日本一小説
□喰らう者のクリスマス
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暗い空の上に星が輝いています。
一つだけではなく、何十万といった星が空から地上を照らしていました。
気温は氷点下近くあり肌寒いを通り越して凍えそうだというのに、一人の人間は空の下で星を眺めていました。
それは赤い瞳を持つ赤毛の少女でした。
少女はいつも軽装ですが、今は冬ということで毛皮でできたローブを羽織っています。何の毛皮なのか、これを仕立ててくれた育ての親に聞いても答えてはくれませんでした。
特に目的もなくぼんやりと星を眺め続けている少女は、頭の中で今日行われるイベントで、アレをどうやって愛しの彼に渡すべきか作戦を練っています。
腕を組んであれでもないこれでもないと思考錯誤しながら、うんうん唸っていました。
「むむう・・・どうすればいいかなぁ・・・」
「おーい!」
突然後ろから聞こえる呼び声。今ここにいるのは少女だけなので、少女を呼ぶ声に間違いないようです。
思考を働かせることを中止した少女がゆっくり振り向くと、物心ついた時からずっと一緒にいる幼馴染兼ライバルである女の子がこちらに向かって駆けてくる姿が視界に飛び込んできました。
少女とお揃いのローブを羽織っている彼女は、近くまで来ると足を止めます。全力で走ってきたというのに息切れひとつしていません。
「もう!パーティが始まるというのに、お前が来ないといつまで経っても始まらないじゃないですか!」
「ゴメンダネット。ちょっと考え事してた」
少女はダネットと呼んだ彼女に笑い飛ばしながら謝罪しました。特に反省はしていないご様子。
そんな態度の少女に、ダネットはぷんすかお冠になって
「相変わらずお前はトロいですね。ホラ、皆待ってるですよ」
少女の腕を引っ張って、ダネットは来た道の逆を進み始めます。ただし、ダッシュで
「ちょっと待ってダネット!セプーの馬鹿力で引っ張ったら私の腕外れる!」
「お前はトロいからお前のペースに合わせると、呼びに行った私が怒られます。だから急ぎます!」
「やめてダネット!クリスマスに脱臼なんてしたくないー!」
悲鳴を上げる少女、リベアは親友ダネットに引っ張られ、生まれ故郷である隠れ里に戻って行くのでした・・・。
隠れ里に戻ったリベアとダネット。
ダネット(馬鹿力)に腕を引っ張られて悲鳴を上げていたリベアは、奇跡的に脱臼せずに済みました。
里の出入り口付近で二人を出迎えてくれたのは、リベアの相棒でダネットの喧嘩友達である死を統べる者、ギグでした。
「どこ行ってたんだよ相棒!テメーがいないからホタポタケーキが食え・・・ってどうした。真っ青だぞ」
「うん・・・クリスマスに悪夢を見るかと思ったよ」
意味深だけど意味の解らない答えに、ギグは「は?」とキョトン。
「あ!外に出たお前!どうして私が用意したくりすます衣装を着ていないのですか!」
リベアを脱臼の恐怖に陥れた張本人は、普段着のままのギグを見るなりを苦情をぶつけました。
「はあ?何で俺があんなダセぇの着ないといけねーんだよ」
「何てこと言うんですか!あれは私とアイツがよるがまして一生懸命作った衣装ですよ!」
「ダネット・・・よるがまじゃなくて夜なべだよ・・・」後ろからリベアのツッコミが聞こえましたが、ヒートアップしているダネットの耳には入りません。
中々首を縦に振らないギグの前に、ダネットは彼に着てもらう予定のお手製クリスマス衣装(サンタ)を広げると
「ほら!こんなに上手に出来ているというのにどうして着ようとしないんですか!細っこいお前でもぴったり合うように、アイツが一生懸命サイズ調整したんですよ!」
「誰が着るか!・・・っと待てよ?色とデザインはダセぇけどサイズはぴったりそうだな・・・相棒がここまでやったのか?」
「そうです!アイツはお前の服はこれでもかというほど一生懸命作ってました!私が保障します!」
「お前の保証なんてこれっぽっちもいらねーよ。・・・つーか相棒、何で俺の服をここまで正確に作れるんだ?」
おおよその答えは予想できていますが、ギグは視線の先をダネットからリベアに変え、疑心を持った目で彼女を睨みました。
いきなり話の矛先がダネットからリベアに変わり、しかも彼にばれてはいけない重大機密を尋ねられたリベアは、真冬だというにも関わらず大粒の汗を流し、聞かれてはならない答えを持っているのを明らかにしてくれました。
話がよく見えていないというか、そこ事に疑問すら覚えてなかったダネットは状況を読めずにキョトンとしており、滝汗を流すリベアを見るなり疑問を覚えました。
「お前?どうして冬だというのに汗をかいているのですか?」
「・・・・・・・・・・・・」
「相棒・・・テメェまさか・・・」
その「まさか」がいつの間にか実現されていた可能性が99%から100%に進化した瞬間でした。
逃げ場が失われたリベアは手を後ろに回してその場で回り、後ろを向くと
「じ、じゃあそろそろ顔出さないとね!パーティがいつまで経っても始まらないよ!」
適当な理由を付けて逃げ出しました。
「相棒!待てやゴラァァァァァァァァ!」
鎌を出現させ、逃げるリベアを全速力で追いかけるギグ。すぐにいなくなってしまいました。
取り残されたダネット。未だに状況が読めなくてギグに着てもらう予定だった服を両手に、ベルビウスが呼びに来るまでずっと立ち尽くしていたそうな・・・。