過去拍手置き場

□第17話 誰のために少年は戦うのか
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海底トンネルのとある場所には、モデルLのフォルスロイド、レグアンカーのプライベLートルームがありました。

内装はボス部屋を想像していただければこと足りますが、他と違っているのは天井にまで届く高い棚です。

そこには数多くの水槽が飾られており、その中には色とりどりの魚が、のんびりと泳いでおります。

その魚はごく普通の海水魚ではありません。深海にしか生息しない珍しい魚や、魚ではない珍しい生物、おまけに図鑑には載っていない新種の生物までいる始末。

その魚たちを鑑賞しながら、レグアンカーは満足げに一言。

「うむ、我ながら沢山集めたものだ」

ここまでくればお気づきの方もいらっしゃるでしょう。そう、彼は自他ともに認める深海魚マニアだったのです。

「海底にチョウチンアンコウに似た光を放ち、集まってきた魚を食うのではなく捕え、コレクションの一部にする・・・さすがはセルパン様、考えることが違う」

どうやらセルパンが発案者のようです。

「おかげでこんな場所に待機せざる得ない状態になってしまったが・・・これもコレクションを思えば負ではない。・・・ん?」

天井に設置しておいたサイレンが、チカチカと輝き始めました。

「と呟いている内に新しい獲物がかかったようだな」

どこか楽しそうな様子で部屋の中央へと移動すると、中央の床がゆっくりと開きました。

「さて、今日はどんな魚が捕れただろうか」

そこから現れる、新しいコレクションに期待して胸を高鳴らせていると、いつものように捕えた獲物が床下から現れました。

ここまではいつもと何一つ変わらないのですが・・・

「・・・これは・・・」

変わったことを一つ挙げるとしたら、今日捕えた獲物は深海魚でもなく、ましては深海にだけ生息する生物でもなく、自分たちの敵であるガーディアンの一員だということぐらいでしょうか。

「・・・ここどこ?」

まんまと捕まってしまったヴァンは、抵抗することは無駄だと思っているのでしょうか。透明のケースの中に正座して待機していました。まだレグアンカーの存在には気づいていません。

これはとんでもない者を捕まえてしまった・・・。レグアンカー、まさかの出来事に絶句。

『ヴァン大変だ!真上にフォルスロイドがいる!』

「何だって!ってことはつまり、俺はフォルスロイドの罠にまんまと引っかかってしまったってことなのか!?」

エールがいたら、鉄拳はほぼ確定事項です。

「・・・これが、セルパン様から聞いていたガーディアンの・・・?」

幹部であるプロメテを退けた十代前半の餓鬼とは聞いていたものの、頭の回転が良い有能な戦士だと思っていたので、こんな簡単な罠にあっさりと、しかも魚用の罠にかかるなんてこれっぽっちも予想していませんでした。

しかしここでハッと我に返るレグアンカー。これはもしかするとチャンス・・・?

尊敬する上司が目の敵にしている相手が、自分の罠にはまって現在進行形で窮地の状態。

つまり、ここで奴をひとひねりすればセルパンカンパニーの英雄とか言われちゃったりするんじゃない?

ボーナスにめちゃくちゃ珍しい深海魚とか貰えちゃうんじゃない?

渡された資料には「二人組」とか書かれていたけどそんなに気にしない、今はこのガキを倒すことだけを考えろ!

レグアンカーの瞳が、海底を調査する潜水艦のライトのように光りました。しかし、テンぱっているせいで敵に背を向けているヴァンは、そのことに気づきません。

「どうする!このままだと俺、アイツのコレクションの一部にされちまう!」

『・・・アイツにソッチ系の趣味は絶対ないと思うけど・・・まあ、ピンチといったらピンチよねー』

同じ窮地に立たされているというのに、モデルLに緊張感という文字はありません。実態が目の前にあるのなら、絶対にそっぽ向いているような声色でした。

『なーなーヴァンー、早くこんな狭っ苦しいトコから出て、あのクラゲもどきぶっ倒そうぜー』

「クラゲもどき!?」

モデルFの飽き飽きとした一言が、イレギュラーよりも質の高く、優れた能力を持つフォルスロイドであるレグアンカーの心にザックリと突き刺さったそうな。

敵が心に大打撃を受けたことも知らず、ヴァンはモデルFに叫びます。

「そうはいってもさあ・・・。お前も見ただろ?モデルLの攻撃じゃあこの壁は壊れるどころか傷一つつかない。他のモデルで試しても結局無駄骨だったし、脱出なんて・・・」

『お前さ・・・もしかして俺の存在忘れてね?俺だってライブメタルなんだけどなー・・・』

「・・・・・・ああ!」

モデルFとダブルロックオンをすることをすっかり忘れていたヴァン。ポンと手を叩いて思い出しました。

でも決して故意的に忘れていた訳ではなく、ただ純粋に、うっかり忘れていただけです。今までダブルロックオンを使っていたエールが、モデルFだけ一度も使ったことがなかったため、ヴァンはすっかりその存在を忘れていたのです。

『酷えよ!エールが使ってなかったモデルLは覚えてたのに、俺を忘れるってどういうことだよ!』

すっかり忘れられていたモデルFの怒りの声がヴァンの脳内に響きます。忘れていた自分が悪いので、弁解することは決してしません。

『エールに虐げられてたから、あんな受け身体制が身に着いちゃったのかな』

『言ってやるなモデルX。アイツだって辛いんだ・・・』

モデルXとモデルZの会話が、ヴァンの心にざっくりと傷を負わせました。
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