日本一小説

□ソードマスターの苦悩
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障害。それは永久に治らない病。

生まれた時から体をむしばみ、時には命を奪ってしまうものもある。それを持って生まれてしまえば、高確率で不幸になるだろう。

障害を持って生まれるのは人間だけではない、悪魔だって例外ではないのだ。

私は生まれた時から声が出ないという厄介な障害を持ってしまった。

いくらか転生を繰り返したが、声が出ない症状は一行に治らないところから、私の病は体ではなく、魂の疾患ではないのかと医者に告げられたのは五百年程前。

幼い頃はどうにかして喋ってみたいものだと思っていたが・・・今となってはそんな願望すらどうでもいいと思えてしまうのは、成長の証なのか、それとも諦めの証なのかは分からないが・・・

とにかく、私こと女ソードマスターるいは、生まれながら声が出ない障害を持っていた。

さっきも言ったが、今となっては声が出ないことなんて気にしていないし、戦闘においてはこの障害が役に立つこともある。

日常生活に支障はあるが・・・常に首から下げているメモとペンを使ってある程度のコミュニケーションは可能だ。後は適当にジェスチャーすれば何とか伝わる。

まあ、そんなことはさておき、だ。

私には今、深刻な悩みがある。もちろん障害のこととは無関係な悩みだ。

・・・念のため言っておくが、恋愛的な悩みではないぞ。

つい最近まで何とも思っていなかったが、魔王ゼタのしもべになってから出てきた悩みだ。しつこいが、決して恋愛などではない。

魔界で生きていく上で必要な悩みという訳でもないが・・・

「いたいた!るいー!」

復興中のゼタ魔界で散歩をしていた私の背後から大声をかけてきたのは、リア充戦士ラテだ。手には手のひら程のサイズの小さな箱を持っている。

ああ・・・今日もか

「るいってばこんな所にいたんだね。探しちゃったよ」

振り返ってのんきな笑顔で語りかけてくるラテを見る。今日も相変わらず元気だ。

「はいこれ。今日はバタークッキーだよ」

出会って一分も経っていない内に、彼女は手に持っている箱を差し出した。中に入っているお菓子の名を付け足して

何も言わず、さらに表情も変えずに受け取ると、ラテは満足そうな笑みを作り上げると

「また味の感想聞かせてね!それじゃ!」

あっという間に去ってしまった。忙しない女である。

受け取った箱はピンクのリボンで結ばれており、女の子が好きそうなデザインのラッピングが施されていて、私には似合いそうもない。

どちらかと言えば和菓子が好きだが、洋菓子が嫌い問う訳ではない。折角もらったのだからその場でいただくことにしよう。

その辺にあるコンファイン用に置いてある星五つのレアな岩の上に腰を下ろし、膝の上でリボンをほどいてラッピングを丁寧にはがす。

さらに箱を開けると、星やハートといったユニークな形のクッキーと、バターのほんのりとした甘い香りが鼻を刺激した。とてもおいしそうだ。

まず星形のクッキーを手に取る、焼き立てなのかちょっぴり熱い。

一口食べるとサクッとした食感と甘さが口いっぱいに広がり、味わえば味わうほどクセになる。どうやらまた腕を上げたようだ。

このように、ラテは私にお菓子を提供しては食べさせて味の感想を聞いてくる。目的は恋仲であるテットにおいしいお菓子を食べさせるためだ。本人の口からは聞いていないが間違いないだろう。

何故私なのかというと「るいって小っちゃいからお菓子とか好きでしょ?それに遠慮なく感想を言ってくれる気がしたから」と、答えられた。

確かに甘い物は嫌いではないし、相手の気持ちを配慮せず感想を述べる。私を使って料理の腕を上げることは大いに結構だ。タダでお菓子が食べられるし。

まあ、一つだけ不満な点はあるが・・・

「あらるいちゃん、美味しそうな物食べてるね」

二枚目のクッキーを食べ終えたのと同時に私を呼ぶ声がする。視線をそちらに向けると、分厚い本を何冊か抱えている変た・・・じゃなくてユキコがいた。

あんな細い腕であんな重そうな本を持てるものである。しかもよく見れば本は全て魔道書の類だ。

彼女は魔法使いではないから、魔道書を読む必要なんてない。だからソレは不必要なはずなのに、どういう訳かソレを抱えて運んでいる。

そう思いながら首を傾げていると、それだけで私が何を言いたいのか理解した彼女は

「お嬢に頼まれて図書館から何冊か本を借りたの。結構重いけど、持ってみる?」

嫌だ。全力で拒否する。

「そうだよねーこれだけの本を見て持ちたいって言う人はいないよねー」

全力で首を振って拒否したお陰で私の意思は十分すぎる程表明できたのだろう。苦笑いを浮かべたユキコは「ちょっと休憩しましょ」とぼやくと本を私の隣の石板の上に置いた

ポケットからレースが付いた白いハンカチを取り出すと、額に着いた汗をぬぐう。今日はまだ気温が高い方だし、あんな重いものを持てば体力が使われるのも当然だ。汗だってかく

自称、お嬢様のためにここまで尽くすとは・・・悪魔的には考えられない行為だが、それが彼女の生き様というのだから仕方がない。私が口出しする権利なんてないしな。

三枚目のクッキーを食べながら休憩中の彼女の横顔を見ると、なんとも清々しい表情をしている。今の生活に十分満足しているという、満足感までもが伝わってきた。

そこまで頑張っていても、あの性悪女が主人なんだ。絶対に報われない。

そう考えると、なんだか可哀そうになってきて、クッキーを食べる手を止めてしまった。

「ん?るいちゃんどうしたの?」

それに気付いたのか、ユキコはきょとんとしながら尋ねてきた。
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