過去拍手置き場
□第18話 彼女が変われば少年は苦労しない
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連日きついミッションを続けているエールの唯一の息抜きの時は、深夜でした。
「・・・」
今日も机に向かってせっせとペンを走らせるエール。書いているのは文字・・・ではなくイラストで、有名なマンガに出てくる美男子を見よう見まねで描いていました。
しかも、ミッション中に滅多に見せない、かなり真剣な眼差しで。
そんな様子が毎日休みなく続き、どうして彼女が突然絵を描き始めたのか疑問に思ったのは、彼女と共に過ごしているモデルX
片時もペンを走らせる手を休めないエールの背後に、ゆらゆらと彼は近づくと早速その疑問を打ち明けます。
『あのさ・・・エール』
「何?」
背後から声をかけられても全く驚きません。モデルXが後ろから近づいてくることに気づいていたのでしょう。
『最近疑問に思ってたんだけどさ、毎日こうやってマンガやゲームのイラストを描き写してるね。エールって』
「そうだけど・・・ミッションに備えて早く寝ろって?」
手を止めると、少しの不機嫌を表しながら振り返りました。モデルXがヴァンなら確実に殴られています。
『それもあるけど、どうしてまた急にそんなことし出したのかなー・・・って、思って』
ぶっちゃけヴァンが常日頃遭っているような目には遭いたくないため、質問の答えをオブラートに包んでおきました。
「ふーん」と怪しみながらも暴挙に出ることなく、エールは再び机に向きなおしてペンを走らせるとあっさり答えてくれました。
「アタシの手で美少年を描き出して、ソイツらをラブラブさせたいなーっていう欲求が出てきたの。不思議なことに」
『・・・・・・』
モデルX絶句。何?今美少年同士をラブラブさせたいって言ったの?そこのお嬢さんは?
「今までは頭の中で妄想したり、思いついた話をメモしていく程度だったんだけど・・・どうも最近自分で描いてみたいなーって思うようになって」
『へぇ・・・』
「でもアタシ、今まで絵なんて描いたことないのよね。ある程度の知識は調べたり、プレリーに教えてもらったりしたけど後は独学。一番の方法は“とにかく描く!”って聞いたからこうやって、毎日練習してるの」
『そう・・・』
あれ?この娘もしかして腐の付く女の子になりかけてる?何かがきっかけで開いてはいけない扉が開いちゃった?
エールの腐化の一番の原因を作った彼は、今になってやっと彼女の変化に気づきました。ヴァンはだいぶ前から気づいているというのに。
開きだした扉を閉める方法なんて知りません。モデルXがしばらく黙っていると、エールは唐突に切り出しました。
「ねえ、モデルX」
『なんだい?』
「チームワークって必要かしら」
いきなり何を言い出すのかと、驚いた彼は黙っているとエールは続けます。
「今まではアタシが活躍して、ヴァンが下僕のように働いてきたお陰で何とかなってきたじゃない?でも、最近セルパンたちも手ごわくなってきてるから戦力に差が出てくるかもしれないわ」
『だから足りない戦力を補うために、チームワークを充実させようと?』
「そういうこと」
あの自分勝手でワガママで負けず嫌いなエールが、チームワークを意識するというだけで大層立派なものですが、それに気づくのがちょっと遅くないものでしょうか。
『物語も半分を超えたっていうのに・・・』
「何か言った?」
遠くを見てぼやくモデルXに、エールはいつの間にか手を止め、上の空の彼を睨んでいます。
『あっ!なんでもないよ!そうだよね!チームワークは大切だよ!生きていく上で』
慌てながら誤魔化したためエールに不審がられてしまいました。彼が喋る金属でなかったら、滝汗が流れていることでしょう。
「・・・・・・そうよね。だから明日のミッションはヴァンとチームワークを取りつつ華麗にミッションコンプリート!を、狙ってみるからサポートよろしくね」
『あ、アイアイサー・・・』
一瞬不自然な間があったので震えましたが、どうやら見なかったことにしてくれたようで、モデルXはホッと一息つきました。
『(チームワーク。かぁ・・・)』
いままで己の事しか考えず、ヴァンを物のごとく扱ってきた彼女が、明日から心を入れ替えて彼と協力しあうことができるのか・・・と聞かれれば
『(無理だよねー)』
簡単に人間(レプリロイド含む)が変わることはできません。今までの志やらやり方やらを捨てて、新しいやり方を通していくなんて傲慢な彼女には無理な話です。
『(モデルZにも協力してもらおうかな・・・無理な気もするけど)』
そう簡単にはいかないであろうエールの決意に、モデルXは早くも諦め姿勢。とりあえず、明日のヴァンの苦労がいつもより1,5倍増加することはなんとなく、察知できました。