日本一小説

□キュロットの不思議な一日
1ページ/6ページ

太陽は半分地平線へと沈みかけており、それを背景にして黒い鳥・・・てかカラスがアホーアホーと鳴きながら飛び、外で遊んでいる子供が徐々に家に帰り始めています。そんな絵に描いたようなわかりやすい夕方の模様が繰り広げられている時間帯。

誰もいない夕暮れの小道を、キュロットは一人買い物籠を下げながらてくてくと歩いていました。

「思ったより遅くなっちゃったなぁ・・・早く帰らないとまた姉さんに理不尽な暴力を受けちゃうよ」

理不尽な暴力=ただのストレス解消のための暴力と確信している買い物帰りのキュロットは、自然と足を速め、教会へと急ぎます。

今日の晩御飯は何だろうなぁ・・・アルエットさんが作ってくれるご飯だったら何だって食べれるけどなぁ・・・と妄想を爆発させながら歩いていると、彼はふと、高さはそれ程無い崖の壁にちょこんと咲いている小さな花を発見。

キュロットがそれを視界に納めると、速めていた足を止め花を凝視。

「キレイな花だなぁ・・・あっ!そうだ!これをアルエットさんにプレゼントしたら喜んでもらえるかも!」

好きな人の笑顔をみるのは誰だって幸せなことです。思い立ったが吉日、崖を登るほどの体力何て無いキュロットが、何か足場になるような物はないかと周囲を見渡すと、高さ一メートル程の石が何個も積み重なっている物を発見。それは偶然か必然か、花の真下に存在していました。

「そうだ!あれを足場にすれば」

それに近づき、横に買い物籠を置いて準備完了。アルエットさんの喜ぶ顔を見るために、いつ崩れてもおかしくない石の上へと彼は足を置き、ひょいひょいと登ります。

「とっと・・・危ないなぁ」

乗った瞬間グラグラと揺れる石、落ちないようにと彼はとっさに崖へとつかまりバランスを保ちます。

しばらく待ってバランスが保たれたところで、彼は花を見上げて手を伸ばします。しかし後少しの所で手が届かず

「うぐぐ・・・もう少し・・・」

もうちょっと・・・もうちょっとで・・・そうだ!背伸びをすれば届くかも・・・

何としてもあの花を手に入れたいと足に少しだけ力を入れた瞬間、ギリギリのバランスで保たれていた石達がついに耐え切れなくなり、上から崩れてしまいました。当然その上に乗っていたキュロットも一緒に落下。

「うわぁ!」

どすん。尻から着地したため大した怪我はありませんでしたが、崩れてしまった石達を眺めて彼は重い重い息を吐いてしまいます。

「あれじゃあ花は取れそうもないや・・・折角アルエットさんに渡そうと思ってたのに・・・イタタ・・・」

お尻をさすりながら崖に咲く花を見つめながら呟き、立ち上がると買い物籠を手に取り、改めてため息を吐くと花を取ることを諦めてトボトボと家路についてしまいました。その背中は、夕日を受けてさらに寂しそうなものになっていました・・・。

ですがこの時、彼は一%たりとも予想していませんでした。

この行動が、後に大惨事を引き起こすことになるなんて・・・。

哀愁に満ち溢れた背中を見せている悪魔祓いは、知る由もなかったのです。





翌日。太陽は新しい一日を祝うようにさんさんと輝き、ハトのような白い鳥はそれに賛同するかのように青い空を背景として飛び回っているという、絵に描いたような清々しい朝のこと。

昨日アルエットにプレゼントしようと思っていた花を取ることができず、落ち込んでいたキュロットはすっかり元気を取り戻し、今日もアルエットさんに褒めてもらえるようにがんばろうと意気込んでいました。

「さて、姉さんでも起こすか」

朝起きて、着替えを済ました彼の朝一番の仕事はいつまで経っても起きてこない姉、プリエをたたき起こすこと。大抵は叩き起こす前に寝ぼけて叩かれていますが、それはさておき

「姉さーん起きてるー?」

まず部屋のドアを叩いて一言。しかし当然のごとく返事は無く。中にいるプリエがまだ夢の世界で暴れていることを表していました。

やっぱりね・・・キュロットは内心呆れながらドアを開けて、姉の部屋に入ると・・・

「あれ?」

何とプリエは起きており、さらにはちゃんと着替えも済ませてあり、何故かぼんやりと窓の外を眺めていました。

この様子が、奇跡以外の何者でも無い事をキュロットは一番知っています。だから目をぱちぱちさせて口をあんぐり開けて、とっさに頬をつねってこれは夢ではないかと確認したりする行動は、とっても仕方がない行動なのです。

自分でつねっても結構痛かったので、これは夢ではないと確信をもったキュロットは慌てて、窓の外をぼんやりと見つめているプリエまで近づき

「ねねねね姉さん!どうしたの一体!こんな朝早くから起きてるなんて姉さんらしくないよ!」

「おはようキュロット。アタシが朝早く起きたっていいじゃない、天変地異が起きるわけじゃないんだし」

「そりゃそうかもしれないけど・・・」

この時彼は思います。姉の声が普段よりも一段階どころか二段階も優しくなっていることに。何か良い夢でも見たのでしょうか。

奇跡ってプリエ姉さんの身にも起こるものなんだ!キュロットが奇跡について若干感動を覚えていると、いつもよりもかなり真面目な表情のプリエがゆっくりと自分にその眼差しを向けてきたことに気付きます。

「姉さん・・・?」

今日の姉さん何かがおかしい。とっさに判断した彼は何かまずいことでも起きるのではないかと、思わず身震いしてしまいました。

しかし、彼女の口から出てきたのは弟が思っている言葉とは全く違うものでした。

「アタシね、思ったの。このままじゃ駄目だって」

「へ?」
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ