそうにないので、仕方なく大人しく過ごしていること数時間。食事が運ばれてきました。
運ばれてくるといっても、扉の上部にある小窓から食料を落とすという人間味あふれないやり方で与えられたのですが、食料が得られる事には変わりません。人形兵一同は歓喜に沸き、
「コッペパン1個だけ?」
マサーファのこの台詞で全員が我に返りました。
「すっくな」
「絶対人数見てないよね〜これ〜」
「1個のパンをこの人数で分けろということでしょうか?」
「てか水もねぇの?このまま食ったら口の中パッサパサになるじゃん。看守は食べる側の気持ちも考えてくれてもいいだろ?」
皆が口々に文句を言う最中、レグが発言しだ直後に小窓が開き、そこから瓶が1個落ちてきました。奇跡的に割れませんでした。
丁度近くにいたアルスティが瓶を拾い上げ、中を見ると透明の液体が波打っているのが分かります。
「水ねこれは。看守は気が利くのかタイミングが良いのか」
「きっと後者よ」
ナノコの台詞に一同が深く頷いた所で、食料を囲んで座り込み、緊急会議が幕を上げました。
「さて、どうしようかしら……ちぎってみんなで分ける?」
「大きさの違いで小競り合いが発生する可能性が大いにあるぞ。こんな閉鎖空間で険悪な雰囲気なるのはおじさん耐えられねぇからなるべく穏便に済ませたいなぁ」
「アナタの存在自体が私の気持ちを害しているのですが」
「そりゃあどうしようもないわー」
いつも通りサモがレグに噛み付いているので少しは元気になったのでしょう。周囲から生暖かい視線が注がれていました。
「では、レグさんの意見を採用してみんなが納得できる方法でパンを食べることにしましょうか」
ミーアの提案に一同「さんせーい」と賛同の嵐。彼女は続けて、
「それで、誰がこれを食べるのでしょうか?」
答えは言葉ではなく態度になって返ってきます。
一斉に口をつぐんだ彼らが見たのはルテューアと、彼の膝の上でじっとしているポメでした。
「……えっ?僕?」
「にゅ?」
話の流れを理解するのが少々遅れましたが、とにかく彼は目を丸くして自身を指します。なんのことだか分かっていないポメは首を傾げていましたが。
「ぼく?じゃあねぇよ?ずーっと腹の虫鳴かしてただろうが」
「子供にひもじい思いをさせたくないのよ。大人として」
レグの言葉もアルスティの言葉も否定する者はいません。育ち盛りを除く一同は大きく頷いて静かに同意していますし、ミーアはニコニコしながらコッペパンを2つにちぎっていました。
満場一致でルテューアとポメにパンを食べさせることが決定されたのですが、指名された本人はどうにも納得できない様子。
「ぼぼっ!僕は大丈夫だよ!一食ぐらい抜いてもへっちゃらだもん!1日ご飯を食べなかった日も何度かあったしへーきだって!だから他の人にしよ!ね?」
腹を空かせていた子供の台詞とは思えません。なんという自己犠牲の精神の持ち主でしょうか、見ているこっちの心が痛くなってきます。
しかし周りの大人たちは子供から食べ物を譲り受ける気にはなれません、ナノコがちょっとうずうずしていますがニケロに手の甲をつねられたので大人しくなりました。
一進一退の攻防戦が始まるのかと思いきや、アルスティから出た言葉は、
「そう、やっぱりルテューアは優しい子ね……」
「うん」
よかったー納得してくれた……なんてホッとした矢先、アルスティに右腕を掴まれました。
「ふえ?」
「おじさんは左で」
続いてレグがすかさず左腕をがっしり掴み、哀れルテューア両腕が動かせなくなってしまいます。
「な、なに?」
「大人の気遣いを子供が無下に扱っていいと思ったら大間違いよ、ルテューア」
そして、目の前に現れたのは半分にされたコッペパンを手にして仁王立ちしているマサーファでした。
「嫌だと言うなら無理矢理食わせる。それだけの話よ」
「残さず食えよ、俺らの分まで」
「わあああああああ!?嫌だってぇ!僕はいいってぇ!」
足は自由に動かせるので一生懸命暴れて振りほどこうとするものの、空腹であまり力が入らないせいかアステルナイトの腕力でも振りほどけそうにありません。
「大丈夫、痛くしないわ」
「痛いとか痛くないの問題じゃないよぉ!離してー!」
「むぅ」
こう暴れられてしまってはうかつに近寄れません。さてこれはどうしたもんかとマサーファがぼんやり考え始めると同時に、
「るーくん。パンが嫌いってことはないんだから嫌がらなくてもいいでしょ〜?」
そう発言したのはいつの間にやらマサーファの隣に立っていたニケロでした。いつも通りの穏やかな口調の中には呆れた様子も苛立った様子も一切感じられません。
「嫌いじゃないけど、僕以外の人に食べてもらいたいの!僕はいいもん!」
「るーくんも頑固だね〜まあ、嫌がる子供に無理矢理食べさせるのも見ようによっては虐待みたいなものだし〜僕は別にいいと思うよ〜」
『え』
唖然とするアルスティたち、この一言の中に「お前大人組の味方じゃないの?」といった意味合いが込められているのが嫌でも分かりますね。
「ホント!?」
「僕が用意した最終プランをクリアしたらの話だけど〜」
「最終プラン?なにそれ?」
「おじさんの濃厚な口移しでコッペパンのひとくちだけ食べ」
ニケロの台詞が終わる前に、
「お願いルテューア!食べて!!」
「食べる!!」
レグとルテューアの絶叫が牢屋の中に響きました。
優しすぎる子供を納得させることに成功しましたが、周囲がやや引いていますしナノコが必死に笑いをこらえているのが見えます。無理もない。
なお、一緒に指名されたポメはというとミーアの膝の上で、コッペパンをそれはそれは美味しそうに頬張っていました。
「おいしいですか?」
「ちゅみ!」
ネルドが旅団一行を救出にし現れるまで残り1日と12時間。



投獄から丸1日経って2日目。
看守からは相変わらず何も言われず、少なすぎる食事を与えられる以外は放置される時間が地味に過ぎて行きます。
「ひ〜ま〜だ〜ね〜」
「おじさん自分の枝毛探すの飽きちゃった」
1日経ってもあまり動揺しないニケロとレグは壁にもたれて座り込んでおり、天井でも眺めながらぼんやりしていました。やる事がないので。
時間が経つに連れて口数が減りつつある旅団一行は各々自由に暇を持て余していました。手遊びをしたり、昼寝をしたり、一発ギャグの練習をしたり、自分のダメなところを延々と呟いていたり……。
そんな中、ベッドの横で正座しているマサーファは、水が入っていた瓶を手の中で転がしながら歌っていました。
「ビーンがこ〜ろこ〜ろこ〜ろがって〜まるーで人のー生首〜天日干しにしたら鳥に食べられた〜もうきん〜そういう鳥葬〜♪」
恐ろしく低音で不気味な歌です。サモが青ざめながら引いている様子が見れます。
周囲の人々が次々と引いてしまう中、ベイランは一瞬だけ鬱モードから回復。マサーファの肩を掴みます。
「やめろよその不気味なオリジナルソング!背中ゾワッってしたから!」
半泣きになってまで訴えますが、マサーファは首を横に振り、
「オリジナルソングではないわ、レクイレムよ。またの名を鎮魂歌」
「え?どゆこと?」
「できれば見つけたくなかったのだけど」
そう言った彼女、ベイランの手を優しく払いのけるとベッドの下に両手を突っ込み、しばらくがさごそとあさります。
あくびをするのと同じぐらい短い時間が流れ、ベッドの下から出て来たのは人の骨、頭がい骨でした。
「ギャッ!」
マサーファに抱えられた頭がい骨と目でもあったのかベイランは真っ青になって後ずさり。以前も人の死体を見た事がありますが一向に慣れません、凡人としては正しい反応かもしれませんね。
「あらまあ……綺麗に白骨化していますわ。ここでお亡くなりになられて放置されたのでしょうか?」
「投獄した奴が死んだからベッドの下に隠しとこ〜ってか?どういう神経してんだよヴェルトの看守共は」
「ナムナム」
ミーア、レグ、ニケロの初期メンバーは顔色1つ変えず、興味がありそうに頭がい骨を眺めています。初期メンバーだから見慣れている……というワケではなさそうですね、そこの不幸体質の彼を見る限りは。
それでも、人形兵になってから残酷な光景を嫌ほど見てきたせいもあって動じない人物の方が多いようで、ナノコも興味津々そうに「みせてみせてー!」とはしゃいでいますし、ポメもきょとんとしています。
そして、我らがリーダーアルスティはといばマサーファの歌を聞いてから部屋の隅で頭を抱えてうずくまっていました。
「大丈夫……大丈夫……まだ5体繋がってるじゃないの何を怯えているの私……もう怯える必要も死ぬことを願う必要もないんだし、いけるいける……生き続けることが報復になるって忘れるな……」
思い出してはならない何かを思い出してしまったようです。
「あーたん?どうかしたの?お腹痛いの?」
心配したルテューアが声をかけてくれますが今の彼女に振り向く余裕すらないので、
「なんでもないわ二日酔いよ」
「そっかぁ」
有りもしない内容で誤魔化す方も問題ですがそれで納得する方にも同様の問題が見られます。
心配していることに変わりはないので、ルテューアはアルスティの頭をそっと撫でて静かに慰めてあげるのでした。
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