過去拍手置き場

□26話 因縁の対峙
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刹那、3つ首の竜の1つが紫色の光線を発射。着弾と同時に紫色で大人の背丈ほどありそうな大きなのドームを生み出したそれはアッシュたちを狙わず、後ろの絨毯を傷つけるではありませんか。
「え、何?いきなり肩透かし?」
「間違えたのかな?」
キョトンとする2人ですが、戦場では一瞬の油断でも命取り。
光線は2人の背後から絨毯をボロボロに傷つけ、瓦礫を巻き上げながら迫ってきているのですから。
『おい!後ろ!!』
『え』
モデルAの絶叫で背後の異常に気付いた2人、迫り来る紫のエネルギーを見た時には反射的に飛び跳ねて回避していました。
「危ないわね!怪我するでしょうが!」
「怪我するも何も消すつもりだから!」
思わずアルバートがツッコんでしまいましたが、攻撃の手は緩めません。
巻き上げられた瓦礫も難なく回避するも、別の竜が口から灰色の球体を複数を吐き出してきます。今度はしっかりアッシュたちを狙って。
「これぐらいなら撃ち落とせるよ!」
即座にバスターを構えたグレイはとっさに爆弾を撃ち落とし、目前に巨大な火柱を出現させるのでした。
「できた!」
「よくやったわグレイ!このまま反撃よ!」
「うん!」
2人の両手にあるバスターは同時に火を吹き、3つある竜の頭に弾丸のシャワーを浴びせます。
大抵のイレギュラーやフォルスロイドならひとたまりもありませんがその竜は苦しむ素振りも見せません。実はショットなんて当たっていないのではないかと錯覚するような反応に、2人のロックマンの額に汗が生まれました。
「な、なんで効かないの……?」
「どうしてー?」
『弱点が別にあるんじゃないか!?』
愕然としている暇はありません。竜の頭の1つがまた紫の光線を吐いてきました。今度は胴体の真下に紫のドームを生み出し、瓦礫を巻き上げながら勢いよく突っ込ませます。
「危ないっ!」
とっさに飛び跳ねて回避したアッシュでしたが、グレイは回避に間に合わずドームに片足をぶつけてしまいます。
「わっ!」
全身に電撃が走ったかのような痛みが流れると同時にグレイの体は宙に浮き、部屋の天井近くまで吹っ飛ばされてしまったのです。
「うーわー」
「グレーイ!」
助けに行きたいアッシュですが一瞬であそこまで飛び跳ねてしまっては手の出しようがありません。その歯がゆさを近くに落ちてた瓦礫を蹴飛ばして発散させた後、再び3つ首竜を睨みますが、
「丁度良いぐらいに無防備になってくれたね」
おそらくメカニロイドの内部でほくそ笑んでいるであろうアルバートの怪しげな声色に、アッシュの額に青筋が浮かび上がります。そして無言で向けられる二丁のバスター。
「何よその余裕な態度!その自信はどこから出てくるワケ!?ワケわかんないわねー!」
『その台詞、今までのお前に全部返ってくるぞ』
モデルAは冷静に諭しましたがアッシュの耳には届きません。届く寸前にシャットアウトされました。
その間にもアッシュのバスターは火を吹いて竜の頭を狙いますがやはり無傷。ショットが弾かれる音が響くばかりでまともにダメージが通っているとは思えません。
「このまま消し去ってあげよう」
アルバートが言うや否や、3つ首竜のうち左右の2体が低い位置まで降りてきて向かい合い、互いのツノとツノを接触するギルギリの距離までもっていきます。
なんということでしょう。その間から生まれたのは真っ黒な空間、俗に言うブラックホールというモノでしょうか、実際にブラックホールを見たことがないからわからないわーとアッシュ談。
あんなモノで何ができるとアッシュは内心余裕でした。ブラックホール誕生と同時に、すごい勢いと力で吸い寄せられるまでは。
「あわわわわわわわわわわぁぁぁ!!」
掃除機なんて比じゃない吸引力に彼女は地面に刺さったままの瓦礫を掴んで耐えるしかありません。生身の人間だったら瓦礫を掴んで踏ん張ることも、一瞬でもブラックホールの吸引力に逆らうこともできなかったでしょう。ロックマンだからこそ成せる技。
「ふぎぎ……キツイけどなんとか耐えれるレベルね……吸うだけなら向こうも何もできないでしょうし……」
「うーわー」
「そうねグレイ、アタシたちならなんとか……なんと、か?」
ハッとして見上げた彼女が見たのは、ブラックホールに吸い込まれていくグレイの姿です。空中で無防備な彼は情けない悲鳴をあげながら吸われていくではありませんか。
「ギャー!!」
どう見てもヤバイ光景にアッシュ絶叫。しかし手を離せば自分もブラックホールに吸い込まれてしまう状況。ミイラ取りがミイラになるような事態だけは避けなければなりません。
だからと言ってどうするのか、一瞬脳裏を過ぎったトランスオンの存在。誰に?何に?ヘリオスやカイゼミーネのような飛行型に変身しても、驚きの吸引力に耐えきれるかどうかもわかりません。
これ以上迷えばグレイがブラックホールに飲み込まれてしまう。ここまでかと思ったアッシュでしたが、天才的考えが降りてきました。
「グレイ!バイフロスト!」
「そっか!バイフロストにトランスオン!」
ぴっかーん。久しぶりのトランスオンは巨大なワニ型フォルスロイドでした。
さすがのブラックホールもこの巨体は吸い込めません。地響きを鳴らしながら着地したグレイは、
「やったー!なんとなったね!」
渋い声ではしゃいでいました。
「ふむ、こうなってしまってはいくら吸っても無意味だろう」
アルバートは特に悔しそうに言う訳でもなく、淡々と業務連絡のようなトーンでぼやいています。
「無意味ならとっとと諦めなさいよ!」
己の体を預ける物体を瓦礫からバイフロストの尻尾に代えたアッシュが吠えます。グレイも続いてそーだそーだと言っていますが、
「今の戦法が無意味なら別の手を使うまでだよ」
2人がギョッとするのもつかの間、何もしていなかった真ん中首竜が黒いエネルギー弾を複数吐き出してきました。
しかし、そのエネルギー弾たちはアッシュたちには見向きもせず、曲線を描いてブラックホールの中に吸い込まれていき、あっという間に消滅。
「え?」
「へ?」
突拍子も無い行動にキョトンとするのもつかの間、突如上空からエネルギー弾が雨のように降り注いでくるではありませんか。
「あわわわわわわわわわわわ!!」
「うひゃー!?」
とっさに避けようにもバイフロストの巨体では素早い動きはままならず、ひたすらに弾丸の雨を受け続けるしかありません。こうなってしまえば便利な巨体もただのでかい的です。
瞬きひとつする度にボディがボロボロになり、傷だらけになっていくグレイから悲鳴が何度も飛び、
「グレイ!戻って!」
アッシュのひとことにより正気に戻った彼は、トランスオンを解除しました。
「痛かったよ……」
「よしよし、よく耐えたわさすがグレイよ」
丁度、弾丸の雨もブラックホールによる吸引もなくなったようです。メカニロイドの前のブラックホールは消滅し、上空に浮かぶ白い空間も消えてしまいました。
「な、何あれ」
「ブラックホールがあるならホワイトホールもあるに決まっているじゃないか」
『ホワイトホール!?』
アッシュとグレイ、驚愕。
「よ、よくわからないけどブラックホールに吸い込まれてもあそこから出て来られるってコトね……なんてこと、踏ん張り損じゃない」
「僕はダメージ受け損だよー」
なんだか酷く損をした気分になってため息をつく2人。出口があるとはいえブラックホールに吸い込まれたらさすがのロックマンでもタダでは済みませんが、アルバートは黙っておきました。
「……まあいいか、もうそろそろ諦めた方がいいんじゃないかい?続ければ続けるほど苦痛を受ける時間が長引くだけだから、よほどの特殊性癖じゃない限りはおススメできないな」
まるで……というか確実に降伏を促す言葉でしたが、アッシュにとってはただ喧嘩を売っている言葉にしか捉えられません。
「なによ偉そうに!自分がこの世で一番偉いとでも思ってるの!?何様のつもりよ!」
『もうアッシュはアルバートに文句つけるのやめとけ。全部ブーメランになって返って来てるんだからさ』
モデルAの静かなツッコミは憤慨している彼女の耳には届きません。グレイといえばさっきアッシュに押し付けられたE缶を一生懸命飲んでおり体力回復に専念中。ごくん、飲み終わりました。
「おいしかったー」
「そうかい。じゃあ最後の晩餐はもうおしまいだね」
「へ?」
首を傾げると同時に頭上を真ん中首竜が首を伸ばしてゆっくりと通過、2人から30メートル離れた位置で角を床に突き刺し、ガリガリと音を立てながらこちらに向かって迫ってくるではありませんか。
「大変!あのままじゃ僕たちごとがりがりされちゃうよ!」
「ヤバイ……確かにヤバイ……けど!あんなのどうやって対処するのよ!ショットはまるで歯が立たなかったでしょ!?」
「でも何もしないよりもする方がいいと思う!2人で一緒にショットを撃ってみようよ!チャージショットとかホーミングショットとか全部!ギガクラッシュは動けなくなっちゃうからダメだけど!」
少年の力強い台詞にアッシュは言葉を詰まらせます。自分よりも小さな子が、世間知らずでほっとけなかったあの子が、もしかするとアルバートになっていたかもしらないあの子が。
迷っている間にも、どんどん首は迫ってくる。
選択の余地はなさそうです。
「……よし、やるわよグレイ!今までの恨み辛み妬み嫉み怨念執念等々!ありとあらゆる負の感情をアイツに浴びせてやるのよ!」
「うん!」
恨み辛み等々を全く知らなさそうな笑顔を浮かべ、グレイはバスターを迫り来る竜の頭部に、アッシュも同じくバスターをそちらに向けて準備完了。
アルバートが無駄なことを……と、ほくそ笑みながら言っているであろう台詞を呟いていました。
『どりゃあああああああああああああああ!!』
雄叫びと共にそれぞれのバスターが火を吹きます。かつてない勢いと火力で、ありったけのチャージショットとホーミングショットを打ち続け、バスターがオーバーヒートして壊れてしまうのではないかと心配する勢いで。
武器の心配をする余裕などアッシュたちにはありません。ここで火力負けすれば全てが終わる、そんな思いを背負いながらショットの嵐を叩きつけ、

ガキン

金属が弾ける音がして、竜の首が跳ねて角が地面から抜けました。
そして、かすかに出来たヒトひとりがなんとか通れそうな隙間。
「今!」
「いまだ!」
と同時にダッシュで駆け抜け、その隙間を抜けて脱出に成功。窮地を逃れることができました。
「ふむ、ここを突破するとはねぇ……」
大した感情を見せず、静かにぼやいたアルバート。これぐらい想定済みだと言いたいような台詞。
首が上がったままの竜の頭は胴体手前で止まっています。その下にアッシュたちがいなくてもお構いなしという顔をしているような気がします。
「とりあえず首を元に戻して……」
首が勢いよく振り下ろされ真っ赤な角が地面を引き裂き……
ちょうど真下にあった瓦礫を弾き飛ばし、メカニロイドの腹部に激突させました。
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