過去拍手置き場
□第24話 敵陣に踏み込め
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あの戦いから一夜明けました。
火の海とイレギュラーが消えた町はすでに復興作業に入っており、ガーディアンも手伝いもあってか一週間足らずでほとんど終了する予定だとか。
町の事は一安心ですが、問題はこれから先の話。
「ついに、この時が来たのね・・・」
司令室。窓の向こう側は晴れており、雲がベース横を流れていく、いつもの空がありました。
椅子に腰かけているプレリーは後ろにいるヴァンとエールに静かに語りかけています。
ひざに置いているぬいぐるみを抱き上げ、静かに腰を上げると振り返り、静かで落ち着いている、だけどどこか悲しそうなそんな趣で
「分かったんだな、モデルVの場所」
「どうせセルパンカンパニー本社なんでしょ?流れで大体分かるわよ」
ヴァンのいつもより3割り増しのシリアスな趣に反して、エールは後頭部で手を組んでいつもと同じように軽い口調で言いました。
空気読まない言動は仕方ないとして、プレリーは頷きつつ続けます。
「モデルVの反応だけじゃなくて膨大なエネルギー反応も出ているわ、恐らく、あの中で何か起ころうとしているのかも・・・」
「ずっと言ってる“ロックマンの王”っていう割とどうでもいい職業の開発じゃない?それとも“王”って言うぐらいなんだから建国とかやってんじゃないの?」
『エール・・・ちょっと黙ってようか・・・』
シリアスな場面にエールの発言はどうでもいい他にありません。モデルXが規制がを入れれば不満そうに頬を膨らまします。
呆れるヴァンが引きつった表情を浮かべていると、プレリーは言葉を続ける前に目を伏せてしまいます。
「その・・・今更かもしれないけど」
「今更?何の話だ?」
キョトンとするヴァン、言い喋りを規制されているエールは黙って首を傾けるだけ。物語終盤に来て言われた事は律儀に守る素直な一面が明らかになりました。
「アナタ達をいつも危険な目にあわせてしまって・・・ごめんなさい。元はといえば私がアナタ達やジルウェさんに依頼したりしなければ・・・」
ジルウェが死ぬことも、二人がロックマンになって凶悪なフォルスロイドと死闘を繰り広げる事も一生無かったかもしれない。戦いの無い穏やかな人生を送れたかもしれない。
そこまで言いはしなかったものの、憂いを帯びているプレリーの趣からこの言葉を読み取るのは容易でしたが、二人のリアクションは彼女が想像するものとは全く違っていました。
『・・・・・・』
彼女の口からこんな言葉が出るなんて思いもしなかったのでしょうか。謝罪を受けた二人はぽかんとして突っ立っているだけ。
「・・・あら?どうしてバトル漫画の急展開についていけなくて頭の中がこんがらがっちゃった読者みたいな薄い反応してるの?」
今度はプレリーが首を傾げる番。目を丸くしてキョトンとしさっきまでのシリアスな雰囲気をブチ壊してくれました。
同室にいるオペレーターたちやライブメタルズも空気を読んで何も言いません。よって、約三分の間沈黙がこの場を駆け巡ることになります。
「・・・別に謝罪なんてしなくてもいいわよ?だってアタシたち後悔なんて全然してないもの」
お喋り禁止令はこの三分の内に解けたのでしょう。最初に口を開き、さっきよりも大きく首を傾けたのはエールでした。
それに続いたのはヴァン。
「モデルXやモデルZ、他のライブメタルたちが力をくれたから俺たちはここまでこれたし、誰かを守れるようになった。先輩の事は俺たちの力不足だっただけ、プレリーが気にする必要はどこにもないって」
「だけど・・・」
「あーナシナシ、そういう辛気臭いのナシ。いくら最終ダンジョンが近いからって一気に湿っぽくなるのは嫌だし死亡フラグ乱立させるのも嫌、プレリーはいつも通りアタシたちを笑顔で送り出して無事を祈る!それだけでも勇気と根気と愛情は500倍になるんだから」
本当に、ヴァンはフォローが上手ですしエールは調子を乱さず明るく答えてくれています。主人公としての態度と台詞は疑問視されますが置いといて
いつもと変わらない二人を見てプレリーは小さく吹き出してしまい、この二人を心配したり気を使ったりするほうが馬鹿げているかもしれないと思ってしまいました。
「そうね、二人に暗い話題なんて似合わないわ。私ったら気を使いすぎてたみたい」
「そーそー」
腕を組んで大きく頷くエールは通常運転で最終決戦を控える主人公にはとても見えません。ヴァンが引き笑いを浮かべていますが無視。
「なあ、俺たちって本当にこれからセルパンカンパニーに乗り込むのか?」
『そうだよ、今更何言ってるの?』
冷静な所が逆に馬鹿にしているように感じるモデルXの指摘に「だよねー・・・」と無気力そうな返答しかできませんでした。
「特別心配する事もなかったわ」
ホッと、肩の荷が下りたようにプレリーは小さく呟けば、みなの視線を一斉に集めました。
そして
「ヴァン、エール。きっと・・・生きて帰ってきてね・・・!」
とびっきりの笑顔で二人を見送るのでした。